海上自衛隊でもメシマズな船はあるらしい。毎週金曜日のカレーを筆頭に、メシが美味いのが当然なイメージのある海上自衛隊。最近では各所の「海自カレー」が名物として売り出されているのはご存じの通り。しかし、5年前まである護衛艦に勤務していた、元自衛官の30代男性は、こう証言する。(文:昼間たかし)
「各艦がすべてメシが美味しいわけではありません。中にはとんでもない艦もあるんです。自分の乗っていたのは、まさにそれだったんです」
あまりのメニューにそのまま残飯入れに捨てる人も
護衛艦でメシマズとは、にわかに信じがたい話である。なぜなら、艦内で食事を作るのは専門の技術を持った「給養員」と呼ばれる隊員だからだ。防衛省の資料によれば、 「経理補給要員として約2年間艦艇部隊等で勤務した後、第4術科学校の海士給養課程を経て、給養員となる」システムだ。なのに、男性の乗っていた護衛艦は、メシマズが極まっていた。
「とにかくすべてが酷かったんです。なんとなく味付けが美味しくないなら、まだマシ。ちゃんと調理しているのか疑うようなこともよくありました。古くなった魚の切り身を、下処理せずに使った、魚臭いだけのすまし汁なんてのも、当たり前でした」
そんな艦内にさらなる激震が走ったのは、ある長期行動の時のこと。
「配分を間違えたのか、あと数日で入港という時になって、食材がほとんどなくなってメニューが野菜炒めだけになってしまったんです」
野菜炒めで、ご飯をかきこむしかないかと暗澹たる気分で食事の列にならんだ男性。しかし、そこには予想外のことが待ち構えていた。
「みんなご飯と別皿に盛られた野菜炒めをイメージしてたんです。でも、用意されていたのはご飯に、漬物程度の量の野菜炒めが添えられたものだったんです……」
これにはさすがに激怒する隊員も出た。
「中には抗議の意志で、食べることを拒否して、そのまま残飯入れにたたき込む人もいましたよ。その時点で入港まであと2日。みんな手持ちのお菓子などを食べて『もうすぐ入港だからな』と連帯感は強まりました」
ちなみに、士官クラスだけは佃煮がついていたという。
給養員がほぼ全員入れ替わると…
そんな艦が変化したのは、人事異動で給養員を取り仕切る分隊長が交代してからのこと。
「あまりの酷さにブチ切れて、給養員がほぼ全員入れ替わりました。とたんにマトモな食事が出るようになりました」
それまではなかった、食事に関するアンケートも実施されるようになり、メニューの内容も見違えるものになったという。
「結局はやる気の問題でしょう。“はしだて”(海上自衛隊が式典や会合に用いる迎賓艦)を見学して食事をいただいたときは、同じ課程を修了した給養員で、ここまで違うのかと思いましたよ」
酷い食事に悩まされながらも、耐え抜いた艦の面々を褒め称えたい。