2023年12月22日 10:41 弁護士ドットコム
多様な背景を持つ法曹が必要だとして、司法試験制度が変わって15年超。当初74校あったロースクールは半減する一方、ローを経由しない予備試験が人気になるなど、当初の目的が揺らいでいます。
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弁護士ドットコムは今年10月、新制度が始まった60期以降の弁護士500人にアンケートを実施しました。弁護士たちはロースクール制度をどう考えているのでしょうか。
※パーセンテージは小数点第二位を四捨五入しているため、合計して100にならないことがあります
※アンケートの概要は雑誌『弁護士ドットコムタイムズ69号』(2023年12月)にも掲載しています
まず回答者500人の属性です。どの試験から弁護士になったかの割合は次の通りです。
・大学在学中に予備試験から合格:1.0%
・大学卒業後に予備試験から合格:4.0%
・ロー在学中に予備試験から合格:3.0%
・予備試験に合格したが、ロー修了後に合格:5.0%
・ロー修了資格で合格:87.0%
ここから、次のように整理できます。
・ロースクールの在学経験:あり(95.0%)、なし(5.0%)
・予備試験の合格経験:あり(13.0%)、なし(87.0%)
今回の記事では、ロースクールに在学経験がある475人(95.0%)の声を中心に見ていきます。
まず、司法試験予備校に通っていたかどうかを任意で聞いたところ、475人中258人(54.3%)がなんらかの学校の名前をあげました。この258人のうち63人(24.4%)は複数の予備校の名前をあげています。任意での回答のため、実際の予備校利用者はもっと多いと考えられます。
具体的な予備校名では、多い順に伊藤塾(53.9%)、辰巳法律研究所(32.9%)、同率でLEC、早稲田セミナー(11.2%)、アガルートアカデミー(6.2%)などとなりました。
ロースクール制度は、司法試験予備校依存や知識・受験技術偏重のアンチテーゼとして始まりましたが、ローに通っているから予備校はいらない、とはならないようです。
では、在学経験のある弁護士はローの教育内容をどう評価しているのでしょうか。
ローの授業が「司法試験の受験勉強に役立ったか」を聞いたところ、結果は次の通りで、ポジティブな評価が74.9%、ネガティブな評価が13.7%となりました。
・役に立った(44.4%)
・やや役に立った(30.5%)
・どちらともいえない(11.4%)
・あまり役に立たなかった(9.7%)
・役に立たなかった(4.0%)
以下に代表的なコメントをまとめました。全体的な傾向としては学者系教員の授業内容が満足度に直結しているようです。「高得点で受かるための勉強」とのコメントがあるように、受講時のレベルも影響する可能性がありそうです。
▼役に立った、やや役に立った
「予備校でのパターン的な思考ではなく、法律学の勉強の仕方を学んだ」
「講義のレベルが高かったので予習復習に少し足しただけで司法試験合格水準に達することができた」
「司法試験の勉強と法科大学院の授業に乖離はあり、司法試験対策としては的外れな側面もあるが、わかりやすく法律を講義し、司法試験の解答が書けるよう法律の理解が進んだという側面もある」
「ロースクールの授業は試験で良い答案を書くための訓練というよりは理解をさせるための場であり、答案作成の訓練は別途必要だった」
▼どちらともいえない
「ロースクールで習うことは司法試験に受かるレベルの最低限の知識があることを前提として、高得点で受かるための勉強だと思った」
「授業、教員によって役に立ったり、立たなかったりする」
「ローの自主ゼミが合格に直結した」
▼役に立たなかった
「一部の学者系の教授が学者だけが興味ある些末な論点などにこだわっている」
「基礎(重要条文・重要判例)ができていないのにもかかわらず、およそ司法試験で出ないような高度な講義ばかりしている教授が多かったから」
「試験に関係ない問答が多かった」
教育内容について、「弁護士としての仕事に役立っているか」という角度からも聞いてみました。
結果は次の通りで、ポジティブな評価が70.8%、ネガティブな評価が14.6%でした。本当にごく僅かですが、「受験勉強の役に立ったか」より満足度が下がっています。
・役に立っている:33.3%
・やや役に立っている: 37.5%
・どちらともいえない:14.7%
・あまり役に立たなかった:9.3%
・役に立たなかった:5.3%
代表的なコメントは以下の通りです。具体的に役立ったカリキュラムとしては、要件事実やソクラテスメソッド、法曹倫理があげられていました。一方、学者系教員の高度な授業については評価が分かれているようです。
▼役に立った、やや役に立った
「司法試験の選択科目ではない授業を履修し、体系的に学べたので、街弁として最低限の対応ができている」
「実務で使わない分野でも意外なところで考え方などが似通っていることがある」
「判例の読み込みや調査など、旧司法試験の勉強より実務に近いと感じた」
「実務教材を使った授業、実務の場に近いプログラム(ローヤリング、クリニック、エクスターン)などが、進路選択にも対人スキルを身につける上でも役立った」
▼どちらともいえない
「一般的な知識としては当然役に立ったが、学説などはほとんど使わない。人間関係は、教員・同窓ともとても役に立つ」
「ロースクールに通う前の社会人経験のほうが役立っているように思われる」
「あまり関係のない分野に行ったため」
▼役に立たなかった、あまり役に立たなかった
「最新の講学的な授業だったが、実際の一般実務では使い古された基礎、基本が殊更大事であり、ある意味それで事足りる」
「実務には直結していない重箱の隅をつついたような議論ばかりを取り扱っている」
ロースクールの良さとして教育内容だけでなく、人間関係をあげる人も多くいました。
「ロースクールの思い出」を答えてもらったところ、学友との日々をあげるコメントが数多く寄せられました。困難な勉強も友人がいたから乗り越えられたという弁護士が少なくないようです。
以下に代表的な思い出をまとめました。
▼人間関係に恵まれた
「実務家教員、先輩後輩、同級生など、つながりの深い法曹の人脈が得られた」
「司法試験直前に病気で2週間入院したが、同級生、先輩、後輩が毎日のように代わる代わるお見舞いにきてくれた。法曹資格よりも大切な財産ができたと思った」
「生涯の伴侶を得た」
▼勉強が大変だった
「一日10時間以上、黙々と勉強を続けた日々は今となっては貴重な時間だった」
「フルタイムで働きながらの勉強だったため、勉強時間の捻出などに苦労した」
「あまりに過大な事前課題が出されていた科目についてクラスの代表複数が教員と協議して課題を減らしてもらった」
最後にローに通わず司法試験に合格した弁護士も含め、全500人に法曹養成のあり方について自由に意見を書いてもらいました。予備試験合格者からは「ローは不要」など厳しめの意見も出ました。
▼司法試験の受験者数、合格者数
「合格率は20%程度でないと、ふるいとして機能しないのではないか」
「優秀な人材が集まらなくなると、三権分立の一つである司法が成り立たなくなるおそれがある。法曹志望者をいかにして増やすかという観点が重要だ」
▼ロースクールの教育について
「実力がある者は予備校に通い、予備試験を受験する傾向が強まっている。ロースクールでしか磨くことのできない能力の開拓などカリキュラムの再考が必要」
「受験者数が減り、合格しやすくなっているので、本来の意義を念頭に法学の本質を伝え、実務の架け橋となるべく教育を充実させてほしい」
「ロースクールの授業は実務家になってからのほうが身になるので、リカレント教育の場という位置付けが相応しいのではないか。司法試験合格をメインに据えると、試験に関係ない部分を聞き流してしまう」
▼弁護士の多様性
「学生からストレートに上がってくる人が増え、主体性や積極性に欠けたり、安定思考の新人が増えているように感じる」
「ロースクールが少なくなり、地方からでは通いにくい」
「金銭的な負担を考えることなく、自由に司法試験にチャレンジできるようにしてほしい」
▼キャリア支援
「ロースクールの留年率を下げてもらいたい。せめて卒業できれば、法務部などへの就職の道も開ける」
「ロースクール卒、複数受験で合格しなかった人のキャリア支援は本気で考えるべき。学歴の割に就職先の選択肢が狭すぎる」
▼ロースクール不要論
「現状のロースクール制度は余りにも時間的・経済的負担が大きい。旧試験時代に戻して、修習を少なくとも1年半にするなど充実させるべき」
「予備試験を正式な司法試験に格上げすべき。ほぼ全員が本試験に合格する予備試験合格者に本試験受験のために1年間の無駄な時間を過ごさせるべきではない」