2023年12月20日 22:01 弁護士ドットコム
仙台高裁の岡口基一裁判官(職務停止中)の弾劾裁判の第12回公判が12月20日、裁判官弾劾裁判所(裁判長:船田元議員=衆・自民=)であり、岡口判事の本人尋問がおこなわれた。
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岡口判事は、問題になった女子高生殺害事件の判決を紹介する投稿について、悲惨さを強調することで、量刑の軽さを感じてほしかった、などと述べた。
また、裁判所の情報リークにより、マスコミ各社が自身を批判的に報じたと主張。裁判所当局への不信感が増していったと話した。
この日は弁護側からの主尋問だけで、次回期日の1月24日に訴追委員会からの反対尋問がある。
尋問中、岡口判事がメディアによる表現行為の「切り取り」を問題視し、裁判員などを務める政治家に向けて「皆さんも不快な思いをしていると思う」などと語りかけるシーンがあった。今回の主なやり取りは以下の通りだが、極力意味を損ねないよう配慮しているものの、記者のメモをもとにしたもので、必ずしも一言一句忠実なものではない。
ーー裁判官になろうと思ったきっかけは
「司法修習中、民事裁判官の実務を間近で見た。実務家向けの知識、情報に関する書籍がなく、調査に時間がかかっていたので、自分で本(編注:後の『要件事実マニュアル』とみられる)を書いているうちに民事裁判を担当したいと思うようになった」
ーーどんな裁判官を目指していたか
「事件処理、判決において濃密な、パーフェクトな裁判官」
ーー働いてみて目標は変わったか
「当事者と話したり、向き合ううちに、当事者を紛争から助け出すことが大事だと思うようになり、判決より和解中心になっていった」
ーーどんな気持ちで裁判に臨んでいるのか
「民事裁判の当事者はお金も時間もかかる。その思いを受け止めて事件処理をしている」
ーー育ちとの関係もあるのか
「親が牧師で、『基一』という名前はキリストの前では上下なく、みんな一つという意味の聖書の一節から来ている。当事者の属性にとらわれないことを意識している」
【編注】この日、尋問に先立って弁護側から証拠説明がおこなわれ、岡口判事が関与した(1)トランスジェンダー当事者の名前変更を認めた審判、(2)脳脊髄液減少症と交通事故の因果関係を初めて認めた判決、(3)新潟水俣病の被害を認定した判決ーーの当事者や研究者が提出した、岡口判事は裁判官にふさわしいとする意見書が法廷で一部読み上げられた
ーーウェブでの発信はいつ頃からか
「1997年ごろ、裁判所の職員向けに書記官試験のための勉強会を開いていた。参加者から参考答案をウェブで見られないかという声があったので、参考答案や法律情報を載せるウェブサイトをつくった。法律家が書面を作成するときに使うソフト(編注:「岡口マクロ」とみられる)などをつくって載せることもあった」
ーーそのサイトはどうなったか
「東大ロー生がコメント欄に私に対する殺害予告を書き込んだことで、当時勤務していた大阪高裁で大問題になり、自宅に警察がパトロールに来るようになった。大阪高裁の事務局長からサイトを閉鎖するよう言われ、(一連の対応で)裁判所職員に迷惑をかけた責任をとって2006年ごろに閉鎖した」
ーーツイッター(現・X)とフェイスブックの利用はいつからか
「ツイッターは2008年ごろ。フェイスブックも同じ頃だが、ツイッターのほうが早かったと記憶している。投稿内容はほぼ一緒で、1日の投稿は10~15程度。
ただし、ツイッターは140字以内で匿名、フェイスブックは実名と世間の位置付けが違った。ツイッターは面白ネタ、フェイスブックは法律家向けの本格的な投稿など、使い分けることもあった」
ーー上半身裸やブリーフの画像の投稿について
「ツイッターにだけ投稿していた。プロフィールでは裁判官を名乗っておらず、プライベートとしてやっていた。すべてをさらけ出して、みなさんと楽しんでいることを表現したかったのだと思う。
ツイッターは8年間やったが、投稿は4万ツイートぐらい。そのうち、裸の投稿は30件くらいなので、0.1%もいかないくらいだ」
ーー画像投稿について何か言われたか
「東京高裁の事務局長から事情聴取を受けた。過去ツイートをすべてプリントアウトして、マーカーが引かれていた。
当局は自分にツイッターをやめさせようとしていると思った。SNSをするとおかしな投稿をして新聞ネタになってしまう。何もさせないのが安全という考え方があったのだと思う」
ーーその後、厳重注意処分を受けている
「約4万ツイートのうち、対象になったのは3件。しかも事情聴取のときには聞かれず、説明の機会がなかったツイートだったので、手続保障がなかったと思った。しかし、仕組みがないので不服申し立てができなかった。
マスコミに報道されたが、裁判官に対する厳重注意処分はしょっちゅうある。普通は報道されていないので、高裁がマスコミにリークしたのだと思い、当局の悪意を感じた」
ーー2017年に女子高生殺害事件の高裁判決について、今回問題になっている投稿(刑事事件投稿)をした
「裁判所のウェブサイトで新着の裁判例を探していたところアップされていた。死刑相当だと思い、量刑的に(無期懲役は)おかしいと思った」
ーーどうして「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」「そんな男に、無惨にも殺されてしまった17歳の女性」と書き込んだのか
「現役の裁判官なので確定していない事件についての批判は許されないと思った。ツイートの本文は判決要旨から抜き出し、『無惨にも』を付け足した。
読み手が私のツイートの内容と、無期懲役判決とのギャップを感じることで、私が不当な判決だと思っていることを理解してもらおうと思った」
ーー東京高裁から厳重注意処分を受けた
「判断は不当だと思っている。リークしてマスコミに報道させた裁判所に不信感を持っている。
自分はこれまで講演会に出るなど、犯罪被害者の支援に携わってきた。真意が伝わらなくて遺族には申し訳ない。SNSは本当に怖いと思った」
ーー「『内規に反して判決文を掲載』したのは、俺ではなく、東京高裁(^-^)」とツイートしている
「メディアの記事の中には、『内規に反して判決文を掲載』の主語がなく、私が内規に反したようにも読めるものがあった。それを(メディアの記事URLとともに)指摘した弁護士のツイートに『その通り』の意味で投稿した」
ーー遺族の目に触れるとは思わなかったのか?
「リプライなので思わなかった」
ーーツイッターの機能上、フォローしていたらタイムラインに出てくるのでは?
「そうだが、裁判所や遺族がフォローしているとは思っていなかった」
ーー笑顔の顔文字の意味は?
「マスコミに対するアイロニー(皮肉)。それ以外の意味はない」
ーー犬の所有権をめぐる裁判の紹介で、「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3カ月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、『返してください』 え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3カ月も放置しておきながら・・・裁判の結果は・・」と記事のURLをつけて投稿した
「内容の概略を短い文で紹介した。被告を主語にしたほうが一番わかりやすく、クリックしてもらいやすいと思った。
読み手に実際の裁判を題材に考えてもらいたかった。裁判に携わる人は生の事例を使って議論している。
元の記事は仮名処理されている。犬の飼い主が誰かはわからず、社会的評価は下がらない。当事者は傷つくかもしれないが、社会として許されている行為だとご理解いただきたい」
ーー東京高裁の長官から聴取を受けている
「一方的に怒鳴られた。とにかくツイッターやめろ、やめないと分限裁判にかけてやる、かけられたら裁判官として終わりだぞ、と。不信感が高まった」
ーー実際に分限裁判になることは予想していたか?
「ツイッターをやめていなかったので予想はしていた。あそこまで啖呵を切って、申し立てないことはないと思っていた。裁判所への不信感が絶頂に達した」
ーー分限裁判になってどう思った
「懲戒処分になると思っていた。ただ、それだと自分が裁判官を辞めるだけになってしまうので、『分限ブログ』を立ち上げた。裁判官の独立をめぐって、のちの研究材料になると思ったので、分限裁判に批判的な法律家の投稿を掲載するようにしていた」
ーー2018年10月5日、ブログに「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁つけているだけですよ」との見出しを付けた文章を掲載した
「A弁護士(編注:法廷では実名)を批判する遺族のツイートについて、B弁護士(編注:同)が引用リツイートした投稿をそのまま紹介したもの。
民事裁判でも不法行為だとは判断されていない(編注:遺族側が控訴し、高裁判決が2024年1月に言い渡される予定)」
ーー現代ビジネスのインタビューで、遺族が「4回も『傷ついた理由』を変えている」と発言した
「意図を理解して謝罪したい、しっかり理解したいと考えている。
最初のリプライでは判決文を公開したことを問題視されていたが、ツイートの文言が問題だったという報道が出た。その後、クリック1つで拡散されたことに傷ついた、私のおちゃらけたツイッターで紹介されたことで傷ついたと変わっている」
編注:遺族の当初のリプライは次の通り。「被害者の母親です。なぜ 私達に断りもなく判決文をこのような形であげているのですか?法律にふれない行為かもしれませんが、非常に不愉快です。」
ーー遺族が傷ついたこと自体についてはどう思っているのか?
「被害者支援に思い入れがあったのでショック。傷つけてしまったことを反省している」
ーー遺族が「洗脳」されているとフェイスブックに投稿した
「C弁護士(法廷では実名)が情報公開請求で、裁判所の内規を入手し公開していたので、その紹介のつもりで投稿した。私は民事の裁判官なので、刑事の内規を知らない。知っていたら、(女子高生殺害事件の裁判例は)紹介しなかったと思う。
フェイスブックの『友達』限定のつもりで軽口を叩いてしまった」
ーー「洗脳」とはどういう意味か?
「自分はそんなにネガティブな意味で捉えていない。東京高裁がリークして、毎日新聞がとりわけ報道すると、遺族が一人岡口が悪いと思うのも仕方がない、というような意味。
投稿は法律関係者に対する一種のぼやき。(被害にあった女子高生の)命日だとは知らなかった」
ーーその後、「遺族のみなさまへ」と題する投稿をした
「世の中で『洗脳』が非常にネガティブな意味だと知って、遺族が目にしたのならフェイスブックに投稿するのが早いだろうと思った」
ーー「私のフェイスブックを毎日読んでくださっており、〔…〕ありがとうございます」というのは違和感があるが
「フェイスブックに投稿する経緯を明らかにするため。自分の中では違和感はない」
ーー東京高裁や訴追委からの聴取で、事件については投稿しないと言っていたのではないか?
「言った」
ーー発言と行動に矛盾はないのか?
「反論や謝罪のために必要になった」
ーー今振り返って、どう思う
「必要性はあったにしても、第三者に投稿してもらうなど、今思えば別の手段をとるべきだった」
ーー今後の発信はどうしていくのか?
「より慎重に投稿したい。私も妻もリタイアして時間ができる。これまでは裁判官と(法律書の)人気作家の大変な日々で、そこでミスが起きてしまった。時間ができるので、投稿の前に妻に見てもらうなど工夫して投稿を続けていく」
なお、今回の主尋問では、「遺族を担ぎ出した訴追委員会」というタイトルのブログ記事についての質問もあったが、階猛第二裁判長代理(=衆・立民=)の指摘により、弁護側がスクリーンに投影した証拠と、裁判員に配布された証拠とで、証拠番号が一致しないことが判明。次回期日の冒頭に延長されることになった。
また、出席した裁判員は12人。12月14日付で辞任した山下貴司裁判員の後任は未だ決まっておらず、松山政司第一裁判長代理(参・自民)、福岡資麿裁判員(参・自民)が欠席。代わりに予備員から塩田博昭氏(参・公明)が裁判員として参加した。