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「結婚しても騎手続けるの?」藤田菜七子さんらに“時代錯誤”の質問…ハラスメントになる?

2023年12月20日 10:01  弁護士ドットコム

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日本中央競馬会(JRA)の女性騎手らがイベントで「結婚したら騎手を続けるか」と問われる場面があったと報じられている。


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報道によると、12月18日に開かれた中山馬主協会主催の忘年懇親会トークショーで、協会会長が騎手の藤田菜七子さんら女性5人に尋ねた。「自分のことで精いっぱい」「続けたい」「両立は考えられない」などの回答があったという。



トークショーでの一幕とはいえ、もし相手が男性だった場合に「結婚しても騎手続けるの?」と質問することはまずないだろう。



「結婚した女性は仕事を辞めるもの」という価値観に基づく発言ととられかねないが、ハラスメントにはならないのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。



●「ジェンダーハラスメントに該当しうる

——どのようなハラスメントになり得るのでしょうか。



今回のケースで問題になりうるのは「ジェンダーハラスメント」に該当するか否かでしょう。



ジェンダーハラスメントとは、性別によって社会的役割が異なるという固定化された概念にもとづく嫌がらせや差別のことです。



たとえば、家庭での「男は仕事をして家庭を守れ」「家事は女の仕事だ」、職場での「得意先を接待して帰宅が午前様になるなんて営業担当の男なら当たり前だ」「お茶くみは女の仕事だ」といった固定概念に基づく性的役割分担や、「男らしさ・女らしさ」といった価値観を当然とする思考に基づく行為が当てはまります。



——今回のケースはジェンダーハラスメントに当たるのでしょうか。



「結婚したら騎手を続けるか」という質問は、騎手という己の能力と努力で地位を築く職業であっても、「女性ならば結婚したら引退するのが当然でしょ」あるいは「結婚しても騎手を続ける覚悟ですか」という思考が前提にあっての発言だったと思います。



したがって、質問を向けられた女性騎手らに対するジェンダーハラスメントに該当するといえるでしょう。



——この手の発言はいまだ珍しくないように思われます。



性的な言葉や行為、または性的な意図を持つ言動によって、他の人に不快な思いをさせたり、嫌がらせをしたりする「セクシャルハラスメント」は、許されない行為であることが今や十分世間に浸透しています。



それでもセクハラ被害は後を絶ちません。加害者側も「よくないことだ」「違法なことだ」と理解していても、なお一線を越えてしまうケースが多いように見受けられます。



しかし、ジェンダーハラスメントは、セクシャルハラスメントと違って、その概念や悪弊が世間に広く浸透しているとまではいえないと思います。ジェンダーハラスメントに当たる発言をする人も、自己の質問や発言の問題性に気付いていないパターンが少なくないのではないでしょうか。




【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html