2023年12月18日 10:01 弁護士ドットコム
親族の介護は経済的にも精神的にも大きな負担になるため、トラブルが発生しがちです。弁護士ドットコムに相談を寄せた人の場合、ほとんど接点のなかった病気の叔父の介護に悩んでいるといいます。
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相談者の叔父はある日突然、離婚と退職をして数十年ぶりに地元に帰って来ました。不審な言動が多いため病院に連れて行くと、若年性の認知症だと判明。興奮状態になると失踪したり暴力を振るったりすることもあり、幾度となく警察沙汰になったそうです。
相談者は「生まれて数回しか会ったことがない叔父の介護をしなくてはいけないのでしょうか」と質問を寄せました。
相談者の祖母(叔父の母親)は高齢で介護は難しく、相談者の母(叔父のきょうだい)や兄(叔父の甥)も介護はしたくないと考えています。
叔父に妻子がいない場合、扶養、介護の義務は誰にあるのでしょうか? 母が亡くなった場合には、姪の相談者が主な責任者となるのでしょうか。平野由梨弁護士に聞きました。
——この叔父に妻子がいない場合、介護の義務は誰にあるのでしょうか?
妻子がいない場合は、叔父の母親か、叔父のきょうだいである母が互いに扶養の義務を負うことになります(民法877条第1項)。ただ、扶養義務といっても、扶助、すなわち助ける、援助するという意味であり、実際の介護行為を強制される訳ではありません。
もし、叔父の母親ときょうだいが亡くなった場合は、「特別な事情」があれば、三親等内の親族に当たる、相談者と兄が扶養義務を負うことになります(同条第2項)。しかし、この場合は、かなり限定された事情が必要な「特別な事情」が必要で、家庭裁判所の審判で義務が認められた場合にのみ、扶養義務が発生することになります。
また、裁判所からの審判で強制されるのは、金銭の支払いであり、それ以外に具体的な行為を強制されないとされています。
——もし全員に介護をすることができない事情があれば、拒否することはできるのでしょうか?
1項の扶養義務者(叔父の母親か、叔父のきょうだい)が居ても、2項の方(三親等内の親族)が扶養義務を負うこともあります。また扶養義務者が複数居る場合は、話し合いをしてまとまらない場合は、誰が優先して義務を負うのか、連帯して義務を負うのかなどを裁判所で決めることができます。
今回の扶養義務者の方々が負う扶養義務は、夫婦間や親の未成年の子に対する扶養義務である「生活保持義務」と異なり、「生活扶助義務」というものに当たり、自らの生活を犠牲にしてまで扶助しなければならないものではないため、その方の生活状況から、扶養が困難であれば、具体的な扶養義務を負わないと主張することも可能です。
——もし介護が困難な場合、どのような手続きをすればよいのでしょうか?
扶養義務者全員が、扶養できない事情があれば、叔父さんが、生活保護を受給して、その範囲で入所可能な施設で生活をしていくなど、公的扶助制度を利用していくことになるかと思います。
扶養義務を果たせない場合に、扶養義務者もしくは扶養義務者に当たる可能性がある方が手続きを取る必要は特段ありません。
ただ、叔父に関する支出が生じていて、その支払請求があった場合には、その支払を拒否すると、扶養義務者に当たるとして、裁判所の手続きを申し立てられることもあるかもしれません。
【取材協力弁護士】
平野 由梨(ひらの・ゆり)弁護士
藍法律事務所所長弁護士。愛知県弁護士会高齢者・障害者総合支援センター運営委員会副委員長。
事務所名:藍法律事務所
事務所URL:https://www.ai-law.jp