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実質強制「職場の忘年会」残業代はもらえる? 「業務なら労働時間にカウントして」の声

2023年12月17日 09:41  弁護士ドットコム

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年末の「忘年会」シーズンとなり、すでに出席したという人も多いのではないでしょうか。コロナ禍で実施しなかった職場でも、「5類引き下げ」となった今年から復活するところもあるようです。


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一方で、東京商工リサーチが4747社を対象に実施したアンケートでは、「企業の忘年会離れが進んでいる」としています。「参加に抵抗感を示す従業員が増えた」「労働時間としてカウントされる恐れがある」などの理由で、「コロナ禍前は実施していたが、コロナ禍の今回は実施しない」と回答した企業は21.8%に上ったようです。



SNSでは「労働時間」のワードに反応する様子が多く見られます。「仕事以外でのコミュニケーションは地雷満載」「社員間コミュニケーションを円滑にするのは業務のためなのだから労働時間に参入して当然なのでは」といった意見のほか、「労働時間中の昼間にやればいいのでは」という提案も上がっていました。



忘年会に参加したくないと思っている人にとっては、せめて仕事と同じ扱いをしてほしいのかもしれません。もっとも、忘年会への参加が「労働時間」として認められることはあるのでしょうか。半田望弁護士に聞きました。



●忘年会が“労働時間”に当たるケースは「あり得る」

——忘年会への参加が「労働時間」になることはあるのでしょうか。



「労働時間」とは、労働者が雇用主(使用者)の指揮命令下にある状態をいいます。



実際に労務作業に従事している状態は当然ですが、それ以外でも指示があれば業務に服する必要がある時間(いわゆる手待ち時間)も労働時間となります。逆に、使用者の指揮命令から解放されていれば、それは労働時間ではありません。



忘年会等の会社主催の行事についても、会社から参加を義務づけられていたり、参加しないことで人事や考課上のマイナスがある等のペナルティがある場合には、使用者の指揮命令を受けている状態として労働時間と扱われ、法律の定めによる割増賃金も発生します。



——労働時間に当たるか否かはどのように判断されますか。



一義的には判断しにくい面もありますが、社長や役職者、上司等の断りにくい相手方から強く参加するよう促されたり、「当然参加だよな」とか、「みんな参加しているのだから」など不参加によるペナルティを匂わせるような発言があった場合には、参加するよう指揮命令を受けたとして労働時間に当たると評価される可能性があります。逆に、名実ともに参加しない自由があり、かつ不参加による不利益が生じない場合には労働時間とはなりません。



忘年会の費用を会社が負担している、または労働者の積立から支出している場合もあると思います。このような場合に欠席者に対し積立金の返金がなされなかったり、参加者を過度に優遇するような場合には、参加しないことで経済的な不利益を受けることになり、参加が事実上強制されていると評価され、労働時間に当たる可能性が高くなると思われます。



●「通常の業務時間内に実施するのもアリ」

——忘年会を開催する側としては、どんな点に留意すべきでしょうか。



参加が任意であることを明確にしたうえで会費制で実施する、あるいは会社が費用の一部または全部を負担するとしても、参加しない労働者に対しても参加した労働者と同程度の還元(たとえばお土産など)を行うことにすれば、忘年会への参加が実質的に強制されている、とはならないと考えます。



多数が参加しての懇親の機会が必要と考えるのであれば、あえて業務と割り切って通常の業務時間内に実施することも考えられます。昼間にノンアルコールで食事会を開くなどの工夫をしている企業もあるようです。なお、業務時間に行う場合でもお酒が飲めない人を無理矢理飲み会に参加させることや、飲酒を強要することはハラスメント行為にあたりますので厳に慎むべきです。



——SNSなどでは「お酒がつらい」「上司がちょっと…」といった声もあります。



現在はお酒を飲まない、あるいは飲み会の場を好まない人も増えてきており、昔のように従業員が席を囲んで酒を酌み交わすことで懇親をはかるということが時代遅れになってきているという面は確かにあります。



他方、仕事以外の場での懇親の機会を持つことの有効性もコロナ禍を経て再確認され、忘年会などの懇親会がすべて時代遅れで無用なもの、というのも言い過ぎだと思います。



若者の飲み会離れも、結局は「面白くない飲み会に参加したくない」ということでしょうし、飲み会で上司の機嫌を取る必要があったり、他人の愚痴や自慢話を聞かされるのであれば、飲み会が面白くないと感じることも当然だと思います。



忘年会が労働時間かどうかという問いが出る時点で、その会社の忘年会は一部の従業員にとって面白くもなんともない時間になっていると思います。主催側としては、まずは従業員が参加したくなるような懇親の場を持つことができるかどうかを考えるべきでしょう。



飲み会の考え方も人それぞれで、お酒を飲む人が好きな人もいれば、お酒は飲めないが食事を楽しみたい人もいます。大人数で騒ぐのが好きな人もいれば、少人数で静かに飲むのが好きな人もいます。



いろんな好みや考え方があるなかで、参加者全員が楽しめる忘年会や懇親会を企画することができれば、懇親会離れも減るのではないでしょうか。




【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:http://www.handa-law.jp/