2023年12月17日 09:31 弁護士ドットコム
「芸能人がいっぱい来る飲み会で、『ギャラ飲み』しませんか?」などと存在しない飲み会の誘い文句で声をかけ、“信用料”として2人の女性(以後、A、Bとする)から現金を受け取ったなどとして、大阪地裁は2023年10月、30代の被告人男性に対して懲役2年6月の実刑判決を下した。全面的に無罪を主張していた被告人の9ヶ月にも及んだ公判を追った。(裁判ライター:普通)
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小柄で、表情などからはおっとりとした印象を抱かせる被告人。しかし、起訴状に対する罪状認否やその他被告人質問で供述する様子などでは流暢になった。
起訴状などによると、被害者Aは道を歩きながら「芸能人とかいっぱい来るパーティがあります」などと実在する芸人Kの名前を挙げながら被告人から声をかけられた。Aが興味を示したところ「初めてだから、信用料がいる」と言われ6万円を支払った。
被害者Bの事件も起訴状などによると、Aと同じ芸人Kの名前を挙げながら「ギャラ飲みしませんか?」声をかけた。そして「保険として、先に信用料を払ってほしい」と金銭を要求し、Bは7万円を支払った。A、Bともに待ち合わせ場所に誰も来ないことから騙されたと気付いた。
被告人は罪状認否において、Aの事件については「全てが違う」と否認し、Bの事件については「男性の紹介はしたもののお金は預かっていない」とこちらも否認した。
双方の主張が異なるため、被害者両名が証人として出廷した。
Aは事件当時、待ち合わせをしていた人物を待っていたところ「芸能人と飲めるんだけど来ない?」と被告人に声をかけられた。怪しいという気持ちの一方で、魅力的だと思う気持ちで迷っていた。待ち合わせた人物が来たが、被告人が因縁をつけて絡みに行って追い返してしまったため、誘いに乗ることにした。
会場への道中、「30万円くらいはもらえる」など具体的な金銭の話になった。この他にも、「トイレに立つなら飲み物を全部空けてから」などと説明を受けたのも信憑性を増した。
待ち合わせ場所のホテルの前で急に所持金を確認された。細かい説明はなかったが、「信用料を渡してくれないと会わせられない、終わったら返すから」などと言われた。一度は断ったものの、不安なら被告人の写真を撮っても構わないと言われたことで信用してしまった。
ホテルのロビーで待つように言われたが、しばらくしてフロントから「修学旅行生しか泊まっていない」と聞かされて騙されたと気付いた。
その数日後、街中で偶然被告人に出会ったので問い詰めて信用料の返金を求めると、逆にその日もギャラ飲みに誘われた。断り続けるも、参加しないと返金しないと言われ、またも参加してしまう。そしてこの日も、信用料として2万円を請求された。現金を持つ被告人の写真を撮らせることを条件に支払ったものの、またも待ち合わせ場所には誰も来なかった。
Aは「絶対に許せないし、重い処罰をお願いします」と、その月の生活費がなくなったことを思い出すように、厳しい言葉で尋問を締めくくった。
一方で、被告人質問での被告人の主張は大きく異なる。被告人が道を歩いていたところ、急にAから「ちょっといいですか? 助けてください」と声をかけられた。Aが40~50代の男性と揉めているようであった。被告人も入って話し合った結果、男性が立ち去ることになった。
被告人がその場を離れようとすると、Aが被告人についてきた。Aは立ち去った男性のグチをずっと言っていた。せめて、お礼の言葉一つもないものかと「他に何かないの?」と聞くと、現金3万円を渡そうとしてきた。現金を要求した訳ではないが、もらえるならと受け取った。Aの携帯電話には視線を向けた写真が残されているが、写真を撮られた記憶はないと供述する。
後日、街中でAに遭遇すると、返金を要求してきた。あまりにしつこかったので、2万円を返した。そのとき写真は撮られていたと供述する。
真っ向から食い違う供述に検察官は、Aが撮った写真では被告人が視線をしっかりカメラに向けている点を指摘した。また当日の足取りについて、証言に変遷が見られる点などを指摘され、被告人は答えに窮していた。
Bは友人との会食後、一人で歩いていたところに「ギャラ飲みしませんか?」と声をかけられた。その際にAの誘い文句として、参加者に芸人Kがいると告げられる。Bは芸人Kを知らなかったが、被告人に言われてスマートフォンで検索した。AとBは面識はなく、裁判においてもAの尋問中はBは別室で待機して口裏合わせなどはできない。
被告人が最初、ギャラ飲みの報酬として提示した金額では参加しないと伝えると、どんどん上がっていき最終的には25万円にまでなった。会話の中で被告人の家族の話になり、「家庭があるから、そんな詐欺みたいなのしないよ」と言われ、話が上手だと感じる中で徐々に興味を持つようになった。なお、被告人は結婚などしていない。
話の流れで、“保証金”を請求された。Aと同じく被告人の顔を撮影しても構わないということで、了承した。当初は手持ちの半分という話であったが、口車に乗せられ、手持ちの7万円を全て渡してしまう。クレジットカードの支払いにあてるつもりで持っていたので、金額を覚えていたという。
待ち合わせ場所で待っていたが、誰も来なかったので騙されたとわかった。その直後に、LINEで友人に「やばい、詐欺にあった」、「7万終った」などと送っている。その後、即座に警察に行って被害申告をした。
Bの事件に関して、被告人は自身のアルバイトとしてギャラ飲みの誘いをしたことは認めているため、現金の受け渡しが争点となった。被告人は否認している中、Bの説明に一定の説得性はあるが、その証言の信用性を高めるために検察官が質問した。
検察官「あなたの口から、芸人Kの名前は出していないのですね」
被告人「出していません」
検察官「会ったとされる時間、Bの携帯電話の検索履歴に芸人Kとあるんだけど、それでも話していない?」
被告人「話していないですね」
検察官「面識もない被害者AとBがそれぞれ芸人Kの名前を挙げていることをどう思う?」
被告人「なぜ知り合いでないとわかるんですか? 共通の知り合いがいるかもしれないのに」
検察官「では、全てが嘘だと言いたいと。何故、そんな嘘をつくのでしょう」
被告人「同じギャラ飲みとかをしている商売がたきが、同じ話をするよう二人にしたのではないでしょうか」
検察官は論告において、被害者両名の証言に合理性も信用性があり、虚偽の可能性もないとした。同じ芸人Kの名前を挙げ勧誘する手口、カメラ目線の写真、Bの友人へのLINEが早朝であったことから虚偽なら迷惑な時間に送るはずもないといった信憑性などを主張。他に起訴された事件もあることなどから、懲役3年6月を求刑した。
弁護人は被告人供述と同様に、Aは絡まれていたのを助けたら金銭を交付されただけで、Bはバイトを紹介しただけで金銭を受け取ったりはしていないと無罪を主張した。
判決は懲役2年6月、未決勾留日数250日算入の実刑判決となった。検察官の主張する起訴事実を全面的に認め、言葉巧みに大金を得られるとの女性の期待につけこんだ犯行だと認定。否認事件で動機は判然としないものの、安易で金目的としか考えられないとした。