2023年12月15日 10:31 弁護士ドットコム
2004年に開学したロースクールはまもなく20年を迎える。多様な人材輩出を目指した司法制度改革の旗印のもとに生まれたが、現在は法曹志望者が減少し、法曹の未来を憂える声も聞こえてくる。
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弁護士ドットコムニュースは、ロースクールを所管する文部科学省の大臣を務める盛山正仁氏に単独インタビュー。東京大学法学部を卒業後、旧運輸省の官僚を経て法務副大臣などを務めた自民党「法務族」議員だ。神戸大学大学院で法学博士を取得し、観光立国推進基本法など数々の議員立法に携わり、解説本も執筆している盛山氏に、司法界の未来について聞いた。
ーー学生を含め、法曹志望者が減少傾向にあります。背景は何だとお考えですか?
先が明るくないと、学生はいかない。私が学生時代の旧司法試験の時の定員500人とか600人の時は食いっぱぐれるなんてこと、誰も考えませんでした。今はそうじゃなくなりつつあるから、ぜひ司法試験に挑戦しようという学生が減ってきているのでは。
今は外資系企業に行ったり、ベンチャーで起業する人もいる。昔のように、役人の志望者もぐっと減っている。東大法学部を出ても、役人になってもメディアには叩かれるだけだし、ブラックな働き方のようだからやめようってなっているのでは。いろんな報道を見たりして、キャリアパス、将来どうなるのかってことを考えた結果なんでしょう。
ただ、 役所の人気が落ちても、役所の仕事の重要性が、20年前、30年前に比べて格段に落ちてるわけではないんです。学生は、本当の仕事の内容を詳しくわかってるわけではないと思います。イメージと実際の仕事の重要性や面白さにギャップがあるのではないでしょうか。
ーー学生だけでなく、司法制度改革当初に期待されていた社会人や法学未修者の参入も減っています。法曹界が、自身の魅力を伝えきれていないということでしょうか?
法曹もいろんな仕事があります。企業内弁護士(インハウス)も増えていて、これは悪くないと思います。必ずしも事務所を構えるだけではない。インハウスで活躍をして生きがいを感じる人もいる。ニューヨークやロンドンのローファームで活躍をする人がもっと出てきてもいい。
法曹になる魅力が感じられない、そういうふうに思われてしまっているのでしょう。給料や処遇の問題だけではなく、ロイヤーになったらこういう仕事ができるんだということを伝えるべきだと思います。
私が法務省で出会ってきた法曹で頭が下がると思ったのは、途上国の法制度整備支援。ベトナム、ラオスなど。家族がいる方でも、遠方に居住し、法律がゼロに近いところからのお手伝いをする。そこに喜びを感じてくれていました。ご本人にとっても将来的には、その国の専門家としてのキャリアにも繋がるのではないでしょうか。
ーー他には、どんなロールモデルが法律家の魅力につながるのでしょうか?
条約や協定を作るときに、司法の知識は不可欠です。今は観光法制や外務省条約局などが中心となっているが、それ以外の分野でも必要な人材です。例えば、商事法や航空、海運などの分野とか。「専門はあの人だ」と評価される人が、国際機関や条約会議をリードできるようになれば励みになるのではないでしょうか。
例えば、海商法の専門家だった谷川久さんという成蹊大名誉教授がいました。海運、造船の会議には、いつも出てもらっていた。役所人事というのは、ジェネラリストを育てる方式で何年かで交代してしまいます。運輸省には、毎回コンスタントにフォローできるスペシャリストの職員がいなかったんです。
谷川さんは英語が堪能なのはもちろん、海外のマフィアとも渡り合える人でした。海上の諸問題について話し合う国際海事機関(IMO)で条約改正の協議の際も、過去の経緯について詳しい谷川さんにマイクが回る。「プロフェッサータニカワに聞こう」と。それで決まりです。国際舞台で存在感のとても大きい人でした。こうした人材は、学者だけでなく、弁護士でもいい。国際舞台で活躍できる法律家が出れば、国としても大きな成果だと思います。
ただ、大事なのは、名誉だけではなくてお金になることも必要です。谷川さんは私学に勤める人だったから、経済的な担保があったのだと思います。国からの報酬は決して大きくなかったはずだが、1週間や2週間の出張も厭わずしてもらえました。
事務所を経営している弁護士の場合、間をあければ、その分収入がなくなる。経済的な担保を含めて、できる形にすることが必要です。その上で、どうすれば多くの人が「法曹界が面白いな」「自分もやりたいな」と思ってくれるのか。こうした点を含めて、関係者が検討すれば、世界が変わるかもしれません。
ーーロースクールの数は当初の74校から半減し、予備試験が優秀さの指標となり、就職も有利とされる現状があります。ロースクールの存在感が薄れています。
予備試験は、経済的な事情でロースクールの2~3年費やすというのがつらい場合を想定したはずだった。一番のエリートコースというつもりでできたものではないはずですが、実質的にはそうなってしまっているのは認めざるを得ません。
政治の問題もあるかもしれないが、ローが半減したのは自然淘汰されていった結果でしょう。改革の成果については、ある程度、長い目で見る必要があると思います。医師の定員も大きくなったり小さくなったりする。
ーー法曹人口は、今後も増やすべきでしょうか。
日本に比べて、米国の法曹の数は圧倒的に多いです。裾野が広がれば、てっぺんも高くなる可能性が高い。特に優れた、業績に優れた人が出てくる可能性も高いと思います。
日本の中だけで、ある程度仕事ができるというのではなく、渉外弁護士のように世界で活躍できるロイヤーがもっといてもいい。例えば、国際司法裁判所(ICJ)も裁判官、判事や学者、外交官だけでなく渉外弁護士に声がかかるようになればと思います。
法曹人口を増やす、プラス、日本以外のところで「俺はその第一線で頑張るんだ」という強い気持ちを持っている人がもっと増えるといいですよね。母数が大きければ競争が厳しくなって、優れた人材を生み、もっと高みに登っていけるのでは。
ーー国会議員としても、司法の知識は生かされていますか。
自民党の法務部会長、法務副大臣を2度歴任しました。法務族になったのは大変プラスになったと思っています。
自身の出身省庁である運輸・観光だけでなく、環境、農水など各方面で立法に携わりました。私が中心になった議員立法は、必ず解説本を出すようにしており、22冊に上っています。観光立国推進基本法や、地域自然資産法、変わり種では真珠振興法なんていうのもあります。あまり売れないですけどね。
【プロフィール】
盛山正仁(もりやま・まさひと)
兵庫県西宮市出身。衆議院議員5期目、2023年9月から第30代文部科学大臣。東京大学法学部政治コース卒業後、運輸省入省。環境省などを経て、2005年に衆院議員初当選。2013年には神戸大学大学院法学研究科博士課程修了・法学博士(論文題目:「公海上の航行の安全確保に関する国際法と国際協力の課題 : ソマリア沖海賊の訴追を中心に」)。2012年、第2次安倍内閣で法務大臣政務官として観光立国などを担当。2015~2017年、第3次安倍内閣で法務副大臣を歴任した。