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女性・女系天皇を認めず「全てを一人の男系男子に委ねる」現状の危機 河西秀哉・名古屋大大学院准教授

2023年12月14日 10:51  弁護士ドットコム

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安定的な皇位継承のための議論にいつ、どのように着手するのか。2021年12月、皇位の安定的継承に関する有識者会議が報告書をまとめ、自民党は2022年1月、今年(2023年)11月にも懇談会を開いたが、その後の進展はみられない。


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同報告書では、皇族数を確保するため(1)女性皇族(内親王・女王)が婚姻後も皇族の身分を保持する、(2)皇族として認められていない養子縁組を可能にし、旧11宮家の男系男子を皇族とする案が提示された。皇位継承を男系男子に限定する方向性だが、現在の皇位継承順位は1位が秋篠宮さま、2位が悠仁さま、3位が常陸宮さまとなり、若い世代での男性皇族は悠仁さまお一人という状況だ。



安定的な皇位継承のためには「女性天皇、女系天皇を容認するべきだ」と指摘する名古屋大学大学院の河西秀哉准教授に、望ましい議論のあり方、議論が進まない現状の問題について話を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山口紗貴子)



●女性天皇、女系天皇、女性宮家について

——安定的皇位継承のため、どのような議論の方向性が望ましいと考えますか



私は女性天皇、女系天皇を容認するべきだと考えています。安定的な皇位継承、いわゆる「帝王学」の観点、また皇族の方々の人生が大きく左右されることですので、早急に実現するべきです。



悠仁さまはまだ10代ですが、それ以外の皇族方は20代、30代です。ご本人たちの教育や「帝王学」、将来のご結婚などを考える上で、現在の宙ぶらりんという状況が一番つらいのではないでしょうか。ご本人の人生の決断がしづらい状態にあるわけですから。



また皇室典範を改正しない場合、悠仁さんの将来の妻となる方に、男児の出産について非常に強いプレッシャーがかかることも問題です。全てを一人の男系男子に委ねようとしているのが現状であり、象徴天皇制という制度自体が崩壊する可能性さえある状況だと考えています。



——女性天皇は認めても、女系天皇に反対する声は根強くあります



仮に女性天皇だけを認めた場合、女性天皇がご結婚され、男性でも女性でも子どもが生まれたとしても、そのお子さんには皇位継承は認められません。しかしその20年後、「他に男系の皇族がいないから、天皇になって欲しい」となる可能性も出てきます。「帝王学」や教育の問題も残りますし、現在と同じような問題に直面することになるわけです。



私が女性天皇、女系天皇を容認するべきと考えるのは、まさにこの不安定さをなくすことにもあります。女性天皇を認めることは女系天皇を認めるということに最終的には帰結すると考えています。



——女性宮家の創設については、どう考えていますか



女性天皇と女系天皇を認めれば、女性宮家の創設も進めることになると考えています。ただ、今いる方々は離れることを前提にお育ちになっているわけですから、仮に改正する場合には、ご本人たちのご意志を確認する必要はあるでしょう。



●「宙ぶらりんの状態」のデメリットに帝王学

——宙ぶらりんの状態になることのデメリットの一つに皇族への教育の問題もあるのでしょうか



皇族としての教育は難しい課題ですね。



現代の感覚で言えば、学習院にこだわらず、自分の行きたい学校に通い、自分の意思に基づいて専攻を決めることが望ましいことではあると思います。ただ一方で、皇族に必要な教育をどう学んでいくのかというバランスが難しくなるのも事実です。



今の天皇陛下は、天皇になることを宿命づけられていましたので、高校生ぐらいから過去の天皇のご事蹟など歴史を学んで来られました。東京大学、学習院の先生など大学教授が家庭教師のような立場で、昔の資料を一緒に読んでいたといいます。こうした教育の中で、過去の天皇の振るまいが身体に染み付いていく側面もあるはずです。



——悠仁さまは学習院ではなく、お茶の水大学附属小中学校、筑波大学附属高校という進学校で学ばれてきました。



おそらく大学に進学されると思われます。一般受験するのか、推薦入学となるかはわかりませんが、一般の高校生と同じく大学進学に向けた受験勉強をされているはずです。進学校で大学受験を見据えた勉強はしつつも、「帝王学」を学ぶとなると、かけられる時間も限られてきます。この点は大学受験のない学習院で学ばれていた上皇、天皇とは状況が異なります。



また「帝王学」は座学だけではなく、人格的、公務、そのお立場について実際に天皇などの側で目で見て学ぶことも大事です。上皇や天皇は家庭の中である種の口伝、空気感を学ぶことができたわけですが、悠仁さまはそれができないわけです。直系で継承できないことのデメリットの一つかと思います。



●旧皇族の復帰論「国民的理解を得ることができるのか」

——2021年の有識者会議では、「皇族として認められていない養子縁組を可能にし、旧11宮家の男系男子を皇族とする」との案が提示されています。旧皇族の皇籍復帰は現実的に可能なのでしょうか



旧皇族の復帰については、私は疑問です。最後の最後まで何もやらなかった結果として、皇室が先細りする現状になって、「もう旧皇族の復帰しかありません」と、出てきた選択肢です。



どの宮家が、どの旧皇族を養子に迎えるのか。ご本人たちの意志はどう確認するのか。それを誰が決めるのか、国民の理解をどう得るのかなど、疑問を出したらキリがありません。各論から考えていくべきとは思いませんが、解決しなければいけない各論の数を考えたら、私は難しいと思えてなりません。



旧皇族と言っても、対象となる男性たちは民間人として生まれ、これまで長く、民間人として生きて来られた方々です。突然、皇族としての身分をお持ちになる当事者やご家族のご意向はもちろん、昨日までは民間人として生きてこられた方々が皇族となることへの国民的理解を得ることができるのかどうか、非常に疑問です。



——小泉純一郎首相時代の「皇室典範に関する有識者会議」(2005年)など、過去に何度も改正への動きはありましたが、いずれも進展しませんでした



過去にもこの状況を変えようとする動きは何度もありましたが、先送りを続けてきたわけです。このような状況になってしまったのは、政治家の不作為です。小泉元首相ですら実現ができないほどに皇室問題は政治家も触りたくないのでしょうね。自分が生きてる間は、何とかやり過ごせばいいという感覚が大きいように見えます。



●「数は多いが声の小さい容認派、数は少ないが声の大きい保守派」



——なぜ政治家は進められないのでしょうか



国民の世論は女性天皇や女系天皇を容認する声が多いですが、非常に強く「賛成する」というよりは、「やや賛成する」という認識の人が多い印象です。一方で、保守派は数こそ多くないものの「やや反対する」よりも強い「反対する」となる。この層が自民党の強い支持勢力でもあります。



数は多いけれども声の小さい容認派、数は少ないけれども声の大きい保守派とが議論をすれば、国論を二分するように見えてしまうでしょう。国民の象徴的な存在としての天皇制を考える上で、それは良くない。そこの難しさだと思うんですよね。



過去に一度だけ、2005年の有識者会議の時点では次世代の皇族に男性がお一人もいらっしゃらないという状態でしたので、女性天皇、女系天皇に賛成する人たち以外の間にも「仕方ない」という認識が広まっていたと思います。ただ、報告書提出後間もなく、紀子さまの懐妊がわかり、話は立ち消えになってしまいました。



ただ政治家だけを責めるわけではないです。国民も、悠仁さまが生まれたら議論をやめてしまった。象徴天皇はお1人だけで担う制度ではありませんので、男の子が1人生まれただけで安定した皇室、皇位継承が実現するわけはないのですが。



●「宮内庁の広報力が足りていない」

——国民の認識を含めて、危機意識が足りなかったということでしょうか



そもそも象徴天皇とはどのような存在で、皇族とは何をなさっているのか。宮内庁の広報力が足りていない問題もあって、皇室の全体像を国民も把握できていないように思っています。



上皇ご夫妻は祭祀だけでなく、戦没者の慰霊、被災者に寄り添うなど公務の幅を広げてこられました。皇位継承の議論だけを進めようとするのではなく、もう一度その象徴天皇とは何かという議論も必要だと思います。



だからこそ、過去の有識者会議の議論でも、もちろん皇位継承問題が第一義ではありましたが、そもそも皇族はどのような宮中祭祀、公務を担っているのか。それを担う皇族はどのくらい必要なのかなどについて深く議論をしなければいけなかったのです。



その結果として、「祈りだけでいい」ということであれば、皇族が先細りしてもいいという考え方はあり得ると思う。私自身はそう考えてないのですが、議論の結果によっては、皇室典範を改正せず、一人しかいない男系男子に見合った公務の数に減らしていけばいいという考え方もあり得るわけです。



ですが国民の声としては、平成時代ほどかどうかは別として、ある程度の公務をやってもらった方がいいと考えてる方が多いのではないでしょうか。そうなると、皇室が先細りすることは望ましくありません。



これを踏まえると、繰り返しになりますが現在の皇室は次世代の男性皇族がお一人という危機的な状況であり、今後の安定した皇位継承のために、女性天皇や女系天皇を早急に実現するべきなのです。



【プロフィール】
河西秀哉・名古屋大学大学院人文学研究科准教授
1977年、名古屋市生まれ。名古屋大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(歴史学)。京都大学大学文書館助教、神戸女学院大学文学部准教授などを経る。主な著書に、『近代天皇制から象徴天皇制へ』(吉田書店)、『天皇制と民主主義の昭和史』、『平成の天皇と戦後日本』(いずれも人文書院)など。