トップへ

日向坂46「卒コン」で発券ミス、運営の謝罪・返金対応にもファン納得できず「やりきれない悲しみ」…落とし所を探る

2023年12月13日 15:51  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

アイドルグループ「日向坂46」のライブ(12月9日~10日)に参加した複数の客がチケット記載の席に座れず、最後列に用意されたパイプ椅子に移動させられ、アイドルの姿をまったく見れなかったとXに報告し、運営の対応が物議を醸した。


【関連記事:「16歳の私が、性欲の対象にされるなんて」 高校時代の性被害、断れなかった理由】



日向坂46は公式サイトでミスを認めて謝罪するとともに、対象の客へのチケット全額返金と、配信チケットの無償提供を発表した。



だが、当日はメンバーの潮紗理菜さんが「卒業」する大事な日でもあった。大切な「推し」の顔を見れず、卒業の瞬間を見届けることができなかったファンにとっては、「返金」では気持ちが収まらないという事情もあろう。



最後列のパイプ椅子に移動させられた客は、数百人規模とみられるが、こうしたトラブルの際、どのような対応をすればよいのだろうか。弁護士に「落とし所」を聞いた。



●「一度も推しを見れず」「返金されても卒コン見れるわけじゃない」

公式サイトによると、Kアリーナでは、すべての座席をステージ正面に向けた扇型に配置し、全席に高級感あるファブリックシートを導入。長時間でも快適に過ごせることを一つのアピールポイントとしている。









ある投稿によると、ステージ前方の席を予約していたが、そこには機材が置かれてあり座席がなかったという。会場のスタッフからは「ライブ運営側の不手際でチケットに記載された座席が用意できていない。代わりに席を用意したのでそこで観覧してほしい」と言われたそうだ。



ところが、用意されたのは「スタンド最後列のさらに後ろの平地に2列置かれたパイプ椅子の一番後ろの席」で、ステージはまったく見えず、モニターも一部しか見えなかったため、スタッフに尋ねたが、移動は許されなかったという。



他にも同様の扱いをされた客がいたそうで、なかには途中で帰る人もいたとしている。



「結局ほとんどの時間をパイプ椅子に座ったまま前の人の背中を見て過ごした」 「一度もステージ上の推しを肉眼で確認することは叶わず」とつづっている。



ライブ終了後に「ご来場後の座席の振替にご協力いただきありがとうございました。反省しております」「返金は後日します」といったメールが届いたとされる。



「返金されてももう一度ちゃんとした状態で卒業コンサートが観られる訳ではないし、やりきれない悲しみだけが残る」



この日のライブは一期生の潮紗理菜さんの卒業コンサートでもあり、まさに「推しの卒業ライブ」という特別な瞬間を過ごせず、悔しさの残るファンは他にもいたようだ。



日向坂46の公式サイトは12月13日、チケット発券ミスなどを謝罪した。



12月9日と10日の公演で、「一部チケット発券のミスが起こり、機材スペースの座席を販売」したと説明している。



「その座席のチケットをお持ちであったお客様をご案内した振替座席がライブの見えづらい場所でありました」



「チケット発券を担当している株式会社ライブエグザムより経緯の説明を受け、ご対象のお客様へのチケット金額の全額返金と、12月16日(土)・17日(日)に実施致しますリピート配信チケットを無償でご提供をさせて頂く対応をさせて頂きます」



とはいえ、返金やリピート配信の無償提供で済ませられる問題なのだろうか。この日のために、遠方から交通や宿泊の費用もかかった客がいないわけでもあるまい。エンターテインメント問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。



●差をつけることで「しらける」ファン心理を指摘…運営が試される難しい舵取り

――法的な責任はどう考えられますか



まず、法的責任については、芸能事務所がイベント会社に発注してコンサートをおこないますので、発券ミスの法的責任は芸能事務所ではなく、イベント会社に生じると考えられます。



また、返金を超えた対応として、次のようなものが具体的に考えられます。



・コンサートへの無料招待(良い席)
・メンバーとの面会(オンラインも含む 2~3分程度)
・メンバーからの映像DVDメッセージ(3~5分程度)
・対象者だけの特典グッズや写真などの送付
・今後のコンサートでの優遇措置(一定期間チケット当選確率アップ、良い席の割り当て)



ただし、アイドルグループ、特に大手グループにおいては「アイドルの前でファンはみんな平等」という考えが非常に重要です。



「夢の空間」であるアイドルコンサートの現場でファンへの対応に差を付けてしまうと、一部のファンが白けてしまい、結果的にファン離れにつながるリスクがあります。



そして、ファン側の「推し」が誰かによっても被害の大きさは異なります。最後列のパイプ椅子を用意されたファンが卒業メンバーの推しであったとすれば、それは人生に一度きりの瞬間であり、いかなる補償を受けたとしても戻ってくることはないのかもしれません。



今回の被害を受けたファンの方たちが納得するとともに、そうでないファン全体も納得する必要もあるでしょう。



――どのあたりが「落とし所」になると考えられるのでしょうか



さまざまな考えがありますが、今回は卒業公演ということが特に大きな意味を持っていたと思うので、卒業メンバーから1~2分でもメッセージDVDが送られてくれば、ファンも救われるのではないでしょうか。



実際の対応は「リピート配信チケットを無償でご提供」という措置のようです。私個人としては、ややドライな印象を受けましたが、主催者からすれば妥当な措置と考えたのでしょう。




【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活~推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/