Text by CINRA編集部
杉田協士監督の映画『彼方のうた』の予告編と著名人コメントが到着した。
同作は杉田監督にとってデビュー作『ひとつの歌』以来12年ぶりのオリジナル作品。書店員の春が街中で出会った雪子、剛と過ごす日々の中で、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていくというあらすじだ。1月5日公開。
春役を演じるのは小川あん。雪子役に中村優子、剛役に眞島秀和がキャスティングされた。撮影は飯岡幸子、編集は大川景子、音響は黄永昌、音楽はスカンク/SKANK。
予告編では春が剛に対して秘密を打ち明けるシーンや、春と雪子がキッチンに並んで料理をするシーンなどが確認できる。
1月6日には池袋シネマ・ロサ、ポレポレ東中野、渋谷シネクイントの3劇場にて公開記念舞台挨拶を実施。杉田監督、小川あん、中村優子、眞島秀和が登壇する。
【大九明子のコメント】
どうやら杉田監督は、自分の映画の中の美味しそうなお店に朝だろうが深夜だろうがしょっちゅういるらしい。ずるい。スクリーンの向こうとこちらを行ったり来たり。その感覚だけは私たち観客にも許されているからありがたい。だから何度も観たくなるんだと思います。そうやって酔わせてもらっていたけれど。ラスト、雪子さんが春さんに向けて言うセリフにはっとさせられます。春さん、あなたって人はもうホントに。
【丘田ミイ子のコメント】
雪子の存在を掬い上げるようにオムレツを頬張る春、春が食べ始めるのを見届けてから箸を進める雪子。重ねられていく食事のシーンに、いくつもの優しく寂しい横顔をみた。笑ったらいいのか、泣いたらいいのかわからない顔をしながら人が人に手を差し伸べるとき、差し伸べられるそのとき、はじめて「独り」は「一人」になるのかもしれない。画面の向こうで、街や家や店の中で、互いを縁取り合うように生きる人々を見てそんなことを思っていた。さみしくて、やさしくて、泣きそうになって、笑いそうになって、自分も時々こんな横顔をしているのかもしれない、と思った。
【羽佐田瑶子のコメント】
春さんの足取りや感覚が、ときどき自分と重なった。人に作ってもらったものを食べると、自分の存在がたしかめられたような気がした日のことを。映画を観終えた帰り道、ふと思い出して窪美澄さんの『夜に星を放つ』を読み返した。やるせなさみたいなものは拭えないけれど、それでも、友人と話したりごはんを食べたりしながら、生きていくことを私が選ぶ。杉田監督の作品を観るとそうしたことをしばらく考えてしまう。
【原田マハのコメント】
何も語らないことが、すべてを語ることにつながるのだと、本作に教えられた。
書くことで語り尽くすさだめの私には、新鮮な体験だった。
【東直子のコメント】
小川あんさんの大きく見開いた目は、こちらをまっすぐに向いているけれど、決してこちらを見ていないようで、怖かった。だから、彼女が発する優しい声に少し震えた。この人の胸の裡(うち)が知りたい。でも見えない。周りにいる人も震えているのが分かる。
映画の中で主人公が朗読する私の絵本『キャベツちゃんのワンピース』は、娘の理解できない行動を、あるとき深く受け入れる母の物語なのだが、これを使っていただいた杉田監督の意図が、ラストに来てぐっと迫ってきて胸が強く締めつけられた。
それぞれの孤独な後ろ姿が美しい。
【穂村弘のコメント】
異様なほど静かな画面から、溢れ出した命の輝きが、こちらに向かって流れてくるのを感じていた。
【森井勇佑のコメント】
すごく面白かったです。映画が始まってから終わるまでずっと面白かった。張りつめた感覚がずっと持続しているように思いました。これほど持続している映画は稀だと思います。もう2回見ましたけど、何度でも見たいです。人が人を気にかけるというシンプルなことが、これほど映画を豊かにさせるのかと、とても驚きました。素晴らしい映画です。