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「年上の人が好き」パパ活で1億5000万円詐欺、看護師女性が「死にたくなるほど嫌だった」共犯者の指示

2023年12月09日 09:41  弁護士ドットコム

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「私は年上の人が好きで、以前は65歳の人と付き合っていました」などと出会い系サイトに書き込み、50、60代男性15名から奨学金返済など虚偽の名目で計約1億5000万円を騙し取ったとして詐欺罪で起訴された20代の女性被告人に、大阪地裁は12月15日、判決を言い渡す。


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度重なる追起訴審理で、初公判から結審まで2年を要した。起訴された事件の被害者は50代~60代の男性15名、被害総額は1億5000万円を超えた。大規模な詐欺事件だが、被告人側は事件の背景には被告人が長く共犯者からマインドコントロールを受けていたと主張。法廷で明かされた被告人と共犯男性との奇妙な関係とは。(裁判ライター:普通)



●受け取った現金は全て共犯者のもとに

被告人は公判の際は、フォーマルな服装で出廷し、姿勢を正して聞いている様子が印象的だった。事件は「看護師が多数の高齢男性とパパ活」などと大きく報道されたこともあり、傍聴席は連日、満席に近かった。



起訴状などによれば、被告人は共犯者の50代男性(以下、A)と共謀して、複数の出会い系サイトに登録して、被害男性(計15名)から奨学金返済など虚偽の名目で、総額約1億5000万円を騙し取った。その際、交際をほのめかす文言も用いられていたといい、中には5000万円以上を被告人に渡してしまった被害者もいる。受け取った現金は全てAに渡されていた。



この起訴事実に弁護側は、詐欺の成立は争わないとしたものの、被告人はAに借金があると思わされて、犯行はAの指示通りに行っただけである点、交際を匂わせることは言っていないなどと一部を否認した。



被害者が現金の要求に応じなくなると、「体の関係と引き換えとはいえ、助けてくれたことを感謝します」などと、あくまで男女関係の対価として現金を受け取っていたことを印象付けるメッセージを送っていた。



しかし一方で一部の被害者は、取調べにおいて「生命保険を切り崩した」、「消費者金融に借りた」、「60代と交際したと書いてあることから、付き合えるのではないかと思った」などと供述したことが明らかになった。



●思考が停止する中でも「死にたくなるほど嫌だった」

弁護人により、被告人がAと犯行を行う経緯が明らかにされた。被告人は大学在学中にアルバイトの面接としてAと出会い、その後ビルの高層階で行われたイベントに誘われた。Aは札束の入った袋を持っており、参加者は一発芸をしてAを笑わせることが出来たら現金が支給されていた。奨学金を借りながら、学業とアルバイトを並行していた被告人には未知の世界の人物のように見えた。



ある日被告人は、Aにタブレット端末を見せられ「どの株を選ぶのか選べ。何株にするかも」などと言われ、銘柄も分からないまま1つを指し示した。それが購入されたのかもわからず、損が出たら被告人が負担するという覚書を交わさせられたという。結果、被告人が2500万円の損害を発生させたという文面も作らされることになった。



さらにここで、存在すら定かでない「B」という人物の存在をAは持ち出す。Bがこの結果に怒っており、家族にまで危害を加えかねないとAから聞かされ、迷惑がかからないよう家族と距離を置くように言われた。友人には「もう連絡しないで欲しい」とLINEをブロックして、被告人は孤立を深めていった。



俄かに信じがたい話ではあるが、それでも被告人がAに反抗しなかったのは度重なる暴力を受け、「お前が選んだ株で損害を負った」と叱責され、生活全般を管理されていたからだと主張する。



被告人側が明かしたその生活ぶりは、確かに異様なものだった。朝起きてすぐ「プライドを持つな、反論するな」などと復唱させられ、外出には必ずAの許可が必要だった。20分ごとにアラームがなり、1分以内にAに報告を行わないといけない。何か失敗すると殴る蹴るの暴行を受けた。アラームが鳴っている様子、体中に痣があるのを、複数の詐欺被害者が目撃している。排泄行為は家のベランダでさせられた。



毎日怒鳴られる中で、自身が債務を背負っていると思い込むようになり、Aの指示通りに動いた。被告人は詐欺被害にあった男性たちと性的関係を結ぶようAに指示されていた。そのときの心境を聞かれると「とても申し訳ないですが、死にたくなるほど嫌でした」と不快感を露わにした。



●家族LINEで異変に気付き「あなた誰?」

弁護側の情状証人として、精神カウンセリングを担当した人物が出廷した。



家庭環境は良好であったものの、父への依存度はやや高かった。大学でバイトを始めると、社会を見る目が一気に広がり、Aのことを「なんか面白そうな人」などと思った。Aの会社が運営したイベントには容姿端麗な女性たちが集まるため、自分がそこに混ざっていることに自己愛を抱くことになる。



仕事の悩みから将来への不安を感じていた被告人にAが共感してくれたため、徐々に父親主導だった価値観がAに移っていく。株で大きな損失と言われた後も、AがBから守ってくれているなどと思うようになる。自身の中で権威がある人物から指示や管理される中で、徐々に思考の低下と服従に繋がっていったと証言した。



被告人の父親も証人として出廷した。今回の事件について聞かれ「多数の方にご迷惑をかけて大変申し訳ない」と深く謝罪をした。



それまで真面目に育ってきたが、事件前に急に外泊をするようになった。コロナウイルスの蔓延により、通勤時のリスクを避けるために職場に泊まるという言葉を信じた。しかし、その後連絡は来るものの家に帰らなくなった。



ある日、被告人から届いた家族のグループLINEの文面がおかしいと感じ、「あなた誰?」と問いただした。すると、被告人が電話をしてきたが、家に帰ってこない説明が判然とせず、最終的に泣きながら電話を切られた。その数か月後、家に男性が訪れ、「こちらの娘に結婚詐欺にあった。親として肩代わりして欲しい」とも言われた。



警察には複数回行った。その都度、被告人に電話をするなどしたが、「事件性がない限り捜査はできない」と解決はしなかった。弁護士からも「本人からSOSが出ないと法的に動けない」と説明を受けた。



逮捕を聞いたときは、やはり事件であったのかという思いと、命の無事が確認できて安堵したと言う。面会には30回以上行き、当初は目の焦点も合わず、瞬きもしない様子に恐怖も感じた。証人自身も全ての裁判を傍聴し、事件に向き合っている。



保釈後の被告人については、各種報道、SNSの拡散などで心を痛めていたが、近所の人には笑顔で挨拶をし、週に1度ほどは仕事に出て、家でも家事に精力的に取り組み更生に努めている。「どうか、この社会の中で更生の場を与えてください」と、裁判官に思いを伝えた。



●被害者からも執行猶予を求める嘆願書

検察官は論告にて、好意を悪用した巧妙かつ常習的な犯行であり、被害金額も極めて多額だと指摘。家族への危害を危惧した点はあるとは言え、警察に相談するなど方法もある中、他者を傷つける方法を選んだ意思決定、長期にわたり継続した点、指示通りに動いていたとしても細かい臨機応変な事情には対応するなどの点から、被告人にも犯行の意思があったと強く非難。



争いのある恋人になる意思を見せていたかという点も、出会い系サイト内のプロフィール文面や、多くの被害者の供述が一致しており、恋人になる関係性を匂わせたことは自然かつ合理的なものであると指摘した。Aに指示されていたという従属的な面はあるが、被告人がいないと成り立たない犯行であったとして、懲役5年を求刑した。



弁護人は、Aからの長期による多大な心理的影響による犯行であり情状酌量の余地があると主張。証拠採用もされた、通常では考えられないAとの覚書を多数交わしていることなどからも、通常の思考状況ではなかったとした。



一方で、恋人になる関係性を匂わせていたかは改めて否認した。お茶をするだけで1万円をもらえるのはパパ活と考えるのが普通という点、出会い系サイトの項目欄に「H度」などがあることからも、純粋な出会いを期待するものではないなどと述べた。



被告人はまだ若年で、就業先の見込みもあり親の監督も期待できる。事件により、報道などで自身もトラウマを抱える中で、これ以上過酷な実刑の判断は下されるべきではないと執行猶予判決を求めた。



最後に被告人は「被害者の方には迷惑をかけて申し訳ありません。後悔しかしていません。もし社会復帰できるなら社会人として前に進みたいです」と最終陳述を行った。



一部の被害者は裁判を傍聴し、被告人自身も一種の被害者だという嘆願書を提出している。保釈金返還後にそれを被害額に応じて分配することで、被害者15名中12名が謝罪を受け入れ、執行猶予判決を求める合意をしている。しかし、分配されても被害総額の1%程度にしかならない。