2023年12月01日 10:51 弁護士ドットコム
あの手この手で「お一人様1個」の限定商品を購入しようとする迷惑客を「出入り禁止にしたい」。小売業のチェーン店の店長という人物から、弁護士ドットコムに相談が寄せられた。
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何度も注意しているのに話を聞かない客の迷惑行為は次のようなものだという。
・1回買ったレジの従業員から見えない場所にあるレジに並んで購入する
・気弱な従業員に何度も販売させる
・シフトでレジの従業員が変わったタイミングを狙って購入する
・店の前で他の客に声をかけ、『お友達』として連れてきて購入する
「連れて来られた方は一緒についてくるまで帰してもらえない雰囲気でとても困ったと言われてます」(店長)
また、自分の都合が悪くなってくると、「日本語わかりません!」と言って話を聞かないのだという。
「他のお客様と従業員もとても迷惑しているため、出入り禁止にしたい」という。出禁にできるのだろうか。近藤暁弁護士に聞いた。
——「お一人様1個限りの限定商品」を何度も購入した、あるいは購入しようとして、迷惑行為を繰り返す客を「出禁」にできますか
結論として、店側はそのような客を出入り禁止(出禁)にすることができます。
店には店内の秩序を維持するために施設管理権があります。これに基づき、迷惑行為を繰り返す客が店内へ立ち入ることを拒否すること(出禁)ができます。
それでもなお立ち入るような客は、建造物侵入罪や不退去罪(刑法130条)、業務妨害(刑法233条、234条)などの刑事責任を負ったり、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負ったりする可能性があります。
あるいは、商品の「売買契約」から検討することも可能です。
本件のような売買契約(民法555条以下)は「申込み」と「承諾」の合致により成立し(民法522条1項)、店と客は売買契約に拘束されます。
そこで、当事者のどの行為が「申込み」となり、どの行為が「承諾」となるのかを検討することになります。
「お一人様1個限りの限定商品」の販売であり、商品、店内あるいは広告などにその旨を表示の上で商品の陳列がなされていたものと推察されます。
個別の事案にもよりますが、このような店の行為は「お一人様1個限りの売買契約の申込みを受け付ける」という意思の通知にすぎず、仮に客からその限定商品を購入したい旨の申入れがあったとしても、なお店が諾否の自由を留保しているものと解釈することができます。
つまり、店の陳列行為は「申込み」としての意味を持っておらず、その前段階の「申込みの誘引」にとどまることになります。
このような「申込みの誘引」を受けて、客が商品を購入する旨の意思表示をすることが「申込み」としての意味を持ち、これに対して店が「承諾」することにより売買契約が成立します。
そして、契約締結の場面では、契約自由の原則があります(民法521条1項)。
これは、客が申込みをするかどうかは自由であり、これに対して店が承諾するかどうかも自由ということです。
したがって、店が特定の客からの商品の購入の申込みを承諾しない(=商品の販売を拒否する)ことも自由にできます。
店は、迷惑行為を繰り返す客に対しては、販売を拒否したり出入り禁止にしたりするなどの毅然とした対応を取るべきです。
【取材協力弁護士】
近藤 暁(こんどう・あき)弁護士
2007年弁護士登録(東京弁護士会、インターネット法律研究部)。IT・インターネット、スポーツやエンターテインメントに関する法務を取り扱うほか、近時はスタートアップやベンチャー企業の顧問業務にも力を入れている。
事務所名:近藤暁法律事務所
事務所URL:http://kondo-law.com/