フランツ・トスト代表のチーム代表としてのラストレースで、角田裕毅は自身初となるドライバー・オブ・ザ・デイに輝いた。レース結果は8位だが、この日の角田の走りを多くのファンが胸を熱くして見入っていたのは間違いないだろう。
角田はドライバー・オブ・ザ・デイに選ばれた感想を次のように語った。
「みなさんに感謝です。少しずつ、みなさんに認められるようになってきたと思うので、それはポジティブです」
この日の角田は、F1ドライバーとして初めてラップリーダーも経験した。しかし、レース中はその事実を知らなかったと、レース後に明かした。
「ラップリーダーになったことは、知らなかったです。でも、シーズンを振り返ると、僕たちアルファタウリが一瞬でもレースでトップを走るなんで、夢のまた夢だったので、これはいかにチームがプッシュしてきたのかという結果。チームにすごく感謝しています」
2023年の最終戦アブダビGPは、アルファタウリにとってコンストラクターズ選手権7位がかかった大事な一戦だった。土曜日の予選で角田は自己最高位となる6番手を獲得。もし、ウイリアムズが無得点に終わり、角田が6位以上でフィニッシュすれば、8点を加算しウイリアムズを逆転して7位になる。
その大事な一戦を前に、角田とチームはチャレンジングな作戦に出る。1ストップ作戦だ。
「もちろん、6位を取りに行くための作戦でした。というのも、トップチームと同じストラテジーを採っても、6位は厳しかったと思うので、チャレンジしました」
予選で6番手を獲得した角田だが、7番手にはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)、9番手にはセルジオ・ペレス(レッドブル)、11番手にはルイス・ハミルトン(メルセデス)がいた。
チーフレースエンジニアのジョナサン・エドルスは、こう語る。
「ウイリアムズを逆転してコンストラクターズ7位を獲得するには、1台で6位以上、2台で7位と9位を獲得する必要があった。ユウキのスタートポジションを考えると、後ろから速いマシンが3台もスタートするのだから、大きな要求だった。我々のマシンのペースだけで、その結果を出すのは難しいとわかっていたので、戦略で何とかしようとした。最初のスティントでタイヤの状態がよかったので、ユウキと確認したうえで1ストップで行くことにした」
しかし、この日の角田とアルファタウリは、自分たちが思っている以上に戦闘力があった。そのことは、15番手からスタートしたチームメイトのダニエル・リカルドが2ストップを採用して、最終的に4つポジションを上げて、11位でフィニッシュしていることでもわかる。
また、スタート直後に先行を許したアロンソを1周目に抜き返した角田が、その後、アロンソに逆転を許さず、前を走るジョージ・ラッセル(メルセデス)、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)とほぼ同じペースで走っていたことでもわかる。
この日の角田とアルファタウリは、自分たちが思っている以上に速かったのである。
それでも、アルファタウリは1ストップを強行した。それは「シーズン前半はグリッド上で最も遅いクルマのひとつだった」(エドルズ)からだ。だから、1ストップが失敗だったとは言えない。
だが、上位勢と同じ2ストップで、マクラーレン、アストンマーティン、メルセデスを相手に角田がどんなレースをしていたのだろうかと考えてしまう。そこには、おそらくピットストップ絡みでのラップリーダーや、ドライバー・オブ・ザ・デー以上の興奮が待っていたはずだ。
その楽しみには、2024年まで待つとしよう。それほど、この日の角田は速かった。