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迷走する司法制度改革、検証なき20年を振り返る 消えた法曹3000人構想、本命化する予備試験…

2023年11月27日 11:01  弁護士ドットコム

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1990年代に始まった司法制度改革は、ロースクール制度に始まる法曹養成の現状を見るだけでも明らかに迷走している。そもそも、この改革は国民にとって司法を身近にしようと始まった議論だ。


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この改革審議会委員で中心人物ともいわれる元日弁連会長・中坊公平氏は、「2割司法の改善」を訴えた。2割司法とは、法律関連のトラブルに遭った人のうち、2割しか司法サービスにアクセスできず、8割は泣き寝入りをさせられていることをいう言葉で、中坊氏は折に触れ言及していた。



そして、2000年に中坊氏が「年3000人合格構想」をぶち上げた。当時、目標とされていた合格者数は約1500人。倍となる数字の提案に、審議会では激論がかわされ、審議会長の佐藤幸治京都大学名誉教授を中心に意見書をまとめた。2年後、法案が成立。合格者数はピークでも2000人程度にとどまり、今年は1781人。結局、改革前と同程度に収まっている状態だ。



かつて描いた理想は、どこにいったのか。政府を挙げて掲げた政策が迷走しているにもかかわらず、抜本的な改革に向けた議論はいまだ見えてこない。



●撤回された「3000人」目標

司法制度改革審議会が内閣に設置されたのは、1999年のことだ。63回におよぶ審議を経て2001年に公表された「司法制度改革審議会意見書」には、改革の柱として次の3つが掲げられている。



(1)国民の期待に応える司法制度の構築(2)司法制度を支える法曹のあり方(3)国民的基盤の確立



(2)では、法曹人口の増加による司法の人的体制の充実や、ロースクール(法科大学院)を新たに設立して法曹養成のあり方を見直す必要性などが綴られている。



意見書では、「国民生活の様々な場面における法曹需要は、量的に増大するとともに、質的にますます多様化、高度化することが予想される」としている。理由として、経済・金融の国際化の進展や、知的財産労働関係などの専門的知見を要する法的紛争の増加、弁護士人口の地域的偏在の是正(「ゼロ・ワン地域」の解消)などが挙げられた。法曹の質と量の拡充は「2割司法」の改善のためにも必要だった。



2000年8月7日、三田共用会議所(東京都港区)で開催された審議会の集中審議で、中坊氏は次のように発言した。



「一つの提案ですけれども、毎年3000人の新司法試験の合格者をこれから採用していくんだということを審議会の方針として打ち出していくことが、今、必要なのではないか。私はそのように思います」※司法制度改革審議会集中審議(第1日)議事録より



この発言を機に、法曹人口の大幅増加に向け、審議会は司法試験合格者数見直しにかじを切る。当時(旧司法試験)の最終合格者数は1000人前後。審議会は、2010年ごろには「3000人」を達成し、2018年ごろまでに実働法曹人口をフランス並みの「5万人規模」にすることを目標に掲げた。議事録には数字の明確な根拠は示されていない。



審議会以前から、裁判官をはじめとする法曹不足についての指摘や議論はみられていたが、具体的な人数については定まらなかった。弁護士からの反対意見も根強かったものの、発言力のある中坊氏に半ば押し切られる形で、最終意見書に盛り込まれた。



この意見書を受けて改革法案が決定。2004年にロースクール68校が華々しく開校した。入学志願者は7万2800人集まり、倍率は13倍にも上った。



しかし現実は、審議会の理想とはほど遠かった。最初の年の2006年、合格者は1009人(旧試は549人)、合格率は48.3%だった。3000人目標を掲げていた2010年には、2074人と遠く、その後も一度も3000人を超えることはなかった。





もっとも合格者数が多かったのは2012年の2102人。同じ年、日弁連は「法曹人口政策に関する提言」で3000人の合格者数について「現状ではもはや現実的ではなく、抜本的に見直す必要がある」とし、1500人に減員させるよう訴えた。



2013年に公表された法曹養成制度検討会議の取りまとめでも「現実性を欠く」とされ、同年に開かれた法曹養成制度関係閣僚会議(議長・菅義偉官房長官)で、政府が「3000人目標」を撤回することとなった。



●ビジョンは「正夢」にはならず…

厳しい現実に直面しているのは、合格者数だけではない。改革の“目玉”とされたロースクールは、2004年の開校から徐々に失速し、その存在意義が問われている。志願者数は一気に落ち込み、2023年に入学者選抜をおこなったのはピーク時(74校)の半数以下の34校だった。





「7~8割」と期待されていた合格率は、2006年は48.3%、翌年は40.2%、その後は20~30%台に落ち込んだ。2011年に予備試験がスタートすると、ローとの差が歴然となった。受験生の間でも「行ってはいけない」「正規ルートは予備試験」などの声が上がりはじめ、多様な人材の確保のために設けられたロー未修者の合格率は7割とは程遠かった。





審議会の意見書には、次のように記載されている。



「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備することが不可欠である。そして、その中核を成すものとして、大要、以下のような法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けることが必要かつ有効であると考えられる」(「意見書」より引用)



プロセスとしての法曹養成制度の揺らぎを立て直そうと、2020年から運用が始まったのが法曹コース(3+2)だ。大学の法学部を3年で卒業し、ロースクールの既修者コースに2年間通う。2023年からはロースクール在学中の受験も認められるようになった(ただし、中退は許されない)。その結果、ロー進学者の合格率は40%台になり、数字上は一定の歯止めがかかった形だ。合格者の3分の1を占めた「在学中受験者637人」の中に法曹コースも含まれるはずだが、なぜか法務省は「法曹コースの人数は公表しない」と弁護士ドットコムニュースの取材に回答している。



審議会委員のひとりである法学者(刑事訴訟法)の井上正仁氏(東京大学名誉教授)は、初回の会議で次のように述べた。



「国民の皆さんにとって信頼でき、親しみやすい司法制度であると同時に、この激しい時代に耐え得るような足腰のしっかりした強い司法制度にしていくために、夢のある、夢と申しましても、正夢になるようなビジョンを構築することができればと希望しております」



大規模な司法制度改革に期待し、新たな法曹養成制度などに夢をみた人もいるだろう。ロースクールの開校から20年、当初のビジョンは「正夢」どころか、「霧散」したように見える。これまでの検証と課題の洗い出しが急務ではないだろうか。