2023年11月27日 10:21 弁護士ドットコム
近年、裁判官のなり手不足が問題視されている。任官して10年未満の「判事補」は長らく定員から100人以上不足しており、むしろこの現実に合わせるかのように定員数が減らされているのが現状だ。2016年には1000人だった判事補の定員は2023年には842人になっている(裁判所職員定員法)。
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毎年1500人ほどの司法試験合格者がいるのに、なぜ裁判官が不人気なのか。その理由は裁判所に「暗いイメージ」があるからだという。
津地裁部総括の竹内浩史裁判官が、11月22日にあった岡口基一裁判官(職務停止中)の弾劾裁判で証人として語った。
竹内判事は岡口判事について、裁判官も含め多くの法律家が利用するベストセラー『要件事実マニュアル』シリーズの執筆者として功績が大きいと述べる。
その上で裁判官としても、「脳脊髄液減少症」と交通事故の因果関係を初めて認める判決(平成17年2月22日福岡地裁行橋支部判決/高裁は脳脊髄液減少症を否定)を出したり、被害を訴える患者に対し逆転で新潟水俣病と認定する判決(平成29年11月29日東京高裁判決)に携わったりしたことを例示し、仕事ぶりを評価した。
一方で竹内判事は、最高裁が岡口判事に懲戒処分を下したことや、その最高裁も訴追請求しなかった中で開かれた今回の弾劾裁判には批判的な立場だといい、法曹志望者にもよく知られている岡口判事への「過酷な処分」などにより、裁判所は「暗いイメージ」を持たれ、「嫌われている」と語った。
竹内判事によると、裁判所がほしがるような優秀な司法修習生は、いわゆる「五大」と呼ばれる大手事務所との取り合いになる。このとき、裁判官へのイメージを悪くするため、大手事務所が例示するものの代表格が、岡口判事のケースなのだそうだ。
ちなみにもう1つは、エリートコースを歩んだあと、定年まで5年以上を残して依願退官した元裁判官の瀬木比呂志氏の著作『絶望の裁判所』なのだという。同書は、裁判所における思想統制や権力闘争について言及した本だ。
若手の裁判官が減れば、将来的に全体が先細りするだけでなく、中堅の裁判官の業務量が増え、途中離脱が増える可能性もあり、竹内判事は三権の一角である司法の弱体化に懸念を示した。
弁護士白書と国会答弁によると、新任判事補の任官数は、近5年で82人→75人→66人→73人→76人と推移しており、岡口判事のケースが修習生の志望度合いに影響しているかは定かではない。
ただ、裁判所内で修習生のリクルート方法についての変化はあるようだ。竹内判事によると、かつては司法修習生について現場の裁判官は勧誘に関与していなかったが、昨今は現場から見込みのある修習生を推薦するよう求められているという。
「五大」の一角であるTMI総合法律事務所で修習生のリクルートを経験したことがあるという訴追委員の古川俊治議員(参・自民)からは、毎年1500人ほどの司法試験合格者がいるのに、どうして裁判官の採用に苦労しているのかという趣旨の質問もあった。
これに対し竹内判事は、「裁判官の仕事の難易度が増しており、新人を育てる余裕がなくなっているため、昔より採用基準が上がっている」と回答。選り好みをしなければ良いのではないかとの再質問にも、「下限を下げるとかえって現場の裁判官が苦労する」と答えた。
裁判官の人手不足は国会でも定期的に議論されている。
たとえば、2018年3月の衆院法務委員会では、最高裁判所人事局長だった堀田眞哉氏が新任判事補の減少理由として、やはり大手事務所を中心とした採用における競合激化をあげている。
ただ、このほかの理由として司法修習生の減少もあげられたが、絶対数で見ると司法試験合格者数は旧試験時代よりもずっと多い。また、全国転勤への忌避感も理由とされているが、同じく転勤族である検察官に目を転じると、むしろ欠員は減少傾向にあるという。
こうした裁判所側の答弁に対し当時、「最高裁の採用の努力が足りない」と指摘したのは、今回の弾劾裁判の第二代理裁判長で弁護士でもある階猛議員(衆・立憲)だった。
裁判官の人手不足については、2023年の裁判所定員法改正時にも国会で議論されたが、このときも採用の難しさについての最高裁の理由説明は2018年と同じだった。