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ペ・ドゥナ、水川あさみ、鷲尾賀代が語る「映画界における女性の存在」の変化。トークセッションの詳細レポート

2023年11月24日 19:10  CINRA.NET

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Text by 廣田一馬

俳優の水川あさみ、韓国俳優のペ・ドゥナ、WOWOWチーフプロデューサーの鷲尾賀代が登壇したケリング「ウーマン・イン・モーション」トークショーが、10月27日にTOHOシネマズ日比谷で開催された。

同イベントは、10月23日から11月1日まで開催された『第36回東京国際映画祭』の公式プログラム。ウーマン・イン・モーションは『カンヌ国際映画祭』公式パートナーのケリングが2015年に発足したプログラムで、映画や文化芸術に携わる女性の活躍に光を当てるという取り組みだ。

映画界における女性の働きかたや描写をテーマに、日韓で活躍する水川、ぺ・ドゥナ、2011年から10年間をロサンゼルスで過ごした鷲尾賀代らがトークを展開した。詳細をレポートする。

オープニングには映画監督の是枝裕和が登場。これまでのウーマン・イン・モーションの活動とハラスメント防止ハンドブックについて語った。

是枝:映画の現場で活躍する女性たちのトークから、何が課題なのかをあぶり出していくようなイベントが映画祭の公式プログラムとして開催されるということは、とても進歩だと思っております。

去年の6月ぐらいから僕と諏訪敦彦さん、今日会場にきている監督の西川美和さん、岨手由貴子さんたちと「action4cinema」という、日本の映画界の働く環境を少しでも良くしていきたいという活動をしております。

女性が結婚や出産を経て働きたいと思ったとき、どうやったら仕事を続けられる環境を整備していけるのかということを提言をしたり、働きかけたりしていこうと思っており、その一環で制作現場のハラスメント防止ハンドブックというのを有志の皆で作りました。

おそらくこのなかにも、今後、映画界で働きたいスタッフとか、役者として現場に立ちたいと思ってる方たちもいらっしゃると思いますので、ぜひ一緒に一歩ずつ、日本の映画を巡る環境を良くしていく仲間になってください。

ステージには、ファシリテーターとして映画評論家の立田敦子も登壇。序盤は日本と韓国、アメリカの労働環境の違いについて語られた。

立田:ペ・ドゥナさんが考える、日本と韓国の映画界で違う点を教えてください。

ぺ:一番大きく違うのは、撮影時間がすごく短いことです。20年前の韓国映画業界では、短くても4ヶ月で、長い映画では10ヶ月かかった作品もあります。日本のとある作品では28日で撮影が終わりました。

アメリカは逆に10時間近くトレーラーで待機することもあります。朝7時に俳優を集めてトレーラーで待機させて、どの場所が一番美しく撮れるのかを探しながら、俳優が順番に呼び出されます。韓国のシステムは日本とアメリカの中間くらいな気がします。

鷲尾:アメリカはユニオンのルールが厳しく、1日12時間を超えるとかなりのオーバータイム料金がかかってしまうので12時間できっちり切っています。撮影が夜中に終わったら12時間は必ずあけるというルールもあって、働き方改革はすごく進んだ国だと思います。

ペ:私が最初デビューした20年前は本当に過酷で、2~3時間しか眠れないような日がたくさんありました。今週放映分を今週撮るという生放送のようなかたちで撮っていたんです。台本は5分前にメールで受け取っていました。いまは事前制作になるなど、韓国は良い部分を他国からすぐに吸収して、変化する国なのだと思います。

立田:水川さんは『釜山国際映画祭』に参加されましたが、どんな体験でしたか?

水川:海外の映画祭は初めてでしたが、質疑応答での映画に対する質問の深さが日本と違って衝撃を受けました。

文化としての映画の水準や、映画を観た人のリテラシーが全然違うことにショックを受けたというか……映画界や映画に携わっていきたい俳優の1人として今後のすごく大きな課題なのかもしれないというふうに思いながら、スンドゥブを食べて帰ってきました(笑)。

立田:ポン・ジュノ監督がパラサイトで『アカデミー賞』を受賞した時の「韓国の厳しい観客の目に育てられました」というスピーチが大変印象的だったんですが、実際に韓国の観客というのは厳しいんでしょうか?

ペ:はい、厳しいと思います。ほかの地域の観客と比較はできませんが、こんなに映画が大好きな民族は珍しいと思います。

映画館に行って映画を観るという文化が本当に日常生活に溶け込んでいて、映画をたくさん観る分だけ、よく知っているとも言えるかもしれません。韓国の観客のレベルが上がっているから、私たちもその目線に合わせることになるという相互作用があるんだと思います。

立田:ペ・ドゥナさんや水川さんが仕事を始められてから現在までに、映画界における女性はどのように変化したでしょうか?実感していることを教えてください。

水川:女性スタッフが増えてきたことはすごく感じます。技術のスタッフや力を使うようなスタッフ、撮影監督、チーフと言われる人たちにも女性がたくさんいて、現場で目にすることが増えたという印象があります。

ですが、女性が年齢を重ねていって、結婚して子どもを産んだり家庭を持つことと仕事をすることのバランスが取れないことはまだまだ多いと感じることはありますね。

立田:役柄的にはどうなんでしょうか?かつてハリウッドでは「40歳を過ぎたら女優に役はない」というふうに言われていたこともありました。

鷲尾:日本の作品は20代が主人公になることが多く、若い人しか駄目だという現状は少なからずあると思います。20代のうちは日本のドラマや映画で経験を積み、30代になってからハリウッドに行く方がいいという話を聞くこともあります。

アメリカでも、#MeToo運動の前までは「40歳を過ぎると女性が主役の映画やドラマはほぼなくなる」と言われていましたが、リース・ウィザースプーンのように自分で制作会社を作って、40代以上の女性が主人公の良い企画を探し、監督、脚本家などヘッドは意図的に女性しか雇わないという方法でオスカーにノミネートされる作品を撮っている方もいます。

立田:韓国の変化はいかがでしょうか?

ペ:私がデビューした25年前と比較すると本当に良くなりました。私が最初に女性監督と仕事をしたのは2000年代序盤の『子猫をお願い』という作品でしたが、そのころ女性映画監督は本当に少なく、指で数えられる程しかいなかったと思います。

当時私が感じたのは、女性スタッフが最年少でいるときはみんなにかわいがられるんですが、彼女たちが監督になると摩擦が生じることです。男性監督だったら生じなかったような葛藤がなぜ女性監督では生じるんだろう、不当だなと思っていたのですが、いまはそういうことが本当になくなりました。

立田:#MeTooムーブメントについてはどのように捉えられているんでしょうか?

鷲尾:#MeTooのムーブメントが始まったとき、私はアメリカにいたのですごく問題意識がありました。それまで白人の男性がメインで雇われていたポジションに、必ずマイノリティか女性をつけようという声が一気に上がったんです。

私の考え方として、実力ある人を雇った結果たまたま全員白人の男性でも、たまたま全員黒人の女性でもいいんじゃないかと思っていました。でもアメリカの方と議論したときに「いままで白人の男性がずっと雇われてきたから、マイノリティや女性はスタートラインにも立ってない。経験を積んできた白人の男性と比べるのは不公平だから、いまは意図的に機会を与えるために女性やマイノリティを雇って、その後に平等に実力で比べられる時代が来るんだ」って言われてハッとしました。

その後短期間で業界はガラッと変わったので、変化を恐れないアメリカの底力を知った気がしています。日本は変わることがすごく不得意なので、最初は他国の真似からでも、変わっていくべきだとすごく思いました。

立田:日本では、どこを改善すれば女性が働きやすくなると思いますか?

鷲尾:変わらなければいけないところは山のようにあって、それを一斉に底上げしなきゃいけないと思います。

映像をつくる側にも責任があります。今年公開された『リトルマーメイド』では、7つの大海のマーメイドたちが、各人種綺麗に混ぜてあって、一番最後のみんながお祝いするシーンでは、男性、女性、LGBTQの方々が明らかにわかるように描かれてるんです。私自身、ここまで描かなきゃ駄目なんだってちょっと違和感を感じたんですね。

でも、それは私が子どもの頃から白人のリトルマーメイドを見ているから感じることであって、生まれて初めて見るリトルマーメイドがああいうかたちであったとき、いまの子どもたちは私が持ってるような固定観念を持たず、多種多様な人種が世界中にいるかたちを常識として育っていくと思うんです。

いまの日本のドラマ・映画では、政治家や大企業の経営陣の会議シーンになると、スーツを着た60歳以上の男性ばかりを並べると思うんですが、それが女性と半々になっても違和感を抱かないように、少しずつ映像の方も変えていかなければいけないと思ってます。せめて10年後ぐらいには、それらが違和感なく見られるような世界になればいいと思っています。

立田:ペ・ドゥナさんは『あしたの少女』という実際に起こった女子高校生の自殺事件をベースにしたドラマにも刑事役で出演されています。大作ではなく、無名の女性監督の作品に参加することには、若い女性監督を応援しようというモチベーションがあるんでしょうか?

ペ:出演した理由は、すべてを差し置いてシナリオが素晴らしかったからです。ただ、チョン・ジュリ監督のような、才能のある女性監督たちがデビューできる機会は応援したいと思っています。

ペ:女性映画人として、どうして韓国には男性の映画が多いのかといつも考えています。なぜ男性俳優はこの映画でもあの映画でも頻繁に会うことができるのに、女性の俳優同士は出会う機会が少ないのかといつも思っていました。男性俳優が多く出ている映画の方が興行成績がうまくいくからかな?

であれば「女性俳優が多く登場する映画を作ってほしい、つくってください」と言うだけでなく、面白い映画をつくることによって観客を呼ぶ必要があります。そのためには魅力的な女性キャラクターが必要ですし、確率的に女性監督や女性作家の方が生き生きとした女性像を描けると思うんです。なので、女性の監督や映画人、作家を心の奥底から応援しています。

立田:最後に、これから映画業界で活躍を目指す女性たちへのアドバイスをお願いします。

鷲尾:身も蓋もないかもしれないですけど、若い方はアメリカのフィルムスクールに行くのが一番早い手だとは思います。向こうはシステマティックな仕組みがありますし、そういうところを目指すのがいいと思います。

日本にいながら映画業界を目指すのであれば、日本の文化として「出る杭は打たれる」というのがありますし、打たれてもそこまでめげないメンタリティを持つことは大事だと思っています。

また、運は重要な要素で、チャンスは多分1回か数回しかやってこないと思います。そこをつかみ取る準備を常日頃からずっとしておくこと。それが私自身がいままでずっとやってきたことなので、そういうふうにやれば、なんとか誰かが見てくれてるんじゃないかなと私は信じて、頑張っていきたいと今後も思います。

水川:ちょうど6年ぐらい前に、私はプロダクションを辞めて独立しました。その頃の業界では、それこそ「出る杭は打たれる」じゃないけど、本当に煙たがられるような存在になった時期もありましたが、映画に関わりたいってすごい純粋な気持ちで1歩ずつやって、何年か前には映画で賞をいただくこともできて、やっと映画の神様が肩を組んでくれたっていうことがあったんですね。

当たり前のことだけど、純粋な気持ちで何にどう関わっていくか。鷲尾さんがおっしゃるように、準備をしておくこと、何が起きても自分の確固たる気持ちは変わらないという強いポリシー、マインドを持ち続けることがすごく大事な気がします。

ペ:「出る杭は打たれる」という言葉に私は衝撃を受けましたけれども……確かに出る杭は打たれますよね。でも、出る杭が集まっていれば、どこを打ったらいいのかわからなくなって大変なのかもしれません。当たって砕けろでぶつかってみてください。