2023年12月で開設から15周年を迎えるコミックナタリーでは、
15周年に合わせた企画を続々と展開中。人間で言えば15歳とは中学から高校に上がる節目であり、服装から言葉づかいまで心と身体の成長に合わせてありとあらゆるものが変化していく思春期の真っ只中だ。マンガ読みとしても、思春期を境にそれまでと読むマンガの趣味がガラッと変わったという経験を持つ人も多いのでは? このコラム「15の夜に読んでたマンガ」では、そんな15歳の頃に読んでいた思い出深いマンガについて人に語ってもらう。
【画像】SFマガジン編集長・溝口力丸の「今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガ」は第8回はSFマガジン(早川書房)編集長の溝口力丸氏が登場。冨樫義博「レベルE」を題材に「15の夜に読んでたマンガ」を語ってもらった。また「今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガ」も記事末で紹介している。皆さんも、自分の「15の夜に読んでたマンガ」を思い出しながら読んでもらいたい。
文 / 溝口力丸 リード文・構成 / コミックナタリー編集部
■ 15歳の頃に読んでたマンガと、読んでた当時のことを教えてください
□ 冨樫義博「レベルE」(集英社)
私が15歳だった2006年頃は「HUNTER×HUNTER」が長期休載していた時期にあたり、こんなメチャメチャ面白い漫画の続きが読めないなんて……とやきもきしていた折、当時のオタク友達(ネットで拾ったアンパンマンのパロディ絵を携帯の壁紙にしている)が貸してくれた。「幽☆遊☆白書」は知ってたけど、こんなダークそうな作品もあったのね、と読み始めて、まあ驚きました。たった3巻(JC版)に詰め込まれたSFアイデアの奔流、作劇の巧みさ、バカ王子のとんでもなさ! 冨樫先生はこれを30歳前後で執筆したという事実の恐ろしさを、自分が30代のSF編集者になって改めて痛感する。異星人との接触、宇宙生物学、RPG、ジェンダー、精神世界──個々の題材の古びなさにも舌を巻くばかり。人類や社会を徹底的に俯瞰して相対化し、思い切り茶化す。この巨大な視野とユーモアこそがSFの醍醐味ですね。掲載誌が週刊少年ジャンプ(集英社)だったのもあってか、読者=子どもの目線を忘れないのも心憎い。主人公・筒井雪隆を筆頭に、SFやミステリ小説の愛読者をニヤリとさせるパロディも多数。ラファティも出るよ。
■ 今の自分から、15歳の自分におすすめしたいマンガはありますか?
□ 桜井のりお「僕の心のヤバイやつ」(秋田書店)
おーい、そこの中学生! そう、きみだ! ハァ…ハァ……私は17年後の未来からきた、きみ自身だ。今からとても大事なことを伝える。きみの人生にとって、いや全宇宙にとって大事なことなんだ。中高一貫男子校に入ったきみは、来年そのまま高校へ進学しようとしているね? この本を読んでほしい。そう、今ここで。32歳の私の目の前で、最新刊までを一気に。え? その左手の缶ビールは何かって? これから起こることへの、祈りみたいなものなんだ。どうか信じてほしい。15歳のきみがこれを読めば、きっと何もかもが変わるはずなんだ。大丈夫、絶対に、全てが大丈夫だから。さあ、読み始めてくれ!
■ 溝口力丸(ミゾグチリキマル)
1991年生まれ、小説編集者。2014年早川書房に入社、SFマガジン編集部所属。2021年より同誌編集長。今年(2023年)刺さったマンガはheisoku「春あかね高校定時制夜間部」(KADOKAWA)。