2023年11月16日 12:41 弁護士ドットコム
契約形式上はフリーランスだが、実態は企業に雇用される労働者と変わらない「偽装フリーランス」問題で、フリーカメラマンの男性(40)が、撮影現場へ向かう途中にあった交通事故について、品川労働基準監督署は労働災害と認定した。男性を支援するユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)が11月15日に都内で開いた会見で明らかにした。
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雇用契約を結ばず企業から発注された仕事を受けるフリーランスは労働基準法上、労働者とはみなされず、けがなどを負っても原則として労災の対象にならない。今回の品川労基署の労災認定は、フリーランスであっても「労働者性」があると認められた形だ。(ライター・国分瑠衣子)
労災支給決定日は10月12日。男性や出版ネッツによると、男性は2020年から都内の広告の写真撮影を行う会社と、半年ごとに業務委託契約を結び、同社が受注したカタログの商品撮影などを行っていた。2022年7月に車で撮影現場へ向かう途中、高速道路で渋滞に巻き込まれた時に、トラックによる追突事故にあい、頸椎捻挫や左足の指を骨折するなどのけがを負った。出版ネッツの支援を受け、2022年12月に品川労基署に労災申請した。
「フリーランスは労働者ではない」と言われるのはなぜか。労働者は会社と雇用契約を結んで、会社に役務を提供し、会社の指揮命令を受けて仕事をする。労働関連法に保護され、有給休暇や残業代、労災補償を受けることができる。
一方、フリーランスは仕事の発注者と業務委託契約を結び、発注された仕事をする。仕事の進め方には自由な裁量がある。原則として労基法上の労働者には当たらず、労働関連法で保護されない。フリーランスが働く時間や場所に拘束されたり、一社に専属して他の会社の仕事を受けれないほどの労務を提供したりなど、実態は労働者と変わらないのが「偽装フリーランス」だ。
カメラマンの男性は、基本的には週5日就業し、繁忙期は月200時間働くこともあり、別の会社の仕事を受ける余裕はなかった。会社側が翌月のシフト表を作り、指示された時間と場所で働いていた。このほか、アプリで複数のカメラマンのスケジュールを管理していたという。現場での撮影自体は、男性に裁量があったが、場所や時間は発注元に指定されていた。
今回、労基署がどのような理由で労働者性を認めたのか。出版ネッツは今後、情報開示請求をするが、前述のような場所や時間的な拘束、業務遂行上の指揮監督の有無、代替性の有無などを見て、労働者性が認められたのではないかとみている。
男性は10年前からカメラマンとして仕事をしてきた。男性が事故にあう3カ月前に、同じ会社と業務委託契約を結ぶ、フリーカメラマンが撮影中に、頭の上に機材が落ちてきて負傷し、救急車で搬送された。命に別条はなかったが、男性は労災申請せずに自分で治療費を支払ったようだった。「もし命にかかわる事故や重い障害が残る場合は、会社はどうしたのかと考えました」と振り返る。そして男性も事故にあった。
労災認定を受け、男性は「まず安心しました」と話し、「多くのカメラマンは撮影については勉強もするし、新しい情報を得る努力もしますが、法律や制度、社会の動きについては疎い人が多いです。会社側へのあきらめもあるかもしれません。会社側がきちんと対応するような法律をつくってほしい」と話した。
男性は話すことが苦手で、会見の場で話すことは気が進まなかった。だが「フリーランスの働き方に貢献できるのであれば」と思い切って会見に出ることを決めた。
偽装フリーランス問題を巡っては、2023年4月に成立したフリーランス新法の国会審議で「いわゆる偽装フリーランスや準従属労働者の保護のため、労働基準監督署等が迅速かつ適切に個別事案の状況を聴取、確認した上で、適切に対応できるよう十分な体制整備を図ること」と、附帯決議がつけられた。2023年9月にはAmazonの配達員が労災認定された。
出版ネッツによると、偽装フリーランスは出版社で働く編集者、校正者なども多い。出版ネッツの杉村和美さんは「フリーランスの働き方は多様で、今回のような認定の積み上げが道を拓くことになります。偽装フリーランスの労働者性が認められた意義のある決定です」と話している。
会社側の代理人は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「現時点でのコメントは差し控えさせていただきます」と回答した。