2023年11月14日 20:11 弁護士ドットコム
今年9月30日に宝塚歌劇団の団員の女性が亡くなったことをうけて、劇団は外部チームによる調査報告書に基づき、自死の背景に過酷な長時間労働があったことを示唆する内容を踏まえて、謝罪した。
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一方で遺族側が死亡理由として主張している「ハラスメント」については「確認できなかった」と否定した。
遺族側の代理人も同日、東京の厚労省で会見を開き、このような報告書の内容について「結果にも問題があり、結果に至る過程にも問題がある」などと評価し、再度の検証が必要だとした。
遺族側は入団7年目の女性は「長の期(下級生のまとめ役)」として、新人公演や本公演の準備に向けて、亡くなる前の1カ月は400時間を超える労働時間があり、時間外労働も250時間を上回っていたと主張していた。
報告書では、それより少ないものの、死亡前1カ月間に118時間以上の時間外労働があったと認定し、強い心理的負荷が女性にかかっていた可能性を否定できないと評価している。
川人弁護士は、労働時間の過小な算出や認定には問題があるとしながらも「この報告書部分の内容と評価については、積極的な意義を持ち、事実上、女性の死亡が業務に起因するものであることを示唆したと解釈できる」とうけとめた。
他方で、報告書は、2021年8月14日に上級生がヘアアイロンを押し付けて女性の額を火傷させた「ヘアアイロン事件」などのいじめやハラスメントはなかったとしている。
川人弁護士は、劇団診療所の看護師による「当時故人の火傷を見たが痕には残らない程度の火傷と思われた」などの証言を採用し、故人と家族の間でやりとりしたLINE(「まえがみ」「●●(上級生)にまかれて」「やけどさされた」「ちゃいろになってる」「わたし」「でこ」「さいあく」「くすりもらってるけど」「芝居の通しが痛かった」など)の内容に言及していない報告書の内容には「やけどは大したことないかのような事実摘示をしている点は納得できない」として、「失当(間違い)」と指摘した。
「あえて言えば、確定的故意に基づいて行ったものでなくとも、未必の故意があったと評価するのが法的には相当である。
上級生がわざとやったのではないと否定したとしても、上級生がこれだけの怪我を下級生に負わせたのであるから、そのことについて女性と関係者に深く謝罪すべきところ、何一つ謝罪を行っていない。すなわち、故意性が仮になくとも、重過失であることは明白であり、そのような場合に、怪我をさせた者が謝罪することは不可欠な道義である。
劇団はこの問題については故意でないというだけで、怪我をさせたこと事態について、何ら上級生を批判していない。そして、調査委員会は、謝罪があったかどうかを何ら検証していない」(遺族側の資料から)
「ハラスメントをここまで否定するのか。あまりに遺族に失礼ではないか。落胆と同時に許せないという気持ちを持っている」(川人弁護士)
川人弁護士は、今回の報告書をつくった外部弁護士の調査チームにも「限界がある」と言及した。
「劇団側は『外部委員会』という表現をしているが、第三者委員会ではない。
日弁連は、第三者委員会がおこなうべき調査の方法、結果の取り扱いなど厳格に定めています。『外部』という意味は、劇団や阪急の顧問弁護士による調査ではないと言っているにすぎません。
私は今回の第三者委員会の形での発足ではなく、会社からの依頼による調査委員会のある種限界を示したと思っています」(川人弁護士)
また、調査にあたっては、劇団関係者や遺族だけではなく、ハラスメントの専門家などにも協力を求めるべきだったのではないかと指摘した。
今後、遺族側は事実関係を検証し直すことを求める意見書を劇団に提出する。また、劇団側と11月末までに面談交渉を実施する予定だ。
ハラスメントの問題に向き合わずに済ませた場合、「劇団ではきっと同じことが起こる」と述べ、交渉を続けることにより「裁判所の手をわずらわせることなく、劇団は姿勢をあらためてもらいたい」とした。