2023年11月14日 07:00 リアルサウンド
『週刊少年ジャンプ』に40年間連載された漫画、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。高い人気を誇る理由はさまざまなものが挙げられるが、その1つに「先見性」がある。
(参考:【写真】「ブガッティ ヴェイロン」「フェラーリF40」……『こち亀』に登場した憧れの高級スポーツカーをみる)
秋本治氏が漫画で描いた「未来予想図」はしばしば具体化され、ビッグビジネスに発展したケースも。そこで今回は『こち亀』で語られたアイデアがビジネスになったケースとその売上を検証したい。
オンラインミーティングツール
新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに普及したZOOMやGoogle Meetなどのオンラインミーティングツール。このツールとネット回線を使えば、日本はもちろん海外にいる人とも、会話を楽しむことができる。
このオンラインミーティングツールを、『こち亀』は昭和から平成になった1989年に予言していた。ミーティング参加者には予めテレビ付きのカメラを送り、集合場所で全員をモニターに映す。それを第三者が持つ一方のテレビ付きのカメラで撮影することで、ミーティングを実現するのだ。「マドンナ的な存在の女性が見たい」とリクエストされると、両津勘吉が集合場所のカメラを移動させていた。
漫画では「オンライン飲み会」が中心に描かれていたが、ビジネス会議に用いられる描写も。現代の背景画像がカツラ付きの等身大パネルという形で用意されていた。
オンラインミーティングツールはコロナの影響もあり市場規模を拡大。株式会社富士キメラ総研が2022年に発表した調査によると、オンラインミーティングの市場規模は2021年度で369.9億だそうだ。
雪駄スニーカー
エアマックスなどが流行していた時代に、両津は金儲けのためスニーカーの製造を行う。そこで完成したのが、「エアワラジダンク96田吾作モデル」だ。これはワラジとスニーカーを合体させた履き物で、イエローグラデーションを施したもの。靴を見た中川は「こんなの売れるんですか?」と疑問視をする。
しかし両津は「これこそスニーカーの原点」「近頃のスニーカーはデサイン優先が多く、足のことを考えているとはどうも思えない。欧米人と日本人の足の形が違うだろ。日本はもともと下駄と草履だぞ」と一喝。そしてシューズと草履が合体したこの「エアワラジダンク60」の優位性を主張していた。
この「エアワラジダンク」に似た履き物が、令和の時代に登場している。「gyoemon(ゴエモン)」というメーカーが発売する「unda-雲駄-」だ。これは草履より底が厚い「雪駄」にスニーカーを合体させたもので、日本古来の履き物と欧米のスニーカーをかけ合わせる発想は「エアワラジダンク」に通じるものがある。
雪駄スニーカーは2019年2月、クラウドファンディングサイトで先行販売した180足が即完売になるほど人気を誇っている。
寿司ロボット
現在高い人気を誇っている回転寿司。大手メーカーでは多くの利用客に寿司を提供するため、機械化が進んでいる。その1つが、「寿司ロボット」。自動でシャリを握ってくれるもので、1時間に約3000~5000貫握ることができる。
そんなロボット寿司を『こち亀』は1993年に予測していた。それは両津と因縁浅からぬ「大尽ずし」に導入されていた「にぎっ太くん」だ。人間のオーダーを認識して自動で寿司を握る、ハイテクなロボットだった。
にぎっ太くんはまだ完璧ではなかったようで、両津のオーダーを認識できなくなってしまう。これに両津は怒り出してしまい、流れる寿司のネタに唾を付けていく迷惑行為をするに至った。
回転寿司は外食産業のなかでも屈指の人気を誇る。2021年度の売上は約7400億円と好調だった。両津の「回転寿司唾の舞」も現実になり、業界の信頼を揺るがす事態となったが、それでも人気は衰えていない。
課金ゲーム
今ではすっかりポピュラーとなった課金ゲーム。ゲームを有利に進めるため課金をしてアイテムをゲットしていく手法は、今やあたりまえとなった。
『こち亀』では課金ゲームが普及していなかった1996年に恋愛ゲームという形で登場。本田速人がゲーム内の女性キャラに「洋服がほしいからキャッシュカードのナンバーを教えて」「5万円の水着を買って」などとねだられ、言われるがままに課金していた。
また105巻でもゲーム好きの左近寺が、ゲームセンターに置いてあった超美少女シミュレーションゲームで女性キャラから「買って買って攻撃」受けて課金してしまう描写も。もちろん、本田もハマっていた。これに目をつけた両津はプレーヤーを催眠状態にして品物を買わせるという悪質なゲーム機を開発し、大問題となった。
スマートフォンの普及とともにモバイルゲームは全世界に普及。角川アスキー研究所によると、2022年の市場規模は8兆9146円だったそうだ。
ビジネスになったアイディアが多数ある『こち亀』だが、まだまだ実現に至っていないアイディアもある。今後、技術が『こち亀』に追いつく可能性も、ゼロではないだろう。
(文=佐藤俊治)