未経験の新人にとって、何も教えてくれない先輩から無能扱いされるのは、耐えられない苦しさだろう。ITエンジニアの30代男性は今から10数年前、新卒でIT業界に入り散々な目に遭った。ソフトウェア開発を行う会社だったが、当時、まともな新人研修は一切なかったと振り返る。
「ビジネスマナーなど一般的な研修は無く、上司おすすめの論理的思考を説く本を読んで1週間で終了でした。その後いきなり開発プロジェクトに投入され、やり方やフォーマットなどの説明はなく、いきなり開始となりました」
研修もなく即現場という酷いムチャ振りだった。最後は「この会社もう無理!」となって転職したというが、一体何があったのか。男性は編集部の取材に当時の過酷さを語ってくれた。
質問したら「文句があるなら自分のやり方でやってみろ!」と怒鳴られ…
男性が投げ込まれたのはソフトウェア開発のプロジェクトで、頼るべき上司は無慈悲だった。
「当時は書類も上手く書けませんし、聞いても教えてはくれません。たとえ回答を貰っても、説明のほとんどを端折った上級者向けのものでした。よく分からずに根本的な部分を質問したら『文句があるなら自分のやり方でやってみろ!』と怒鳴られました」
そもそもの部分が分からないから質問しただけなのに「文句」と決めつけられ、怒鳴られるのだからやりきれない。
「当然、良いやり方など考案できるわけもなく、何とかこなそうとガムシャラにやってましたが結果は散々でした」
プロジェクトを仕切る上司は現場では「仕事はすごく出来る人」と評価されており、一人で何千万も売り上げる人物だったという。だからなのか、育成に時間を割く気など無いようで、学校を出たばかりの男性にも即戦力を求めた。こんな厳しい言葉を言われたこともあったという。
「失敗続きの時に『やっぱり今の専門学校卒はダメだな。もう二度と専門学校生は取らない』と言われ、 それまで学んだことを全否定された気分でした」
思えばこれが、「退職を決意した決定的な一言かもしれません」と胸中を吐露した。
「うちは労働基準法を採用していないから残業手当も無い」
しかも勤怠管理もずさんだった。「日々、残業と徹夜で心身ともに追い詰められていました」と悲惨さを振り返る。
「いくら残業しても残業代なしでした。土日出勤も当たり前で、もちろん手当もありません。勤務表もないので自分が何時間働いているかも不明の状態でした」
労働法などおかまいなしだったようだ。そんな会社であることは、入社直後に知らされた。
「残業手当が無いことは、入社初日に『うちは労働基準法を採用していないから残業手当も無い。そんなもの採用しているのは超大手企業だけだ』と言われて初めて知りました」
「勤務表は、最初の月末に『どうせ全て定時扱いだから代わりにこっちで書いておいてあげるよ。従業員に負担をかけたくないから』と言われました。どちらも経営トップからの言葉です」
法律なのだから企業規模に関係なく守らなくてはならない。10数年前のこととは言え「大手じゃないから労働基準法は関係ない」とは無茶苦茶な言い分だ。しかし男性は
「恥ずかしながら当時は新卒で労基法の知識もなく、社長に言われたことを鵜呑みにしてしまい、改めてそこを問うことはしませんでした」
と反省を語る。こうして改善の余地もなく何とか耐えていたものの、「1年と経たずに辞めました」と早々限界が来てしまった。
辞めるときには、上司から
「お前みたいなクズはどこに行っても使えない。一生就職できずに野垂れ死ぬんだな」
と酷い捨て台詞を投げつけられたという。しかし、「その後はいくつかの転職を経て、今では幸せに暮らしています」と語り、仕事は順調のようだ。自身のキャリアをこう振り返る。
「キャリアとしてはこの会社はいい経験でした。徹底的に考える、何があっても完了させる、という精神が身に着いたので。おかげで今、どこに行ってもリーダー層の仕事をさせて貰えてます」
どうやら悪いことばかりではなかったようだ。加えて「全新卒に言いたいのですが」として、
「労働基準法を勉強した方がいいです。主張して良い権利と共に果たすべき義務も学べます。皆が法を理解することで社会が適切に動いてくれることを願います」
と力強く語った。
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