2023年11月12日 09:41 弁護士ドットコム
ジャニー喜多川氏の性加害問題をめぐり、ジャニーズ事務所(現・スマイルアップ)の対応が問われる中、SNSを中心に「ちびぬい」と呼ばれる所属タレントをモデルにしたぬいぐるみに対する批判が再燃している。
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「ちびぬい」は2018年から公演などの企画で販売されてきたグッズで、一部のジャニーズファンに人気があり、現在もメルカリやヤフオクで高額売買されている。
しかし、過去に販売された「ちびぬい」に乳首や男性器まで表現されていたことから、2020年にはSNSで「キモい」「タレントへのセクハラ」などと批判を浴びて炎上している。当時、未成年のタレントの「ちびぬい」も含まれていた。
さらに今年、ジャニー喜多川氏の性加害問題が大きく報道されると、再びSNSでは「性加害では」「女性アイドルでやったらとんでもなく炎上する」「ジャニー喜多川とやっていることが同じ」といった声が相次いだ。
弁護士ドットコムニュース編集部が10月10日、「ちびぬい」について旧ジャニーズ事務所に取材を申し入れたところ、スマイルアップから10月17日、「ご不快な思いをされた方がいらっしゃることについて、申し訳なく思っております」という回答があった。
「ちびぬい」が企画・販売された背景には、「男性や男児の性被害が軽視されてきた社会の問題がある」と指摘するのは、『男性の性暴力被害』(集英社新書)の共著者で、臨床心理士でもある宮﨑浩一さんだ。今、どのような視点が求められているのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
スマイルアップによると、「ちびぬい」は、「赤ちゃんをモチーフにしたタレントのぬいぐるみを作るとの意図」で企画された商品で、これまでに「関ジャニ∞」「なにわ男子」「Aぇ! group」「Lil かんさい」のほか、一部の関西ジュニアのものが販売されてきたという。
乳首や男性器が表現された「ちびぬい」の商品化にあたり、タレント自身やタレントの保護者の同意は得たのかという質問に対し、スマイルアップの広報担当者は「『ちびぬい』に関わらず商品の企画に際しては、全てにおいて保護者の同意をいただいているものではありませんが、タレントとも協議のうえで進めております」と回答した。
また、「タレントの性的搾取ではないか」という批判についてどう考えるか質問したところ、次のように謝罪した。
「ご批判については真摯に受け止めており、ご不快な思いをされた方がいらっしゃることについて、申し訳なく思っております」
「『ちびぬい』が、わいせつ物にあたるかどうか、法的にアウトかどうかという客観的な線引きの前に、商品化自体がそもそも性を守ろうとしていないことは明らかだと思います。
『タレントと協議して企画したからOKです』という態度は、タレントを守ることにはつながらず、周囲の大人たちがそこに気づけなかったことに意識の低さを感じます」
男性の性被害を研究テーマとする宮﨑さんは、そう指摘する。宮﨑さんは、ジャニー喜多川氏の性加害問題について注視してきた。
「この問題について、なかなか一言では言い切れないと思っています。ただ、部分的なことで言えば、芸能界で大きな権力を持っていたことを背景に、長期間に渡って加害が続いたという特殊な事件である一方で、学校や部活動などの組織の中で起きている問題と構造的に似ています。
これだけの被害が明らかになると、不思議に感じるかもしれませんが、男性優位の社会の中では、男性が被害者であることが認められづらい状況があります。男性や男の子は性被害に遭わないという社会的な通念があったのです」
たとえば、強制性交罪(現在の不同意性交罪)ができて、それまで『強姦罪』の対象とされていなかった男性も被害者に含まれたのは、2017年であり、つい最近のことだ。
そうした社会的な通念と「ちびぬい」は決して無関係ではないと宮﨑さんは指摘する。
「今でこそ、『プライベートゾーンは大事である』と言われるようになっていますが、少し前まで子ども向けアニメでデフォルメされた男性器が描かれるなど、子どもの遊びの延長線として、男性器は扱われてきました。
もし仮に女性アイドルの『ちびぬい』があったとしても、女性器は絶対に表現されないと思います。しかし、男性器は、子どもであれば遊びであり、大人であれば誇示するシンボルとしてみられます。
男性器で遊ぶことは、わいせつなものとして扱われず、男性や男の子の性が守られてきませんでした。学校で『男の子の遊び』とされてきたカンチョーやズボン下ろしもそうです。
男性や男の子の性が守られていないことに気づかない大人の視点の欠如が、一番の問題です。その背景には、ジェンダーやセクシュアリティの規範の影響や偏見があるのではないでしょうか」