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19世紀に発明された視覚効果「ペッパーズ・ゴースト」を参照する展覧会が開催

2023年11月08日 19:10  CINRA.NET

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展覧会『ペッパーズ・ゴースト』が11月11日から根津・The 5th Floorで開催される。同展では演劇、映画、遊園地などにおいて、観客の目から隠れた場所にある画像や人、モノが舞台に反射され、立体的な幻像を結ぶという19世紀に発明された視覚効果「ペッパーズ・ゴースト」を参照。参加作家はテクノロジーの没入的な感覚や体験を彫刻、アニメーション、マルチメディアインスタレーションで視覚化・具現化するミシェル・セハと、異質な要素が共存する「ハイブリディティ」の概念や断片化された自己認識といったテーマを扱うエリオット・ジュン・ライト。2人の作品を通して、社会的な分断や人工知能といった技術の広がりを見せる現代において人々がオンライン上のイメージに触れる際の認知的な状況を探る。キュレーターは宮澤佳奈。【ステートメント】19世紀に発明された視覚効果である「ペッパーズ・ゴースト」は、演劇、映画、遊園地など、様々なエンターテイメントの中で使用されてきました。それは、観客の目から隠れた場所にある画像や人・モノが、舞台に反射され、立体的な幻像を結ぶという技術です。産業革命後のヨーロッパで普及し、変容の時代におけるイメージ、科学技術、そして何が「現実」で何が「幻想」かをめぐる、不安や曖昧さと密接な関係を持って生まれました。今日においても、私たちは19世紀のそれと遠くない「ゴースト」の化身に翻弄され、魅了され続けているのではないでしょうか。私たちの世界や自己をめぐる基本的な認識は、一秒ごとにグローバル・ウェブを駆け巡る視覚的情報によって大きく形づくられています。「ペッパーズ・ゴースト」の登場は、19世紀の観客に「能動的な解読を必要とする幻影※1」を突きつけました。社会的な分断や、人口知能といった技術の広がりを見せる現代においても、私たちがオンライン上のイメージに触れる時、同様の認知的な危機に直面していると言えるでしょう。そうした中で、本展における「ペッパーズ・ゴースト」の概念と技術は、ミシェル・セハとエリオット・ジュン・ライトの二人の作家の実践が交錯する地点となります。ミシェル・セハは、現代におけるテクノロジーの没入的な感覚や体験を、彫刻、アニメーション、マルチメディア・インスタレーションといったかたちで視覚化・具現化します。セハのデジタルへの傾倒は、2000年代後半から2010年代にオンラインでのコミュニケーションや創作ツールが飛躍的に一般化し、デジタル領域の可能性に対する理解が変化した背景からきています。セハの作品において、私たちの日常のデジタル的な側面は、物理的な存在から完全に独立したものでも、それに従属するものでもない何かとして出現します。またその制作過程は、デジタル領域特有の、3Dグラフィックソフト等で生まれる形態やジェスチャーと、物理的な素材の制約やそこから得た着想との、行き来を繰り返します。エリオット・ジュン・ライトは作品を通して、異質な要素が共存する「ハイブリディティ」の概念や、断片化された自己認識といったテーマを扱います。ライトの作品はしばしば、作家が「文化生産の残滓」と呼ぶ、社会的・文化的な価値(理想的なライフスタイルや、概念化された「アジアらしさ」)を生み出し、拡散し、再生産するものから構成されます。その素材は、年代物のライフスタイル雑誌や、韓国の美容マスク、乾燥食品、アニメのセル画まで多岐に渡ります。こうした素材をパラコードやアルミニウム、樹脂といったありふれた大量生産品と混合し、対比することで、人間らしくもどこか不気味な、見慣れたようで得体の知れないオブジェが生まれます。テクノロジーをめぐる感覚や体験、文化的な価値の創造などをそれぞれに扱うセハとライトのコラボレーション作品では、「ペッパーズ・ゴースト」をはじめとする視覚効果が、コンテンツを届けるための単なる「媒体」を超えた存在として現れます。スクリーンの画像から生み出される「ゴースト」を目の当たりにするという体験はむしろ、私たちが現代に生きている現実の本質を浮き彫りにしているとも言えるでしょう。本展の舞台となるThe 5th Floorは、かつて社員寮として使われた建物にあり、その佇まいと構造には、以前の面影が幽霊のように宿り続けています。ともすれば私たちが展覧会と呼ぶものは、19世紀における「ペッパーズ・ゴースト」のように、一人ひとりがもつ常識や価値観といった枠組みを、つかの間でも保留させてくれる体験として機能するのかもしれません。