タワーマンションの住人を羨ましがる人は多い。しかし、そのほとんどに「タワマンは高層階に住んでこそ」という固定観念があるのではないか。
「タワマンに住んでると言うと大抵聞かれる『何階?』ってやつに困っています。私の部屋は低層階だから、何階と正直に言うと『あ、そうなんですね』と気まずそうに返されます。『低層階のほうが停電でエレベーター止まった時とかいいよね』とか言われますが、数年に一度あるかないかのことを慰められるんです」
こう語るのは、都内湾岸エリアのタワマンの一桁階に住んでいる50代前半の女性だ。タワマン低層階の暮らしぶりはどのようなものなのか。編集部はこの女性に取材を申し込んだ。(文:國伊レン)
南向きの低層階は5000万円、対して高層階の北向きの部屋は4700万円
女性は、10年ほど前に湾岸エリアのタワマンの部屋を一人で購入したという。約60平米、間取りは2LDKで、気になる購入価格は5000万円とのこと。頭金は2000万円だった。月々の返済額は9万円弱でローンは残りあと25年くらいだそうだ。これとは別に、管理費が駐車場込みで7万近くかかる。なお、購入時の年収は370万円、現在は550万円ほどだという。
「そもそもタワマンに住むという気持ちは全くありませんでしたが、離婚に伴い以前住んでいたマンションが広すぎたので引っ越しを決意、目を付けたのが湾岸エリアでした。
再開発が決定しているエリアで探したマンションがたまたまタワマンだっただけです。ライフスタイルが変わったら手放すつもりでしたが、結果的にとても気に入ったので今も住み続けています。
買った当時は修繕管理費が3万弱で車もなかったので支払額も今より少なかったのですが、震災後で一番年収が低い時期だったのでギリギリの生活でした」
タワマンの気に入っているポイントをいくつか挙げてもらうと「内廊下であること」「天井が高く部屋の柱などのつくりもしっかりしていること」「フロアごとにゴミ置き場があること」「気分転換をしたくなったら高層階のラウンジでくつろげること」「機械式立体駐車場があること」などあげるといくらでも出てくるのだとか。
「板状マンションと違ってタワマンの駐車場ってたいてい屋内の機械式なので、雨風をしのげて防犯面も安心できます。車が汚れないので、中古に出すとき査定もいいです。あと、住民専用のEV充電があるので我が家は電気自動車に買い換えました」
タワマンに越してきて、しばらくして再婚した女性。現在は「主人と、主人の連れ子のワンコと住んでいます」とのこと。
愛犬も一緒に住んでいる(写真:本人提供)
現在は家族でタワマン暮らしを満喫している。にもかかわらず、低層階に住んでいると言ったときに「あ、そうなんですね」と返されると、モヤっとするそうだ。
「今の部屋をとても気に入ってるので、もっと胸を張って低層だと言いたいなとは思います。それに私の住んでいる部屋は南向きで、永久眺望です。北向きの高層階より購入価格は高かったですし……」
どのくらい高かったのだろう。
「同じ平米数で比べたとき、40階台の北向きの部屋は4700万円程度だった記憶があります。なお、西向きの20階前後は4900万円程度でした」
女性の南向きの部屋は一桁階でも5000万円以上するので、このタワマンでは階数よりも方角が重要視されていることがわかる。ちなみに永久眺望とは「ほぼ永久に眺望が保証されている状態」のこと。女性の部屋からはどのような景色が見えるのだろうか。
「目の前には公園があり、その向こうに東京湾が見えます。真下には住民専用のテラスがあり、夜はライトアップされます」
さらに、
「南向きで明るいのに直射日光が入らないので、一年中リビングのカーテンは明けっぱなしです。下の階にある共有スペースの天井が特に高いため、普通のマンションより2階分ほど高いと感じます。一桁階でも外から覗かれることはありません」
と羨ましい限りだ。
「下に緑が見える」のが低層階のメリット
女性曰く、高層階にはない低層階ならではのメリットもある。
「同じマンションに住んでいる友人が何人も遊びに来ていますが、『下に緑が見える』というのが低層階のメリットだと言ってました。高層階だと海と空、超高層階だと空しか見えないそうです。私にとっては高層階がどうのとか低層階がどうのは関係なく、いかに眺めがいいかといったことが大事だと思っています」
海や空もいいが、毎日見ていたら飽きそうだ。それよりも木々が風で揺れたり、鳥たちがさえずったり自然を身近に感じられる点は、タワマン低層階ならではの良さだろう。特に気に入っているのは水辺が近いことだと言い、
「渓流沿いの温泉宿とかって低層のほうがステータスが高いんです。水辺が近いのって本当に癒されますよ。在宅勤務中に、食事の準備中に部屋から東京湾がキラキラ光ってるのが見えると、それだけで『今日はいい日だな』と思えます」
部屋から見える風景が、暮らしを彩ってくれるのだという。
すっかりタワマン暮らしが気に入った女性は、「実は現在、ほかのタワマンも検討してるんです」と明かす。夫が在宅勤務のため、それに適した間取りの部屋を探しているという。
しかしいざ探してみると、満足できる眺望の部屋はあまりない。どの階、どの方角でも景観に建物が入ってきてしまうという。
「前に建物があるかないかでQOLがぐんと違うのを知ってるので、なかなか決まらないんです。そういうこともあって、今の部屋は売りません。都心の低層階でこれだけの眺めのいい部屋はなかなかないし、また住みたくなると思いますから」
最後に女性は、タワマンやマンションの購入を考えている人に、アドバイスをしてくれた。
「眺めというと、ベランダからの眺めで判断する人が多いですが、ベランダではなく部屋の中からの眺めがどのくらい満足できるのかが重要です」
「独身女性がマンションを買うと結婚できないとか言われますが、結婚して引っ越したくなったら手放せばいいだけの話です。なので独身女性がマンションを買うことをネガティブに考えないでもらいたいです」