2023年11月07日 20:41 弁護士ドットコム
労災で配偶者を亡くした場合、夫(男性)にだけ、遺族補償年金の受給資格に制限があるのは、法の平等を定めた憲法14条に反して違憲だ――。都内在住の男性会社員(54歳)がこう訴えている。男性は早くて来年春にも行政訴訟を起こす準備をすすめている。
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労働者協同組合に勤めていた男性の妻(当時51歳)は2019年6月下旬、くも膜下出血を発症して亡くなった。遺族が2022年3月に労災申請したところ、八王子基準監督署は今年3月、くも膜下出血の発症は長時間労働などが原因だったとして労災認定した(*)。
労災保険法(施行規則・附則ふくむ)では、夫を亡くした女性は、年齢の制限なく、遺族補償年金を受給することができるが、妻を亡くした男性は原則60歳以上(55歳以上であれば資格あり)で受給できるとされている。
当時55歳未満だった男性は受給資格がなく、一時金(1000日分)を受け取ったが、18歳未満だった二男だけが受給資格を有していると労基署から通告されて、二男を請求人として労災申請した。しかし、二男が18歳に達したため、今年3月末に受給資格を失った。
こうした状況から、男性は11月6日、あらためて自身を請求人として、遺族補償年金の支給をもとめて、八王子基準監督署に労災申請をおこなった。ルール通り不支給の決定が出た場合、審査請求という手続きを踏んだあと、東京地裁に提訴するとしている。
男性の弁護団が11月7日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで記者会見を開いた。弁護団によると、もし仮に請求人が妻で、女性の平均寿命87歳まで生きたと仮定した場合、遺族補償年金のほうが3.5倍の金額を受け取れるという。
また、労災保険法の規定は「夫は外、妻は家という性的役割が分かれていた時代」にできたもので、共働きが"あたりまえ"となった今では「合理性がある」といえず、性差別にあたると主張している。
「男女の賃金格差は存在するものの、現在の格差の水準や、確実に格差が是正されつつある状況を踏まえると、遺族補償に関して男女間で3.5倍もの経済的格差を設ける必要があるとまでは到底いえない」(弁護団)
遺族補償年金をめぐっては、最高裁第3小法廷が2017年3月、同じように夫は55歳以上でないと受給できないとする地方公務員災害補償法の規定について「合憲」と判断している。
弁護団の川人博弁護士は会見で、「性別変更の手術要件」を違憲とした最高裁判決(10月25)を例に挙げつつ「女性の労働状況や専業主婦の現状はずいぶん変わってきている。最高裁が判断を変更する可能性は十分にある」と述べていた。
(*)労災認定時の記事
https://www.bengo4.com/c_5/n_15939/