海外が求める日本のアニメとは? 海外アニメーション映画祭・見本市に学ぶ 10月6日に『アニメーション映画祭・海外マーケットについて学ぶ』のセミナーが開催。アニメーションジャーナリストの数土直志氏がコロナ禍以降の海外アニメーション映画祭・見本市および海外の市場動向について紹介したほか、有限会社カナバングラフィックス取締役/ディレクター・富岡聡氏、同会社・アートディレクター/ビジュアルデザイナー・関厚人氏を加えて「MIFA」出展を経験しての体験談を語った。
本セミナーは、世界で活躍したいアニメクリエイティブに関わる人材を支援したいと、東京都が実施しているもの。東京には独自性があり質の高いアニメーションを制作する会社等が多数存在しているが、その多くは海外における知名度が高くないのが現状。東京都はそんな会社の海外展開を促進し、アニメーション産業の振興を図るために「Tokyo Anime Business Accelerator事業」を実施。本セミナーはその一環となる。
[取材・文:米田果織]
アニメを制作・販売したいが、ビジネスパートナーはどうやって見つけるのか?
他の業界から参入してきた企業や、新設された企業の最初の疑問は、ビジネスパートナーの探し方である。アニメを制作してほしいと考える企業からの質問も同様だ。大半は、人脈や紹介を通じての取引が主流で、人を介しての取引は信頼が前提となるため、安心して取引ができるというメリットがある。
一方、人脈を持っていない場合の手段として「国際見本市」が挙げられる。日本における代表例は、「東京国際映画祭(TIFFCOM)」や「アニメジャパン」である。他にも、セミナーやマッチングイベント、ビジネスツアーの活用が考えられる。しかし、大規模なコンベンションは、多くの企業が参加する一方で、初心者向けの機能は少ないという現状がある。
「国際見本市」のメリットと作品の売り方について
国際見本市の最大のメリットは、「新しい出会いが生まれること」である。大企業が参加していないという意見もあるが、数土氏によれば、見本市は新規参入者や新興企業向けの場である。大手企業は既に多くのパートナーを持っており、見本市での展示は重要性が低いとのことである。しかし、数土氏は、新規ビジネスに進出する際は老舗企業こそ新しいパートナーを求めて見本市に参加すべきだと主張する。
国際見本市は、日本のアニメスタイルに特化した作品のためのもの(AnimeJapan等)、グローバルなアニメーションを幅広く取り上げるもの(MIFA)、子供作品に特化したもの、映像全般を対象にしたものなど、様々なタイプがあり、作品の売り方も出展型(展示会場内へのブース出展)、ピッチセッション(プレゼンテーション)、コネクティングパーティー参加、ファンイベントにおけるビジネスと多岐にわたる。
コロナの影響でオンライン化していた見本市も、昨年夏から実際の形態での開催が再開されている。参加者の間で、「実際に会うことが最も価値がある」という意見が強く、数土氏も実際の出会いの大切さを強調していた。
海外で求められる日本のアニメーションの傾向
ここからは「MIFA」に関する説明だ。そもそもこのセミナーは「東京アニメピッチグランプリ」に向けたもの。「東京アニメピッチグランプリ」とは、セミナー・ワークショップで習得したスキル等を競うコンテストのことで、自身の企画を日本語でピッチ発表し、受賞者は賞金(最優秀賞:100万円、優秀賞:各50万円)や、「MIFA」への出展支援(英語ピッチ指導、商談設定、出展作品の広告、アフターフォロー他)を受けることができる。
そしてここでの本題となる「MIFA」(Le Marché international du film d'animation)とは、アヌシー国際アニメーション映画祭併設国際見本市のこと。2000年代後半以降に急成長し、アニメーション映画祭の併設国際見本市のアニメーション分野で最も影響力がある存在となっている。
10~20年前は主にヨーロッパの企業が参加していたが、現在は多様化している。アメリカの大手企業はブースを持つことはあまりないが、関係者は参加し、ビジネスを行っているという。今後も参加国を増やし、世界一の国際見本市を目指している。
2023年の「MIFA」における日本のアニメーションの位置付けは、映画祭においては、長編アニメーションは強いが、短編ではヨーロッパが強く日本は厳しい状況にあると数土氏は述べている。MIFAの会場では、東京都ブースを含めて、ブースの数は多くない。コロナ禍の影響もあり、日本からの登録参加者は19年より少ない150~200名程度であった。それでも東アジアでは一番多かった。
しかし、日本のアニメーションは海外での人気が高い。新興の企業やクリエイターへの需要もある。アヌシーはヨーロッパの映画祭で、「ファミリー・キッズ」ジャンルが主流だ。以前は日本のハイティーン向けの作品は受け入れられないと言われていたが、それでも現在は、若者人気の高さからニーズが増しており、トレンドになっている。
すでに資産を持つ日本のオールドコンテンツ(マンガ・ゲーム・旧作アニメ)、日本のアニメスタイル(セルルック)、日本のテイスト入れた自社制作品を作りたい人にとって日本のクリエイターも需要があると数土氏は指摘している。
「MIFA」に参加してみての体験談
セミナー後半では、実際に「東京アニメピッチグランプリ」を通じて「MIFA」へ参加した有限会社カナバングラフィックス取締役/ディレクター・富岡氏、同会社・アートディレクター/ビジュアルデザイナー・関氏による体験談が紹介された。
海外への可能性を求めて参加を決めたと語る富岡氏。「アニメーション制作会社に頼まれて見積書を出すことがあるのですが、CGは高くて作画は安い。海外は逆なんですよね。そういった一面を考えて、海外に。日本は子供向けの本数が少ないので、アニメ=子供向けという海外に挑戦したかった」とのこと。
しかし、実際に参加してみて壁に激突。「1年目はいっぱいいっぱいで、オリジナルアニメも作ったことがあったのですが、その経験もまったく役に立たず。叩きのめされました。海外では考え方が違ったり、日本では原作ものをアニメにすることが多いですが、海外はオリジナルアニメが基本。その中で勝ち抜くのはなかなか大変だと思いました」と明かした。
「MIFA」に参加して良かったことを聞かれると、関氏は「もともとデザイナーで、あまりディレクションやプロデュースに興味はありませんでしたが、この経験でアニメの企画から実現までのビジネス過程に興味を持ちました。知らなかった海外のアニメーションマーケットを知れたのは、デザイナーとしても、人間としても面白かったです。実際、デザイン業務でも色々考慮して反映するようにしたので、アートディレクターとしても良い経験になりました」と。富岡氏は「弊社としては海外のスタジオと繋がれたし、海外のクライアントワークの話も聞けたり、得られるものは多いです。是非この制度を活用してほしいです」と参加者にエールを送っていた。