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知ってた? おでんの「ちくわぶ」、関東圏以外ではマイナー 全国に広まらなかった理由は……

2023年11月06日 06:10  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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スーパーに、おでんの材料が目立つ季節がやってきた。馴染みの深いおでんだけれど、その材料は地域によってまったく違うものだ。全国には無数のご当地おでんがあるが、ざっくりわけると関西風と関東風に分類される。その違いといえば、まずタネである。中でも、関東にしかないタネが、ちくわぶである。

ちくわぶは漢字で竹輪麩と書き、小麦に水、塩を練り合わせて、火を加えることで竹輪の形に似せたものである。小麦と水を混ぜ合わせることでできる麩質、つまりグルテンがもっちりとした食感を生み出す。食べ慣れた人は、この食感に加えて「口の中に出汁がじわっと染みるのがたまらない」というが、そういう感想はごくわずかのようだ。おおよそ、関東の人以外にとっては「奇食」の扱いである。(文:昼間たかし)

高級食材だった生麩を真似て、安く作ろうとした?

大抵の人は、まず……いや、口に合わないとあえて箸を伸ばそうとしないのだ。SNSなどでは、率直に口に合わないという感想を述べている人が数多く見られる。中には何度も食べてみているが、そのたびに口に合わないと再認識しているという人も。そして「竹輪は好きだけど、ちくわぶは苦手」という人も多いのだ。

実にその通り。竹輪を嫌いだという人はまずいない。それなのにどうして、形だけ似ているが万人受けしがたいちくわぶが、この世に生まれてしまったのか。

世の中は広いもので、調べてみると、ちくわぶが好きすぎる人が書いた研究書があった。
丸山晶代さんの『ちくわぶの世界 東京下町のソウルフードを味わう』(ころから・2019年)である。この本、後書きによれば様々な出版社に持ち込んだが「マイナーすぎる」「アンチが多すぎる」と断られたと書いてあり、世間で、ちくわぶがどう思われているかを如実に教えてくれる。

そんな熱心な著者が調べても、ちくわぶが生まれた正確な時期や経緯はわからない。ただ、様々な説を検証したところ、高級食材だった生麩を安く手間をかけずに作ろうと人々が工夫を重ねた中で、生まれたのがちくわぶらしい。そこで本の中では「おそらく高級食材を真似て、名もなき下町の庶民が作り出したものがちくわぶと考えるのが正解ではないでしょうか」と綴っている。

こうして大正期にはよく知られる食材になっていたちくわぶは、戦後の食糧危機などを通して、腹持ちがよい食材として人気を得たようだ。ただ、真空パックが普及する以前は日持ちしなかったため、東京近郊以外には広まらなかった。

結果、ちくわぶはローカルな食材となり、地域ごとに好まれる味付けがなされることもなく、素朴におでんの汁で煮込まれるところで進化を止めた。ゆえに、全国の大半では奇妙な食材にしか見えず「おいしくない」「口に合わない」という以外に感想がないのである。

もんじゃ焼きは失敗したお好み焼きにしか見えない

これに似ているのが、東京下町の名物もんじゃ焼きだろう。筆者は岡山県出身なので、お好み焼きは広島風と関西風のどちらも美味しく食べる文化圏だ。しかし、鉄板で焼くところは似ているとはいえ、もんじゃ焼きだけは、どうしても口に合わない。

お好み焼きに比べて、もんじゃ焼きは生地に入っている小麦粉が圧倒的に少ない。さらさらの液体の生地を具材ももろとも鉄板の上にぶちまけて焼き、小さなヘラで少しずつ食べていく。見た目は完全に失敗したお好み焼きではないか……。なぜ、ちゃんと粉をしっかり使って形を整えて焼こうと考えなかったのか。いかに歴史や美味さを語られようとも、失敗したお好み焼きにしか見えないもんじゃ焼きは、口に合わない。

同様に、竹輪の派生形かと思いきや、ゴムみたいな、まったく違う食感のちくわぶは口に合わないのである。もしも竹輪を知らなければ、こういう食べ物なのかとすんなりと理解できたかもしれない。でも、竹輪の食感や美味さを知っている以上、ちくわぶは竹輪のデキソコナイという先入観は絶対に消えないのだ。