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【漫画】「絶対音感」を持つ女子高生に見えるのはどんな世界? 音楽の捉え方をめぐるSNS漫画に注目

2023年11月04日 07:10  リアルサウンド

リアルサウンド

漫画『特殊な音楽の楽しみ方をする女の子』より

 ある種の天才性とともに描かれることが多い「絶対音感」。実際にその能力を持った人がとらえている世界は、どんなものなのか。X(旧ツイッター)で9月下旬に投稿されたオリジナル漫画『特殊な音楽の楽しみ方をする女の子』は、「変ホ長調」や「イ短調」など“調性”で音楽をとらえる女子高生が登場し、音楽の新たな捉え方を教えてくれる。


(参考:『特殊な音楽の楽しみ方をする女の子』を読む


 本作を手掛けてたのは、現在イラスト関係の専門学校に通っており、普段は食べるか寝るか描くかの生活を送っているというにょんさん(@honnyogonyo)。今後社会人になった時にも、「今のような生活が送れれば……」と秘かに願っていると話す。「絶対音感」という多くの人々にとって謎の能力を解き明かす本作がどのように作られたのか、話を聞いた。(望月悠木)


■絶対音感の描かれ方に疑問


――今回『特殊な音楽の楽しみ方をする女の子』を描こうと思った経緯を教えてください。


にょん:まず「絶対音感への偏見」を感じたのがキッカケです。絶対音感があるキャラクターはたまにいますが、“聞いただけで正確な音がわかる”だけではなく、謎の能力が付与されていたりなどのイメージが強いです。そこで、実際の絶対音感を表現したくて描き始めました。


――絶対音感のリアルを描くうえで、“音楽を調で楽しむ“という切り口にした理由は?


にょん:もともと「絶対音感はこんな感じなんだ」ということを読者に感じてほしかったので設定や世界観は特にこだわっていませんでした。何でも良すぎて困りました。


――にょんさんの中では自由度が高い設定だったのですね。


にょん:はい。そこで「絶対音感ならではのシーンとはなんだろう」と考え、思いついたのが吹き出しの形を音名にすることでした。「これは良いアイデアだ」と思ったのと同時に、「ファンタジーな世界観にすると魔法などの影響で絶対音感が霞むかも」と思って現代になりました。


――現代にしたほうが絶対音感のリアルも伝わりやすいですし。


にょん:ですね。あとは専門学校を今年度で卒業するため、「おそらくこれが学生時代最後の長編漫画になるだろう」と考えました。今まで描いてきた漫画の集大成にするため、過去作から要素をお借りして、調性オタクの女子高生ヘノンの土台ができました。


――ヘノンはそこからどのようにしてキャラクターとして出来上がっていったのですか?


にょん: まずヘノンは絶対音感があるということだけ決まっており、そこをよりリアルに表現するためには「自分が聞こえている世界をそのまま描くのが1番だ」と考えて自分をモデルにしました。また、ヘノンの言葉は“私が今まで感じてきた絶対音感あるある”を全部代弁してもらっています。


――後半も楽しみですが、掲載の目途などは立っているのですか?


にょん:実は目処が立っていない状態です。目標は今年中です。下書きは終わっているので、落書きを控えます……。


■溢れ出す調性愛


――ちなみに、にょんさんが考える調性の魅力を教えてください。


にょん:今存在している音楽のほとんどが24調のどれかに当てはまっており、この24調はわずか12音の組み合わせで構成されているのがとにかく面白いです。中には、主音が同じだったり、構成音が全く変わらないのになぜか別物に聞こえたりなど、“たった12音”とは思えない世界が広がっています。


――確かにすごい話ですね。


にょん:また、虹音日記というサイトの「調性沼スターターセット」の項目を見ると、感じた調性を各々の感性に従って自由に表現して楽しんでいる人達がいることがわかります。同じ表現は1つもなく、中には同じ調に見えない作品があるにもかかわらず、間違いは存在せず、どれも正解になるという懐の広さに感動すら覚えます。


――また、ヘノンはヘ短調好きでしたが、にょんさんはヘ短調のどういうところに魅力を感じていますか?


にょん:へ短調は重力が強く大人なイメージがあります。聞こえると気が引き締まる緊張感があり、この世の全てに興味がないのかと思いきや、意外と♭系らしい懐の深さも見せるので甘えたくなります。絶望と優しさの奇跡の共存がへ短調であり、魅力だと思います。


――最後に今後の目標など教えてください!


にょん:私は漫画家のナンキダイ先生にとても影響を受けています。ナンキダイ先生は現在、フリーゲーム作者として生活しており、一日中自分のオリジナルゲームを制作しているそうです。私もその姿に憧れて創作活動をしています。漫画に限らずゲームでも音楽でも、少しの期間でも良いので、自分のオリジナルのコンテンツに没頭するだけの生活を送ってみたいです。とりあえず、お仕事などあればください……!


(取材・文=望月悠木)