大して親しくもない知り合いから「近々会えないか」と言われて会ってみたら宗教の勧誘だった、というのはよく聞く話だ。怪しいと感じたら極力回避したいところだが、相手との関係性によっては意外と難しいのかもしれない。秋田県に住む40代の男性(専門職/年収500万円)は、30代の頃にしつこい宗教勧誘を受け、
「アンタらの宗教には死んでも入信しない!」
と激怒するに至ったという。一体何があったのだろうか。編集部は男性に取材を申し込み、詳しく話を聞いた。(文:國伊レン)
被災者を鼻で笑うかのような口調で
「30代の頃、しつこいことで有名なカルト宗教に宗教勧誘をされたことがあります。しかも別々の人から3回も勧誘されました。2011年から2017年にかけてのことです」
いずれも同じ仏教系の新興宗教だった。特に強烈だったのが2回目のときだ。誘ってきたのは、当時30歳前後の女性。男性が仕事の備品などを買うときによく使っていたコンビニの店員だった。
定期的に店で顔を合わせていたら親しくなり、連絡先を交換。するとLINEで「近々会えませんか」と連絡が来た。用件を聞いても答えないので怪しいと思ったが、それまでの関係性もあったので待ち合わせ場所に指定されたファミレスに足を運んだ。
ファミレスには知人女性のほかに先輩会員と見られる35歳くらいの女性がいた。この人物が「とにかくしつこかった」と振り返る。
「多分知人1人では勧誘できないから、先輩会員が同行して勧誘する手口だったんでしょう」
不審な女に徐々に警戒心は高まっていく。しばしの雑談のあと本題に入った。
「朝と晩の2回お題目を唱えるだけで幸せになれるけど、Sさん(男性のこと)もやってみない?」
男性は宗教の勧誘だと気づき、即座に断ったが、
「皆さん最初はそう断るんです。けど1度会館へ行ってビデオ放映を観たり、教団で発行している新聞を読むことで、考えが変わってきます。Sさんにも是非それを体感してほしいので、まずは1度会館へ一緒に行きませんか?」
などと言い、食い下がってきたのだという。
もちろん男性は「会館へも行きません」と断るが、「新聞だけでも読んでみませんか?」と先方も引かない。
「ここまでの押し問答なら、まだなかったことにしてあげてもよかったです」
ここから先の話で怒りが頂点に達したという。先輩会員はこう言ったというのだ。
「東日本大地震があったのを覚えているでしょうけど、ウチの信者も被災地にたくさんいましたが、津波がきたときも信者の自宅だけは津波が避けていって、信者に死者行方不明者は1人も出ませんでしたよ。ウチに入信するとどんな災害がきても必ず助かります」
耐えかねた男性は声を荒げて、こう返した。
「被災者を笑いのネタにして勧誘するのは冗談で済ませられない。こちらはアンタらの宗教には死んでも入信しない!」
男性は「今思い出しても怒りが沸き上がってきます。まるで2万人超の死者行方不明者は、信者にならなかったから津波に流されて死んだんだと、鼻で笑うかのような口調でした」と振り返る。
ファミレスから出る頃には2時間近くが経過
その後も2人は折れず、「会館へ行こう」「新聞だけでも」などと勧誘は延々と続いた。
「会員になって幸せになりましょう」
男性「会員にはなりません」
「いちど会館へ行ってビデオ放映を視聴すれば考えが変わり、良さがわかりますから」
男性「会館へも行きません」
「新聞だけでも読んでいただければ考えが変わりますから」
男性「いりません。新聞も読みません」
このような会話が何度もループし、ファミレスから出る頃には2時間近くが経過していた。
「何とか引き下がってくれましたが、何とも無駄な時間でした」
結局、知人女性とは「その日のうちにLINEをブロック、電話も着信拒否にして絶縁しました」という。その後、連絡が来ることもなかった。
「彼らは新規信者の獲得に必死です。入信しない人間の相手をするのは時間の無駄と感じたのではないでしょうか」
その上で「宗教自体を否定しているわけではありません。むしろ信じられるものがあるというのは素晴らしいことだと思います」としつつ、「しつこい宗教の勧誘や宗教入信の強要は絶対いけません」と釘を刺す。
現在のところ身内に被害者はいないそうだが、こうした宗教勧誘への対策として、
・用件を聞いても答えない場合は、約束をしない
・何年も会っていない同級生からの連絡も疑ってかかる。金の無心など宗教の勧誘以外の目的も考えられるため
・勧誘をされた場合は毅然とした態度を貫き通す
という3つを徹底することが重要だと語る。
隙を見せればすぐそこに付け込んでくる宗教勧誘。たとえ相手が仕事の関係者であっても、心を許さず毅然とした対応を取る必要があるだろう。