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【漫画】お嬢様は理不尽ゲーをクリアできるのか? 伝説の”壺男ゲーム”をフィーチャーしたSNS漫画が熱い

2023年11月03日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

漫画『しえり様は実績が解除できない』より

 たった一つのミスで、長時間積み上げてきたものがゼロになってしまうーー多くのゲーム実況者やストリーマーが日々、そんな“理不尽ゲーム”に挑んでいる。精神的に追い詰められ、虚無感におそわれつつ、クリアを迎えるシーンにはカタルシスがあるが、なぜこれほど多くの人の関心を惹きつけるのかーー。


(参考:『しえり様は実績が解除できない』を読む


 X(旧ツイッター)上で10月中旬に公開された『しえり様は実績が解除できない』は、お嬢様がひょんなことから伝説の理不尽ゲーム『Getting Over It』(壺男ゲーム)をプレイすることになり、クリアを目指すというストーリー。お嬢様と虚無&理不尽ゲーという新たな出会いにワクワクさせれる。


 本作を手掛けたのは、普段は商業誌で活躍しているプロ漫画家の西倉新久さん(@cink)。「ここ最近は企画が通らなかったネームや商業向きでないと判断した作品を『コミティア』で発表したりWebで公開したりしています」と事情を語ってくれた。西倉さんの好きが詰まった本作がどのようにして描かれたのか、話を聞いた。(望月悠木)


■ラブコメ展開にしなかったワケ


――『しえり様は実績が解除できない』を制作しようと思った経緯、当時の状況を聞かせてください。


西倉:本作はもともと商業誌の連載企画として、ネームを出しました。当時日本国内ではゲーム配信やVTuberが徐々に浸透している時期で、「可愛い女の子に難しいゲームをプレイさせてそのリアクションを楽しむ」といった文化が定着を見せ始めていました。「この構造を漫画で表現するとどうなるだろう?」と思って設定を練ってみたら、最終的にこんな変なバランスの漫画になりました。


――確かにゲーム配信を見ているような感覚になりました。


西倉:しえりを配信者に見立て、難しいゲームをプレイさせ、派手なリアクションを取らせることを第一に考えて制作しました。


――ちなみに商業誌の連載は通ったのですか?


西倉:残念ながら商業では通らなかったのですが、個人的に気に入っている作品だったので後日『コミティア』で頒布しました。もし連載になっていた場合、しえりとたけし以外にもいろいろなキャラを出して、難しいゲームをやらせていたと思います。


――しえりとたけしはどのように作り上げたのですか?


西倉:まず「しえりはお嬢様キャラがいいな」と思っていました。“お嬢様”というどこか取り繕った設定のキャラが、イライラして壊れていく瞬間が見たかったのかもしれません。たけしは“大人のように見えて中身は子供のまま”というバランスで練り上げました。ただ、今読み返すと若干サイコに見えたので、もう少し大人にしても良かったかもしれません。


――ラブコメ展開にならずに、“ゲームをプレイする”という軸がブレないストーリーが個人的にはとても良かったです。


西倉:よくあるラブコメ設定をスカしたような構成にしたくて、「『Getting Over It』の壺おじさんが出てきた瞬間に全てを台無しにしよう」と最初から考えていました。Xに投稿した場合、4ページ目まで読まないとそのシーンにたどり着けないため、「前半の“よくあるラブコメパート”をもっと魅力的に描かないと読者をここまで引っ張れないな」という反省も見つかりました。


■『Getting Over It』の魅力とは


――そもそも、なぜ『Getting Over It』をプレイさせたのですか?


西倉:当時ゲーム配信者は通過儀礼として、絶対にプレイしなければならないゲームとして『Getting Over It』がありました。シュールな状況に対するリアクション、合間に雑談をしやすいゲーム性、思うように操作できないもどかしさ、落下して大きなものが失われる瞬間など、配信者が表現するべき面白さの「総合力」が試されるゲームだと思います。「最初に描くならこのゲームしかない」と思いました。


――後半にたけしが“Getting Over It愛”を熱弁しますが、このセリフは西倉さん自身の声でもあるのですか?


西倉:レビュー記事や実際にプレイした配信者の生の声などを総合したセリフです。ただ、私自身の感想も多分に含まれていると思いますが(笑)。


――実際に『Getting Over It』をプレイしてどうでしたか? しえり同様に夜更かししてプレイしたのですか?


西倉:初クリアには8時間30分ほどかかり、それこそ朝になっていたと思います。しかし一度クリアまで行けば操作の感覚は身体が覚えているため、2周目は2時間くらい、3周目は1時間と、どんどんタイムが短縮できました。「そこが面白いところだな」と思っています。


――成長が実感できるのも『Getting Over It』の魅力なのですね。


西倉:はい。ちなみにタイムアタックの世界記録は現在1分を切っています。ゲーム以上にプレイヤーが恐ろしいです。必死にクリアして「もう二度と登りたくない」と思った人でも、実は2周目以降のほうが楽しめるかもしれません。あまりオススメはしませんが……。


――最後に今後の目標など教えてください!


西倉:つい最近、双葉社のマンガ無料配信サイト「webアクション」にて『オリオン明滅す』という漫画の連載が始まりました。こちらもゲーム漫画で、架空のFPSゲームのプロゲーマーを題材にしています。eスポーツの世界をできるだけ現実的に切り取った大人向けの内容です。また、基本的にはフィジカルスポーツ漫画のように、熱く楽しめるものになっているので、興味のある人はぜひ読んでほしいです!


(取材・文=望月悠木)