2023年10月30日 09:50 弁護士ドットコム
従業員に何の説明もなく、翌月の給与から17%カット。しかも、誰も存在すら知らなかった従業員代表が勝手にサインしていたーー。こんな異常事態について、弁護士ドットコムに相談が寄せられました。
【関連記事:セックスレスで風俗へ行った40代男性の後悔…妻からは離婚を宣告され「性欲に勝てなかった」と涙】
従業員代表については、残業を可能にする「36協定」の締結や、就業規則の変更の際に実施される「意見聴取」で意見を述べる役割などがありますが、相談者によると、この会社の従業員代表は会社の総務部長で、選出されていたことは社内の誰も知らなかったそうです。
この会社の異常事態について、どんな法的問題があるのでしょうか。山田長正弁護士に聞きました。
一律17%カットをどう考えればいいのでしょうか。
「法的に無効になると思料されます。
今回のケースでは、労働条件の不利益変更が問題となります。不利益変更とは、通常、労働者の労働条件が従来と比較して低下することを意味します。
本件のような労働組合のないケースでは、労働者の個別の同意を得るか、または就業規則の変更による方法で、賃金を減額できる可能性があります。
まず、労働者の個別同意を得られれば、労働条件を不利益に変更することは法律上認められています。
労働契約法第8条では、『労働契約の内容の変更』として、『労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる』とある通りです。
この場合、使用者としては、賃金減額の合意について、書面での合意を得ておくべきですし、合意があっても賃金減額幅が大きいような場合には、賃金減額の合意が自由な意思表示に基づいてなされたものではなく、無効とされるリスクがあることを覚悟しておくべきです。
次に、労働者の賃金を下げられる場合として、一定の場合において、就業規則を変更することにより賃金減額が認められる旨規定されています(労働契約法9条、10条)。
すなわち、同法10条では、『変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき』に変更が可能であると規定されています。
ただし、今回のケースでは、これらの個別同意を得られておらず、かつ、就業規則の変更もなされていないと思われ、賃金減額は法的に無効です」
仮に、極度の業績不振などによる給与カットのために、会社が就業規則を変更しようとした場合、誰も知らない従業員代表が意見を述べていても有効なのでしょうか。
「従業員代表は、『法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法』によらなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)。しかし、今回のケースでは、このような方法で選出された形跡がないため、従業員代表として無効です。
また、代表者としての適格性の問題もあります。たとえば、労働基準法41条2号の「管理監督者」は過半数代表者としての適格性を欠きます(労働基準法施行規則6条の2第1項1号)。
よって、今回のケースでは、総務部長が対象ですので『管理監督者』に該当する可能性があり、この場合、従業員代表として無効です。ですから、就業規則変更のための意見聴取のプロセスに問題ありということになり、しかも17%の不利益ということを考慮すると、仮に就業規則の変更により賃金減額がなされたとしても、この賃金減額は無効になるでしょう。
ただ、そもそも今回のケースでは、従業員の個別同意もなければ、就業規則による変更もないと思われ、賃金減額は無効となります」
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
山田総合法律事務所 パートナー弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/