2023年10月28日 09:40 弁護士ドットコム
過酷すぎるラーメン店の店長から「もうやめたい」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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店長は、運営会社と業務委託契約して、1年前から店長になりました。会社とは、5年間、きちんと運営していれば店を300万円で売ってもらうことになっていますが、労働時間が長すぎるため、やめたいと考えています。
しかし、業務委託契約では、契約解除の際に違約金が発生することになっており、違約金を払わずにやめられないかどうか、知りたいそうです。
会社から言われた通りの食材やレシピで店を運営するなど、様々な制約があってしんどいこともあり、「やってる事は雇われ店長と同じですが、雇用保険等はなく、労働時間も長い」と嘆いています。法的問題について、櫻井俊宏弁護士に聞きました。
この問題において、仮にこの店長の「労働者」性(労契法2条1項、労基法9条)が認められ、会社との契約が雇用であったとされる場合には、辞めることによる違約金の設定は、労働基準法16条の賠償予定の禁止に反するので、無効ということになります。
では、雇用契約か業務委託契約かの判断は、どのような要素によって決まるでしょうか。
この点は、契約書の名称だけで決まるわけではなく、
①仕事の依頼を受けるかどうかを決める自由があるか
②会社の指揮監督下にあるか
③時間的・場所的拘束性がある
④労働の対価として報酬が支払われているかどうか
等の要素を総合的に考慮して、「労働者」性が認められるかどうかを判断します。
今回のケースでは、「会社から言われたとおりの食材やレシピで店を運営」していることから、店舗運営にあたり店長の裁量が与えられておらず、②会社の指揮管理下にあるといえます。また、「労働時間も長い」とあることから、自らの意思によって労働時間を決定できない以上、③時間的に拘束されているといえ、かつ、就業場所についても、会社に決められた店舗で働いていることがうかがわれるので、③場所的にも拘束されています。
それゆえ、店長は、業務内容・勤務時間・就業場所等について①会社の指示に対する諾否の自由が認められていないといえます。これに加えて、報酬が時間給を基礎として計算されている、残業をした場合には手当が支給されているといった事情があれば店長の「労働者」性を補強します。
上記の諸要素を踏まえると、店長は「労働者」といえ、会社との契約は雇用契約にあたる可能性が高いといえます。そうであれば違約金の定めは無効となり、発生しないことになります。
仮に業務委託契約と認定される場合には、原則として違約金を支払わなくてはなりません。しかし、あらかじめ合意していた違約金があまりにも高額の場合には、公序良俗に反する暴利行為として無効になる場合もありえます。
裁判例では、フランチャイズ契約の解除違約金が無効とされたものも多く、本件でも、例えば月額業務委託料の何十倍もの違約金が設定されていた場合には、無効となる場合もありえます。
働く側にしろ、仕事を任せる側にしろ、雇用か業務委託かという問題は、契約書の名称だけでは決まらないので、就労の実態も踏まえて当初の契約内容を考えるよう注意が必要でしょう。
【取材協力弁護士】
櫻井 俊宏(さくらい・としひろ)弁護士
交通事故、相続・離婚問題等を得意としている千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表弁護士。応援団出身であり、中央大学の法律顧問(法実務カウンセル)を担当している。「弁護士 ラーメン」と検索すると自身のラーメンブログが一番上に出てくる程のラーメン通。
事務所名:弁護士法人アズバーズ
事務所URL:http://as-birds.com