一生懸命働いているのに、仕事の能力とは違うところで給料が決められていたら辞めたくなるのは当然だ。関東在住の30代後半の男性は、工業高校卒業後に「機械修理業を営む零細企業」に入社したが、
「お前が一番仕事をしているけど、妻子持ちじゃ無いから昇給の優先度が低い。そういうものだ」
と言われ愕然とした。今から20年ほど前、26歳頃の出来事だ。その後、男性はどういう行動を取ったのか、編集部では本人に話を聞いた。
「お前の給料は一生上がらない」と言われたのと同じ
その会社は「先輩社員は同業からの転職組が多く、年齢も1回り以上違う人ばかり」だった。若かった男性は、早く一人前になるべく人一倍努力した。
「仕事のできる人の作業を観察したり、ときには一緒にやらせてもらう。細かくノートを取り同じ事を何度も聞かずに済むようにしました」
このほか、発注業務など面倒な仕事も率先してやるようにしていた。
「そのうち知識や経験が付いてきて、6年もすると来客との修理打ち合わせや日程調整までこなせるようになりました。先輩たちはそうした業務に慣れておらず、やる気も無かったようです。この時点で能力的には先輩方を追い越してしまった形です」
努力の甲斐あって先輩たちよりも仕事のできる社員に成長し、「上司もそれは認めていた」という。
しかし数年後のある日、「先輩方に比べて私の給料が安い」という事実を知りショックを受ける。
「当時の給料は、残業代を含めれば総支給23万円くらいでした。額面だと年収350万円くらいです」
そこで納得いかず上司に給料アップの交渉を打診したものの、思いもよらないセリフが返ってきた。
「『お前が一番仕事をしているけど、妻子持ちじゃ無いから昇給の優先度が低い。そういうものだ』と言われました。この会社では、能力より『家庭を持っているかどうか』が大事なようです。ここで転職を決意しました」
先輩より能力が高いという自負があるだけに、失望は大きかった。当時の心境をこう語っている。
「結婚できる収入もなく、若い頃から子供を持たないことを決めていた私からすると、『お前の給料は一生上がらない』と言われたように感じられ、激しい憤りを覚えました」
低収入のままでは結婚したくても難しくなってしまう。希望を感じない会社を辞めていくのは無理もないことだ。
「今では前職の倍以上の給与を貰えるようになりました」
とはいえ、すぐに転職する勇気は無かった男性は、スキマ時間で資格の勉強を始めた。「高卒には難しい難関資格、甲種危険物取扱者」を取るべく再び努力する。この資格は例年3~4割程度の合格率だ。
「ネットで買った参考書と問題集を使って、通勤中もずっと参考書を読んで勉強しました。資格取得まで1年弱くらい掛かったかと記憶しています」
努力が実り、みごと一発で合格した。
「そこで、同僚などには一切秘密にして転職活動を開始したところ、上場企業への転職がとんとん拍子に決まりました。今では前職の倍以上の給与を貰えるようになりました。 おそらく、前職の上司よりも年収は上だと思います」
年収はおよそ650万円。現在の会社では能力に応じた給料が支払われているようだ。職場の雰囲気も悪くない。
「社歴も年齢も上の社員を追い越して中間管理職をやっております。雰囲気としては、ほとんどの社員は給料に見合う仕事をしようという意識があるため、仕事に対する温度差を感じにくく、頼りになる人がたくさんいて働きやすいです」
と語る。無事結婚もして充実した生活を送っているようだ。前職についてこう振り返った。
「世の中にはこんな理不尽もあるのだと体験できたので、良い社会勉強にはなりました。前職の上司にはかわいがっていただき、スキルや社会人のマナーについてはきちんと教えていただけたので、そのことに関しては感謝しております」
悪いことばかりではなかったようだが、旧態依然とした人事制度は改めた方がよさそうだ。