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池袋暴走の飯塚氏に約1億4000万円賠償命令 遺族「持病ある高齢者の運転、考える機会に」

2023年10月27日 18:01  弁護士ドットコム

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東京・池袋で2019年4月、松永真菜さん(当時31歳)と長女の莉子ちゃん(当時3歳)が死亡した乗用車の暴走事故をめぐり、遺族が運転手の飯塚幸三氏(92歳)と保険会社に対し、慰謝料など計約1億7000万円の損害賠償を求めた裁判で、東京地裁(平山馨裁判長)は10月27日、被告側に約1億4000万円の支払いを命じた。


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刑事裁判では2021年9月、東京地裁が自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で禁錮5年の実刑判決を言い渡し、そのまま確定していた。



判決では、飯塚氏の持病からくる運動機能障害が事故発生に影響を与えた可能性を認めた。遺族の松永拓也さんは会見で、この点について「一定の評価をしている」とする一方、自身や真菜さんのきょうだいに固有の慰謝料が認められなかった点は「つらい思いは同じ。認める前例にしてほしかった」と話した。



●松永さん「移動手段失った高齢ドライバーのフォローも必要」

今回の判決結果を「2人に報告する」という松永さんは、「医師の説明を受けて、飯塚氏本人が主観的に(持病や運動機能障害などを)理解しきれていなかったことが問題」と強調する。



「持病の症状や運転への影響を、患者本人が理解し切るまでしっかり説明することが非常に大事になってくるのだろうと思います。



足が動かない、動きにくくなる病気を持つ人が、本当に車を運転していいのかどうかをしっかり社会で議論していくことが必要ではないでしょうか。



その際、運転してはいけないとするとしても、一律に運転をやめさせるだけでなくて、移動手段を失った人をどうフォローするのかというのも、セットで考えるべきです。そういった議論が社会全体で進んでいくことを私は望んでいます」



控訴するかを問われた松永さんは、「(控訴期間が)2週間あるので、少しゆっくり考えたい。結論はまだ出ていない状態です」と話した。



●医師が出頭ドタキャン、弁護士「いかがなことか」

判決文によると、原告側は飯塚氏がブレーキとアクセルを踏み間違え、時速100km近くまで車を加速させた重過失があり、持病で杖をついて足を引きずるような状態だったにもかかわらず運転自体を控えず、危険な運転行為を選択したことは問題だなどと主張していた。



これに対し、被告側は死亡慰謝料を認め、被害が重大であることも争わないとしたものの、踏み間違えは一般的にも起こりうるもので重過失とはいえないと説明。医師から運転を控えるよう指示されていたわけではないと反論した。



裁判では、飯塚氏が持病による運転機能障害の程度を理解していたにもかかわらず運転したのかが争点となったため、医師による運転に関する指導内容が問われた。



裁判所は黙秘義務の免除を取り付けた上で医師を証人として召喚したものの、この医師は出頭せず、尋問できなかった。判決は、飯塚氏が持病による運転機能障害の程度を理解した上で、悪意ある動機で運転したとまでは認められないとした。



医師が出頭しなかったことについて、遺族代理人の髙橋正人弁護士は「いかがなことかと思う」と憤りを隠さない。



「安心して尋問で話してもらえるよう、守秘義務の免除を取り付けました。ところが何の連絡もなく、当日の法廷に現れませんでした。『来る、来ない』の連絡もなかったんです。医師として、どういうニュアンスで飯塚氏に持病や運転に関する説明をしたのか、法廷で明らかにすべきではなかったのかと私は考えています」



●莉子ちゃんのおじおばへの固有の慰謝料は認めず

判決は、命を落とした2人の死亡慰謝料のほか、松永さんには2人に関する固有の慰謝料と、真菜さんの父・上原義教さんには、娘に関する固有の慰謝料を認定した。



莉子ちゃんと同居していなかった祖父母にも、民法が定める「父母、配偶者および子」と実質的に同視し得る身分関係があったとして、孫に対する固有の慰謝料を認めた。一方、松永さんとや真菜さんのきょうだい(莉子ちゃんのおじおば)については認めなかった。



遺族代理人の上谷さくら弁護士は、おじやおばも莉子ちゃんと「日頃から交流があって濃密な人間関係があった」といい、固有の慰謝料を認めなかったことについて「一歩踏み込んで金額として算定していただきたかった」と残念がる。



「密な関係にあった親族が亡くなり、(松永さん夫妻の)きょうだいも非常につらい思いをしたのは同じです。金額の問題ではありません。遺族の気持ちに寄り添って、わずかでも認めてほしかったです」



松永さんは「今後交通事故や犯罪被害で遺族になった方々にとってが同じような立場になったとき、(固有の慰謝料が認められれば)プラスになるのではないかと思っていました。これまでの司法の中で積み上げてきたものがあるのかもしれませんが、(遺族の心情を)少し軽く見られてしまっているのではないかと非常に残念に思います」と話した。