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【漫画】努力は必ずしも報われない、それでもーー「才能」について考えさせられるSNS漫画が美しい

2023年10月25日 07:51  リアルサウンド

リアルサウンド

漫画『あなたの右腕が欲しかった』より

 「才能」とはいったい何だろうか。“ある”と言われる優秀な人も、“ない”と自覚してもがく人も、それぞれに切実な思いがある。10月上旬にX(旧Twitter)上で公開された『あなたの右腕が欲しかった』は、才能という壁にぶち当たりながらも、前を向く若者の姿が瑞々しく表現されている作品だ。


(参考:『あなたの右腕が欲しかった』を読む


 美術部員の七瀬は、同じ部の才也の才能を羨やんでいた。才能という自分ではどうすることもできない壁を前に打ちひしがれ、「あたしはアンタが羨ましい」と才也に言い放つ。それを聞いた才也は「なんで絵を描くの?」と七瀬に質問し、続けて「俺はね」「もうずっとわかんないよ」と、思いもよらなかった苦悩の表情を見せてーー。


 本作を手掛けたのは、普段は仕事をしながら作品をつくっているという東ノ東さん(@azuma_east)。優れた作画と繊細な物語が印象的な本作を制作した経緯など、話を聞いた。(望月悠木)


■頭に浮かんだシーンが出発点


――『あなたの右腕が欲しかった』を制作しようと思った時の状況を教えてください。


東ノ:長編を描き終えると燃え尽き症候群のように、何も描けない時期が続くことがよくあります。当時もそんな感じで、若干焦りながらも「天才と凡人の才能に絡めた話を描きたいな」とぼんやり思っていました。ある日、いくつかのキーになるシーンがポーンと出てきたので、それらを繋げるようにして全体のストーリー話を作っていきました。


――思い浮かんだシーンをつなげて制作するというのはなかなか挑戦的ですね。


東ノ:私は基本的に「描きたい!」と浮かんだシーンと、かなり曖昧な世界観を思い浮かべ、合間合間をつなげるように物語を作ります。一番最初に出てきたシーンの勢いとか、自分の中での“描きたい欲”みたいなものを殺さないように、ということは気を付けています。ですので、そこの帳尻合わせは本当に苦労します。


――2人が絶望した時の表情、そしてその絶望を打ち破って「絵を描くことが好き」ということを思い出した時の表情もインパクトがありました。


東ノ:昔、描いた作品を持ち込んだ時、「目から感情を感じられない」と言われたことがずっと記憶に残っています。ですので、目の形や瞳の中など、試行錯誤しつつかなり気を遣って描いています。眉毛の形も結構こだわっています。見せ場では「なんとか熱量を伝えられないものか」ととにかく気合を入れて描いているので、表情について指摘してもらえるのは嬉しいです。


――持ち込みの際に言われたことが、今活かされているわけですね。


東ノ:そうですね。また、表情ですが、シーンによっては1つの感情だけではなく様々なニュアンスが含まれることも多いです。「そこをどう絵に起こすか」という部分は毎回頭を悩ませています。


――作画だけではなく、思春期ならではの葛藤も見事に表現されていました。


東ノ:「自分が描きたいこと・主張したいことは恥ずかしがらずにドストレートに漫画に入れ込もう」ということは毎回意識しています。正直描いていて恥ずかしくなる時もありますが、ありがたいことに「描きたいことが伝わってくる」と言ってもらえることが多いです。そういった開き直っていることが功を奏しているのかなと思っています。


――ちなみに、東ノさんも作中の2人のように「描くことが好きでたまらなかったのに、ある時期を境に描くことが辛くなった」という経験はありましたか?


東ノ:それが1度もないんです。絵や漫画を描く行為も、漫画家を志す道のりもそれなりにしんどいのですが、しんどいと思いつつ描いているとなんだかんだ楽しくなるので、本当に辛いと思った経験はありません。ただ、背景とネームの制作はいつも辛いです。


――最後に今後の目標など教えてください。


東ノ:連載漫画家を目標としてはいますが、最近いろいろ考えて“楽しく漫画を描くこと”を大事にしたいと考えるようになりました。とはいえ、やはり“職業・漫画家”には憧れがあるので、そこに向けてもっと精進したいです。基本的に漫画はXやpixivなどに投稿するつもりですので、興味があれば読んでもらえるとありがたいです。私の作品を読んでいる時、少しでも素敵な時間になれば嬉しいです。


(取材・文=望月悠木)