2023年10月16日 18:41 弁護士ドットコム
ツイッター(現・エックス)の匿名アカウント「Dappi」(@dappi2019)の投稿によって、名誉を傷つけられたとして、国会議員2人が発信元であるウェブコンサルティング会社と社長らを相手取り、損害賠償をもとめた裁判で、東京地裁(新谷祐子裁判長)は10月16日、会社と社長に計約220万円の支払いと投稿の削除を命じる判決を下した。
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東京地裁の新谷裁判長は「業務時間の大半を投稿の作業に費やしていた」ことなどから、「社長の指示のもと、被告会社の業務としておこなわれたものというほかない」と断じた。また、投稿者についても、社長自身がおこなっていた可能性を示唆した。
この訴訟は、「Dappi」にツイッター上でデマを投稿されたとして、立憲民主党の小西洋之参院議員と杉尾秀哉参院議員が2021年10月、ワンズクエスト社と社長らを相手取り、計880万円の損害賠償と投稿削除、謝罪広告などをもとめて、東京地裁に提訴していたもの。
争点の一つは「Dappi」による投稿が「業務」だったのかどうかだった。
原告側は「Dappi」の投稿が業務であると主張していたが、被告側は「従業員が業務とは無関係に私的におこなっていた」として、会社や社長の関与を否定していた。また、投稿していた従業員について懲戒処分をおこなった「証拠」として、投稿者の氏名をマスキングした「基本給月額110万円の給与明細書」を裁判所に提出していた。
訴訟の中で、裁判所は被告側に投稿者の氏名を明らかにした給与明細書を提出するよう命じる決定をした。しかし、これに対して、被告側は、報道関係者からの問い合わせが殺到し、営業活動が著しく害されたため、氏名を明かせば投稿者の私生活の平穏が著しく害されるなどと反論し、命令を拒んだ。
では、投稿者は誰なのか。東京地裁は判決の中で次のように判断した。
まず、投稿者は「2020年11月から2021年1月27日までの間、37回にわたって、被告会社回線を用いてログイン」「平日午前9時から午後10時までの間に投稿」していたことなどを指摘し、「被告事務所に滞在した被告会社の役員または従業員」と認定した。
そのうえで、投稿した記事の多くが、ネットで生配信されていたニュース番組や、国会中継の動画をダウンロードし、ツイッターに適した長さに編集し、コメントをつけていたことは、「相当の時間と集中力を要し、ほかの作業と並行しておこなうのは困難であると考えられる」とした。
そのため、「投稿者は被告会社における業務時間の大半を、もっぱら記事の投稿のためにあてていたと考えられる」とした。
また、被告側が投稿者のものとして提出した「給与明細書」についても、「基本給が月額110万円、かつ残業手当が支給されていない」ことなどから、投稿者は「被告会社において相応の地位にあり、また重要な業務を担当していたとみることができる」と指摘した。
こうしたことから、判決は「少なくとも被告(編集部注:社長)は投稿者が会社における業務時間の大半を投稿のために費やしていることを把握した上でこれを容認していた」としたうえで「代表者から包括的な指示が出されているはずであり、本件記事の投稿についても、社長の指示のもと、被告会社の業務としておこなわれたものというほかない」と断じた。
被告側は、投稿者の氏名を明らかにしていないが、判決は「給与明細に被告会社の社長の氏名が記載されている可能性が相応にある」とまで踏み込んで、次のように結論づけた。
「被告(社長)は、被告会社の業務の一環として被告会社従業員が『Dappi』アカウントを利用して記事の投稿をおこなうことを包括的に指示し、本件記事を投稿させ、あるいは自ら投稿していた」
この日の判決を受け、原告の小西議員は、弁護士ドットコムニュースのインタビュー取材に対して、次のように語った。
「Dappiの投稿が『業務である』と丁寧な事実認定をしていただいたと思っています。一方で、長年にわたり、野党議員たちを誹謗中傷してきたアカウントの正体が、会社組織によるものだったと認定されたことは、日本の社会にとって非常に深刻な問題だと思っています。
この訴訟は、日本の言論空間や民主主義を守る目的があって起こしましたが、被告側は、最後まで何の目的で誰から依頼を受けて、あのような投稿をしていたのか明らかにしませんでした。
しかし、被告会社は自民党と取引関係にあり、会社の業務としておこなわれたことであるならば、自民党の関与を疑わざるを得ません。自民党の岸田総裁には説明責任が問われると考えています」
また、杉尾秀議員も次のように文書でコメントを寄せた。
「今日の判決は本件投稿がワンズクエスト社において社長の指示のもと、従業員あるいは社長自身によって行われたものと明確に認めており、全面的に我々の主張を採用したものとして高く評価できる。まさに『全面勝訴』ともいえる内容であり歓迎したい。
その一方で、被告会社はこれまで不自然、不合理な弁解を繰り返しており、不誠実極まりなく、判決が命じているように問題の投稿は速やかに削除されるべきであると考える。
これまでの報道等でも明らかなように、被告会社は自民党と取引関係があり、本件を始めとした一連の投稿が執拗に野党を攻撃していることから、自民党によるネット操作の一環ではないかとの指摘が出ており、その疑いは排除できない。この点について被告会社には明確な説明を求めたい。
近年、意図的にフェイクニュースを流すことがビジネス化しているとも言われる現代において、今回の判決はこうした傾向に歯止めをかける契機ともなりうるもので、その意味においても高く評価したい。裁判所の判断に深甚なる敬意と感謝を申し上げる次第です」
弁護士ドットコムニュースでは、判決直後の16時に被告会社に電話したが、「本日の営業は終了させていただきました。営業時間は午前10時から午後19時までとなっております。お電話ありがとうございました」という自動音声が流れ、つながらなかった。メールでも取材を申し込んでおり、回答が届き次第、追記する。