2023年10月15日 08:21 弁護士ドットコム
隣家の住人が深夜に洗濯機を回す音で眠れないーー。弁護士ドットコムには、このような相談が複数寄せられている。
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ある相談者は、毎夜、深夜0~3時くらいにドンドンドン!という音で目を覚ます。原因は、隣家の屋外に設置されている洗濯機だった。隣家の住人に話をすると「働いているから、深夜に回している」と言われ、改善する気はない様子だったという。
話し合いで解決できずにガマンを強いられている人、大家に相談しても改善されずに悩んでいる人からの相談もみられる。このようなトラブルは、どう解決すればよいのだろうか。騒音問題に詳しい山之内桂弁護士に聞いた。
ーーそもそも、屋外設置の洗濯機を回す音は「騒音」にあたるのでしょうか。
個人使用目的で屋外に設置した家庭用洗濯(脱水乾燥)機の作動音は日常生活音なので、法律による規制基準がありません。
騒音にあたるか否かは、環境省告示の目標数値(環境基準)を参考に判断されています。数値は、生活環境を保全し、人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい基準として定められています。
たとえば、住居専用地域内の夜間(午後10時から翌日午前6時まで)の環境基準は40デシベル以下とされています。被害側の測定点で音が数値を超えていれば、騒音にあたると評価できます。洗濯機は1メートル離れた位置の測定値で最大70デシベル程度の音を出すこともあるようです。
ーー70デシベルであれば、確実に「騒音」にあたるのではないでしょうか。
いえ、測定点がどこになるのかで変わります。音は距離を置くと小さくなる(減衰する)性質があるためです。音源から1メートルの地点で70デシベルの音は、遮蔽物なしの距離で約32メートル以上離れると40デシベル以下になります。この範囲内であれば、騒音と評価される可能性があるでしょう。
測定点が室内の場合、遮蔽物による減衰や開口部の有無などによって音の伝わり方は変わるものの、一般的には屋外よりも騒音を感じる範囲は狭くなる可能性があります。
なお、昼間の環境基準は夜間に比べて10デシベル高くなります。そのため、同じ70デシベルの音でも昼間に騒音と評価できる範囲は狭くなります。
ーー相手に「音がうるさい」と注意をしても改善されずに悩んでいる人もいます。どのように解決すればよいのでしょうか。
直接注意を促す場合は、段階を踏んだ慎重な対応が求められます。相手が騒音の加害者であることを認識しておらず、逆に文句を言われた被害者と受け取る場合もあるためです。
たとえば、注意を喚起する掲示や通知を出すよう家主や管理会社に依頼するとよいでしょう。もし自治会や管理組合が機能していれば、注意文書の回覧や掲示を依頼するのもひとつの方法です。
ーー警察に通報してもよいのでしょうか。
はい。通報する前に、相手に反論をさせない程度の証拠を集めておくほうがよいでしょう。自治体に相談して騒音計を借りられる場合もあります。貸出がなければ、国家資格である環境計量士(騒音・振動関係)が所属する最寄りの計量証明事業所を探し、騒音測定の依頼を検討してください。
測定の結果、環境基準を超えた騒音が居室内にまで及んでいる場合には、警察に相談することも考慮してよいでしょう。ただし、生活騒音は原則として民事の問題です。相手が故意に加害行為をしていない限り、洗濯機の利用を制限させることまではできません。警察ができることは、あくまでも注意にとどまります。
ーー注意してもらっても状況が変わらない場合は、どうすればよいでしょうか。
調停・訴訟などの民事手続による解決を考える必要も出てきます。ただし、民事訴訟の事実認定には高いハードルが存在します。
専門家による計測や評価を伴わない単なる録画・録音だけでは音量や音源の証明は困難です。弁護士への依頼まで含めると最低でも30万円を超えるコストがかかると考えられます。
洗濯機の音だけが問題なのであれば、費用対効果の観点からは、法的手続をとるよりも別のことにコスト分を使ったほうがよいでしょう。
たとえば、住宅の二重窓化、居室の防音工事、転居、相手方に静音タイプの製品に買い替えてもらう、洗濯機周囲の防振・防音工事をしてもらう、などのほうが、結果的には満足度が高くなるかもしれません。
【取材協力弁護士】
山之内 桂(やまのうち・かつら)弁護士
1969年生まれ。宮崎県出身。早稲田大学法学部卒。司法修習50期、JELF(日本環境法律家連盟)正会員。大阪医療問題研究会会員。医療事故情報センター正会員。
事務所名:梅新東法律事務所
事務所URL:https://www.uhl.jp