年収1000万円を超えていれば、生活にもそれなりに余裕がありそうだ。でも、実際には年収1000万円を超えても心配事から逃れられるわけではない。今後も、同じ収入で生活レベルを落とさずに暮らしていける保証など、どこにもないからだ。都内に暮らす40代男性が、年収1000万円を超えてもなお節約生活を送る理由を語ってくれた。(取材・文:広中務)
男性はデザイン事務所を経営し、あるジャンルでは信用を獲得している人物だ。結婚10年目で、同い年の妻は都内の企業に勤務している。昨年の年収は夫が1000万円、妻が600万円で、世帯年収は約1600万円程度だ。この年収で、子ナシ世帯であればそこそこ裕福な生活をしていそうだが……。
「結婚以来、住んでいるのは都内のメゾネットタイプの2DKです。家賃は月12万円でしたが、昨年の更新時に交渉したところ11万円になりました」
と、世帯年収の割に質素な暮らしぶり。「生活に最低限必要なもの以外でお金が出ていくのが怖い」という。その理由は修業時代のトラウマだ。
スーパーに行くたび「野菜を買わないので〇〇円得した」とにやける
「大学を出て最初に就職したのは、そこそこ実績のあるデザイン事務所だったんですが、代表である社長のセンスが古くなっていたんでしょう。5年ほど勤める間にどんどん仕事が来なくなって会社が消滅するまでを体験したんです」
その後、独立し自身の才覚で信用を得た男性だが「どんなに努力しても、いずれ限界が来る」と覚悟を決めている。その上で、男性が選択したのは「仕事があるうちに稼げるだけ稼いで、老後は細々と暮らすこと」だった。
そのために、とにかく出費を減らした生活をしたい。そう決意した頃、まだ交際中だった現在の妻と結婚した。理由は、男性のケチケチ生活プランにいたく感動してくれたからだ。
では、実際にどのような形で節約しているのか。
「まず、自宅の一階部分が猫の額ほどの広さなんですが庭になっているんです。ここを家庭菜園にしてキュウリやトマト、ゴーヤなど季節の野菜を育てています。場所が狭いですからプランターなども置いて、年を追うごとに収穫量を増やしています」
とりわけ野菜の値段が高騰している昨今、スーパーに行くたびに「今日は野菜を買わないので◯◯円得した」と考えているという。
「光熱費も重要ですよね。ふたり暮らしですから、家に居るときは常に同じ部屋にいますし、風呂もなるべく一緒に済ませるようにしています」
さすがに夫婦でも、ずっと顔を合わせているのはうんざりするのではないかと思ったが、男性は「結婚10年になるが、愛はまったく冷めません」という。
部屋着はもはや単なる布「学生時代から使っている」
ほかにも「外食は極力避ける。週に数度はもやし料理を取り入れるなどの工夫は当然している」という男性だが、もっとも自慢なのは被服費だという。
「人に会うことが多いので、外出する時の服はケチらず、そこそこのものを買うようにしています。でも、部屋着はいっさい買ったことがありません。Tシャツには5年近く着ているのもありますし、1着は学生時代から使っているものです」
もちろんボロボロである。それでも男性は気にすることはない。
「Tシャツはすり切れて穴が空いていますが、まだ使えます。繊維は本当に丈夫ですね」
さらにバスタオルには学生時代から使っている「20年モノ」もあるという。
「吸水力も落ちて、色もどんどん白くなっているけど、ここまで使い込んだら、どこまでバスタオルとして使用できるかチャレンジですよね。もし諦めても、まだ雑巾として使えるでしょうし」
そんな生活を続けるコツを「ここぞという時にはお金を使うこと」だという男性。日々、妻と一緒に外食するなら、旅行するならとプランを練るのが楽しいという。
「こんな節約生活に慣れ、計画を立てること自体に満足してしまうようになっています。外食も季節に一度くらいですね。結婚10年目を迎えましたし、今年は海外旅行くらいしたいと思いますが」
ちなみに夫婦揃って「エコノミークラスより上は、値段が怖くて乗れない」という。