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ラジオの生配信ドラマで話題の続編『あの夜であえたら』公開へ 脚本家・小御門優一郎と小説家・山本幸久が語る、作品の魅力

2023年10月13日 12:01  リアルサウンド

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 ラジオ局・ニッポン放送で2022年3月に異例の生配信をされたことでも話題となった生配信舞台演劇ドラマ『あの夜を覚えてる』。


 オールナイトニッポン55周年企画として、生配信された同ドラマは、脚本・演出を小御門優一郎、主演を千葉雄大と髙橋ひかる、総合演出を佐久間宣行、主題歌「ばかまじめ」をCreepy Nuts×Ayase×幾田りらが担当するなど、各方面の第一線で活躍するラジオ好きが集まって生み出された作品だ。


 物語のあらすじは、ニッポン放送で新人ADとして働く植村杏奈(髙橋ひかる)は、オールナイトニッポンを担当している。その日の放送は、俳優・藤尾涼太(千葉雄大)がパーソナリティを務めて100回目という大きな節目を迎えていた。しかしそんなタイミングでありながら、週刊誌で藤尾が女性と深夜デートをした姿が報道されていた。彼は放送中に一体、どのように言及するのか。生放送の緊迫感のなか、事態はまったく予期せぬ方向に展開していくーー。


 同作は優れたクリエイティブを表彰する日本最大級のアワード「2022 62nd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」で受賞するなど大きな反響を呼び、第2弾の生配信ドラマ『あの夜であえたら』が10月14と15日に上演されることに。それに合わせての刊行でもある『あの夜を覚えてる』のノベライズ版は、著書『ある日、アヒルバス』『幸福トラベラー』などで知られ、ラジオを愛する小説家・山本幸久が執筆した。


 今回、脚本家・小御門優一郎と小説家・山本幸久の特別対談を実施。生配信ドラマと小説の形式の違い、そしてラジオの持つ魅力などを語り合った。(篠原諄也)


ーー小御門さんは生配信ドラマの脚本・演出を担当しましたが、今振り返るとどのような作品だったと思いますか?


小御門:当初から反響がとても大きかったんです。なぜかと考えると、私たちノーミーツはもともと生配信で物語を届ける試みをやっていたんですが、それがラジオの生放送と構造的にリンクするところがあったからだと思います。ラジオリスナーのみなさんが普段ラジオを聴くがごとく、それぞれいろいろな場所から見ていただきました。


 特に印象に残っているのは、物語の最後に千葉雄大さん演じる藤尾涼太がリスナーからのメールを読むシーンがありますが、これは公演中に視聴者が投げてくれたメールをお渡ししているんです。深夜ラジオでもリスナーのメールによって、番組が思わぬ方向に進むことがありますよね。そうしたインタラクティブ性を疑似的に再現できたと思います。


 物語上すごく大事なラストシーンなのに、それを視聴者・リスナーを信用して任せるというアチチュードを示せたことが、反響の大きさや熱量に結びついたと分析しています。でも俳優さんからしたら、その場のアドリブでリアクションをしないといけないので大変だったはずです。そこは千葉さんをはじめ、演者さんやスタッフにもラジオ好きな方が多かったこともあって、従来は難しいことも実現できました。


ーーそうした舞台裏は、まさに作品内容と連動してるように感じます。作中ではラジオ生放送中のドタバタ劇が描かれますね。


小御門:演じている役者さんだけでなく、裏方を含めて全体で熱量が高くなっていました。みんなで生配信が無事終わるように必死に進めていましたが、それは作中のキャラクターたちと同様ですね。作中ではただ無事に終わらせるだけでいいのだろうか、いい番組にするには何をするべきかと葛藤します。続編から参加する俳優の中島歩さんは、前作を「文化祭みたい」と評されていて、言い得て妙だと思いました。前日からニッポン放送にいろんな配信機材を運び込んで急いで準備をしたのは、まさに文化祭のようでした。


山本:ドラマはとても面白かったです。映画やテレビともまた違う、ラジオ本来の面白みをきちんと映像化ができていると思いました。最初のうちはカメラの動きに連れて行かれて、別の部屋に移動したりするので、見ているこっちが引きずり回されているような感じでした。いきなり作品世界に飛び込まされて、びっくりした人も多かったでしょう。でも見ているうちに、こちらから追いかけ出すんですね。映像を見ていて感じたのは「疾走感」という表現が一番近いかもしれません。


小御門:カメラの動きは半分は意図したようで、半分は意図していないというか。生配信で予算も多いわけではなかったので、切り替えをせずにひとつづきで繋げ
ざるをえなかったんですね。でもそうした現場の時間がないドタバタした感じがあって、映像に疾走感が出たのかもしれません。キャストもスタッフもずっと腰を浮かして動いていました。


 普通、動画配信サイトで映画を見るようなとき、その作品が無事エンドロールにまでたどり着くことは保証されていますよね。でも生配信は無事に終わるかわからず、まったく別の視聴体験です。コンサートや演劇の観賞中に「もし今、私が大きな声を出したら、この空間は台無しになる」と思った経験ってあったりしませんか。ライブエンタメはそうした脆さを楽しむところがあって、配信ではそういう雰囲気が出ていたと思います。


ーーラジオ局を舞台にしたことについて思うことはありますか?


小御門:やはりラジオファンの聖地であることを実感しました。使わせていただいた4階の第2スタジオというのは、普段オールナイトニッポンの第1部を放送しているスタジオです。火曜の深夜にはそこに星野源が座っているし、土曜の深夜にはオードリーの2人がいる。いつもそこから声だけが届けられている場所。そんな実際の現場で、ディレクターなどがどういうフォーメーションで放送しているかを、ビジュアライズして見せられたのは大きなことでした。


 本編のファーストシーンで、放送開始のタイトルコールがあってビタースイートサンバ(オールナイトニッポンのおなじみのテーマ曲)が流れますが、コアなファンからするとそれだけでよだれがでるようなことだったらしいんです。場所が持っている震源地・グラウンドゼロ感があって、そこから受け取れるパワーを吸い取った作品だと思います。


山本:深夜ラジオは好きでよく聞いていましたね。僕は大学生の頃にニッポン放送で、リスナーからの電話を受け取るバイトをしてたんです。狭い廊下に長テーブルをいくつも並べて、ファクシミリもない時代でしたから、電話を受けてメモ書きして渡していたのを今でも覚えています。


 だから今回のノベライズの話はとてもありがかったんです。話をもらったとき、ラジオの話だから書けるなと思いました。作家は基本的に一人で書くのですが、台本やキャラクター表などを見せてもらいながら意見を交わす経験は、刺激がありましたね。ニッポン放送に久しぶりに来られたことも、感慨深かったです。


ーーどのように執筆を進めましたか?


山本:脚本と映像を横目で見つつ、小説を書いていきました。一番感じたのは、脚本にも映像にも熱量があるということ。どう老体に鞭を打ってそれを書くかと考えたときに、中学や高校の頃に熱心に深夜ラジオを聞いていた感覚を思い出すようにしていて。映像で視聴者が引きずり回されて、なおかつ追いかけるようになる疾走感も、文章で表現することができたらと思いました。


小御門:演劇では舞台があって演者さんが出てきて、客席で観客が見ています。全員が同じ時間を過ごす中で「なんとかしなきゃ」というドタバタ劇になる。だから回想シーンはあまりなく、現在の時間だけで進行をしていきました。それが山本さんのノベライズを読むと、誰がどこでどうしていたかなど、改めて整理されるように感じました。


 演劇の脚本をリライトするだけだと、物語が何だったかという軸が通らない。そこで山本さんが出してくれたのが、松坂というリスナー代表の存在です。彼の少年期からのミニ半生を軸にすることによって、ドラマのように時間の順番通りに進めるくびきから解放されたように感じます。つまり、時間的には現在にいるのですが、思いを馳せるのは過去でもよくなった。松坂という存在によって、小説である意味が非常に出たように感じました。


ーー最後に改めてラジオの魅力とは?


小御門:現代のエンタメはVRなど五感をフル動員するものも出てきています。しかし、そのなかで音しかないという、メディアの不完全性があって、それを補完しようとするところに、孤独を癒す力や温かみがあるように感じます。誰もが孤独を感じやすい現代において、稀有なものだと改めて思いました。


山本:最近、ラジオと小説は根底は一緒ではないかとと思うんですね。なぜかというとどちらも今の自分の思いやさまざまな出来事を伝えるものですよねる。それに相手にどう伝えると面白く思ってもらえるかを考えるメディアです。


  ラジオで「パーソナリティがどう話すんだろう」と思いながら聞いてみると、計算立ててやっている人もいれば、計算しないでできる人もいる。今回小説を書かせていただいてから「導入ではこういう話の入り方をするのだな」などと考えるようになりました。きれいに作った話よりも、どこかパーソナリティの人間味が出た方がが面白くなってくる。そこは小説とも違ったラジオの強みであるし、ちょっと嫉妬するところだとも思っています。


生配信ドラマ『あの夜であえたら』公式サイト

https://event.1242.com/events/anoyoru2/