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コミックナタリー記者が選ぶ「この15年に完結したマンガ」

2023年10月11日 15:00  コミックナタリー

コミックナタリー

コミックナタリー記者が選ぶ「この15年に完結したマンガ」
コミックナタリーでは15周年記念企画「この15年に完結したマンガ総選挙」を開催している。同企画は【2008年7月1日~2023年6月30日の期間内に連載が完結したマンガ作品】を対象にしたユーザー参加型のマンガ賞。ユーザーからエントリー作品を受け付け、投票数の多かった15作品をノミネート作品として選定し、本投票としてユーザー投票を行い大賞を決定する。現在はエントリー作品を集計中だ。

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そこで「この15年に完結したマンガ総選挙」と同じレギュレーションで、コミックナタリーの記者が作品を1作選ぶ企画を実施。この15年間、毎日マンガのニュースを執筆し続けてきたコミックナタリーの記者は、いったいどんな作品をピックアップするのか……? 現在コミックナタリーに所属する14人が真剣(?)に選んだ14作品を紹介する。

■ 海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」全11巻(講談社)
思春期に「彼はカリスマ」を読んで海野つなみ作品のファンになり、ナタリーの採用面接でも海野つなみ作品の話をしてから15年弱。連載が始まった2012年には、「海野先生の現代ものが始まった!」と興奮しながら記事を書いたのを覚えています。第39回講談社漫画賞の取材時に、壇上でのスピーチで「39(サンキュー)!」と明るく言い放った先生のチャーミングな笑顔も印象的で元気をもらいました。海野先生の言わずと知れた代表作となったこの作品を、連載開始からメディア化、そして完結まで、コミックナタリー編集部に在籍しながら追いかけることができ、この仕事をしていてよかったと心から思います。

(文 / 坂本恵)

■ 窪中章乃・須賀しのぶ「流血女神伝 ~帝国の娘~」全5巻(小学館)
「流血女神伝 ~帝国の娘~」は、1999年から2007年まで集英社コバルト文庫から刊行されていた少女向け小説のコミカライズです。小説の完結から14年経った2021年に突如コミカライズの連載が始まり、小中高時代に“コバルト少女”だった私は「なぜ今!?」と本当に驚愕したのでした。

「流血女神伝」シリーズの主人公は、猟師の娘として育ったカリエ。彼女は皇子の影武者に仕立て上げられ、用済みとなって奴隷となり、後宮に入って正妃に成り上がり、身ごもり、正妃の座を捨て……と、激動の人生を歩みます。かわいらしい恋物語を好んで読んでいたコバルト少女時代の私にとって、カリエの理不尽に対する怒り、身を切られるような悲しみ、どんなにつらいことがあっても生き抜こうとするたくましさはあまりに衝撃でした。

窪中章乃さんのコミカライズは、そんな当時の衝撃を鮮やかに思い出させてくれました。「帝国の娘」時代のカリエが元気に動き回っている姿を見ると、昔一緒に遊んだ友人に会ったような懐かしさ、カリエの喜怒哀楽の豊かな表情を追えるマンガならではの楽しさを感じます。また、年を重ねた私は学生時代とは違った見方をするようになっていました。「ムカつくおばさん」でしかなかった皇妃フリアナは、子供を失う寸前の狂気に蝕まれた女性だったし、弱くてずるいという印象だったシオン兄上は自分が為すべきだと思ったことを為した人でした。新しい魅力に気づけたのも、14年経って「帝国の娘」をコミカライズしてくれた窪中章乃さんのおかげです。

祖父母の家に下宿していた高校時代、本棚の一番手に取りやすい場所に「流血女神伝」を置いていました。須賀しのぶ作品特有の明るいブルーの背表紙(当時のコバルト文庫は、作家ごとに背表紙のカラーが異なりました)を見るたびに、自分の人生にもいろいろな出来事が起こるんじゃないかとなんとなくワクワク、そわそわ、戦々恐々としていたことを思い出します。昨年から誰も住まなくなった祖父母の家の、私の部屋だった場所には、今も「流血女神伝」が入った本棚があります。今度帰省したときに、忘れずに持ってこないとと思いながらコミカライズを読み返しています。

(文 / 三木美波)

■ ヤマシタトモコ「違国日記」全11巻(祥伝社)
ヤマシタトモコさんのマンガを読み始めたのがちょうど15年ほど前で、それから新刊が出るたびに読んできたヤマシタ作品の魅力が、「違国日記」にはぎゅっと凝縮されていたと思います。私にとってのこの15年の1作を選ぶならこれしかなかったです。最終話は信じられないくらい泣きました。

次点に吟鳥子「アンの世界地図~It's a small world~」(秋田書店)を。吟鳥子さんのお名前はそれまで存じ上げていなかったのですが、たまたま有隣堂ヨドバシAKIBA店で1巻が面陳されていたのを見てジャケ買いし、読んで「なんて私好みのマンガなんだ……!」と自分の直感とお店に感謝したことをよく覚えています。同店をはじめ思い入れのある書店が多く閉店してしまった15年でもありますが、こうした出会いがいつまでもなくならないことを願います。

(文 / 柳川春香)

■ 得能正太郎「NEW GAME!」全13巻(芳文社)
短く上手にまとまったマンガにも魅力的なものはたくさんありますが、連載が長期にわたるということはそれだけ作品の中で描けるものが増えるということで、作品に奥行きが出るのを読みながら実感できるのはマンガを連載で追いかけるなによりの楽しみです。「NEW GAME!」で自分が一番好きなのは、単行本7~10巻にかけて展開される「デストラクションドッジボール(通称デスボール)」開発のエピソードなのですが、このゲームのディレクターを務めたはじめは物語序盤だけの印象で語れば、脇役と言っても過言ではないキャラクターでした。それが何度も企画を上に持ち込み、ついに自分の考えたゲームを発売までこぎつけるという見せ場を与えられたのは、連載8年半──全13巻というボリュームがあったからこそではないでしょうか。
そもそも「NEW GAME!」というマンガ自体が、ここまでのクリエイターど根性物語になると1巻時点で誰が想像できたか。「NEW GAME!」を読んだことがない、きららマンガとは縁遠い人にこのマンガをおすすめするとき、僕は土田世紀の「編集王」(小学館)のゲーム会社版という説明をしています。デスクの前で握りこぶしをして「今日も一日がんばるぞい!」をするカンパチが目に浮かぶようです。仕事に疲れて手を抜きたくなったとき、何かを諦めそうになったとき、読み返したくなるマスターピース。やる気と勇気をマンガにもらって、次の15年もがんばるぞい!

(文 / 淵上龍一)

■ 秋本治「こちら葛飾区亀有公園前派出所」全201巻(集英社)
この15年で完結した作品を1作品だけ挙げる。歴史に刻まれる大傑作の「大奥」、別冊少年マガジンの創刊号で第1話を読んで震えた「進撃の巨人」、敬愛するあだち充先生の「クロスゲーム」など……。考えればキリがなく、“面白かった”や“好き”だけではとても1作に絞れそうにないので、ちょっとずるいかもしれませんが、“完結したこと自体、とてもインパクトがある”というテーマで「こちら葛飾区亀有公園前派出所」をピックアップします。

「こち亀」が完結することが発表されたのは2016年9月3日。同日、「こち亀」の連載40周年を記念した巨大絵巻物の奉納式が行われるということで、私は取材のために東京の神田明神を訪れていました。奉納式後には秋本治先生の取材会が行われたのですが、その中で「今後どれくらい連載を続けたいか」という、作品が終わるとは微塵も思っていないであろう記者からの質問に、秋本先生が少し戸惑ったように「その辺のことはあとでゆっくり話したいと思います」と回答したのにどこか違和感を感じたのを今でも思い出します。

その後「こち亀」の連載が終了することが突如として発表され、会場は騒然。いち早く記事を出さねばと、会社のチャットツールで社内のスタッフと忙しなくやり取りしていました。すべての記事を書き終えたとき、長年慣れ親しんできた作品が終わってしまうのかと何か寂しくなって、iPhoneに入っていた「こち亀百歌選」というアニメの主題歌集を聞きながら家に帰ったのをよく覚えています。マンガの最終話を読んで「名作だった」と再認識することは多々ありますが、“作品が終わる”と聞いてここまで心にポッカリと穴が開いたのは、私にとって「こち亀」が唯一かもしれません。当日の取材の様子はこちらで確認できますので、もしよければ読んでみてください。

もちろん“終わること”のインパクトだけでなく、「こち亀」という作品が大名作であるのは言うまでもありません。内容面で語りたいこともたくさんあるのですが、すでにだいぶ長くなってしまったので、最後にアンケートを書くにあたり「こち亀」のことを思い返す中で気づいたことを1つだけ。

とんでもなく自分語りになってしまうのですが、私はガジェットが大好きで、スマホを無駄に何台も契約して持ち歩いたり(Z FOLD5はマンガを読むのに最高です。ちなみにこのアンケートはiPhone15の予約開始日に書いていて、予約争奪戦に負けて発売日に手に入らないのでゲンナリしています)、PCやタブレット、ゲーム機器、オーディオ機器にカメラ、白物家電も次から次へと新しいものを買ったりしています。そういったガジェット好きの素養は新しい物好きの秋本先生、ひいては作中の両さんによって子供の頃に養われていたんだろうなと感じました。最先端の機械や新しい情報を、当時子供だった私にわかりやすく教えてくれていた「こち亀」にとても感謝しています。

(文 / 宮津友徳)

■ いくえみ綾「潔く柔く」全13巻(集英社)
幼少期の私は、自分のせいで大事な人を失ったのだと、後悔しながら生きてきました。
「私のせいで」「あなたのせいじゃない」。そんなやりとりを母と交わしたことも記憶に残っています。
そんな私が、思春期に出会ったのがこの作品でした。
「あのとき私がもっと早く行動していれば」。一度生まれた後悔は一生拭い切れることはありません。
けれど、この作品が寄り添っていてくれたおかげで、10代の私は自分の歩幅で歩いていくことができたと思っています。

作中で特に好きなシーンがあります。「百加編」で百加とカンナがお互いの感情を爆発させ、言い合いになる場面です。何度読んでもあの一連のシーンは涙があふれてきます。あんなふうに本音を言い合える友人ができたことは、当時のカンナにとってこれ以上ない幸せなことだったのではないでしょうか。
私にもこの作品を語るときに「このシーンが大好きだ」と共有し、共感し合える親友がいます。そんな友人と出会えたことは、今の私にとって幸せの1つです。

ただ、私にはまだ“絶対ひとり”の存在がいません。作中でこの言葉に触れたときから、私にとっての“絶対ひとり”の存在について、ずっと考えを巡らせてきました。
何年後、何十年後かの未来に、禄とカンナのような“絶対ひとり”の誰かに巡り会えることを、私は今もどこかで夢見ているのかもしれません。

(文 / 熊瀬哲子)

■ 末次由紀「ちはやふる」全50巻(講談社)
「ちはやふる」と出会った当時、私は千早たちと同じように部活に全力を注ぐ高校生でした。私が3年生のとき、部活設立以来初めて全国大会に出ることになるのですが、ちょうどその頃、千早たちの瑞沢高校かるた部も全国大会に初出場していて、ゲンを担ぎたいというような思いで「どうか勝ってほしい」と祈りながらマンガを読んだ記憶があります。

一番好きな登場人物は、千早と太一の師匠・原田先生かもしれません。かるたをやってもどうせ新には勝てないから意味がないと言う太一に対しての「“青春ぜんぶ懸けたって強くなれない”? まつげくん 懸けてから言いなさい」というセリフは印象深いです。長年かるたに本気で取り組んできたからこそ、発される言葉に重みを感じます。

2007年から2022年までの15年間、「ちはやふる」には大変楽しませてもらいました。末次先生の次回作を心待ちにしています。

(文 / 西村萌)

■ 稲垣理一郎・村田雄介「アイシールド21」全37巻(集英社)
自宅の本棚にある対象作品の中で、一番古いものはなんだろう……と目についたのが「アイシールド21」でした。「Dr.STONE」「トリリオンゲーム」の稲垣理一郎さんと、「ワンパンマン」の村田雄介さんがタッグを組んで描いたスポーツマンガと言ったら、15年前を知らない人にもそのすごさが伝わるかもしれません。
よく友情・努力・勝利と言われますが、このマンガは決して努力したら勝てるという類の作品ではありませんでした。努力だけではどうにもならない天才がゴロゴロいる世界で、持たざる側の人間は、自分より優れた体格や能力を持つ相手にどう挑むのか? 作中で、アメリカンフットボールの闘いを制するのは“パワー、スピード、作戦(タクティクス)”だと表現されます。ややもすると地味になってしまいそうな、その作戦(タクティクス)の部分の面白さを、巧みなストーリー構成とダイナミックな画面描写で、少年マンガ的ケレン味たっぷりに楽しませてくれるのが「アイシールド21」のすごいところ。「ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ 一生な」というセリフも、そんなテーマを的確に言い表しているように感じる、好きなセリフの1つです。
大人になってからのほうがたくさんマンガを読んでいて、毎月のように素晴らしい作品に触れていますが、こうやって思い出してみると、やはり学生時代に熱中していたマンガは特別かもしれません。

似た理由で、昨年完結した「マテリアル・パズル ~神無き世界の魔法使い~」を挙げるか悩みました。2002年から追いかけていたシリーズの完結は、自分の青春の1つが終わったようで、感慨深い気持ちがあります。同作の連載開始時、土塚理弘さんにインタビューさせていただいた経験は忘れられません。続編の構想があるようなので、また彼らの活躍が見られる日を心待ちにしています。

(文 / 鈴木俊介)

■ 荒木飛呂彦「STEEL BALL RUN」全24巻(集英社)
私が「この15年に完結したマンガ作品」をあげようとすると、どうしても大人になってから読んだ作品に偏ってしまいますが、唯一、子供の頃からずっと読み続けている作品から選ぶことができたのが「STEEL BALL RUN」でした。私が「ジョジョ」シリーズを初めて読んだのは第3部ですが、大人になった今でもシリーズが続いているのは幸せなことだなと思いますし、「ジョジョ」が続いているから私はマンガを読み続けていられるのかもしれないな、と思ったりします。

と言ってもシリーズの中で今回の条件に合ったからという理由で「SBR」を選んだわけではありません。「ジョジョの何部が一番好きか?」という議論に、ファンなら誰もが頭を悩ませた経験があると思いますが、私は迷わず「SBR」をあげてきました。「7部以降読んでない」なんて声をたまに耳にしますが、完全に人生損してますよ、とお伝えしておきます。

何かを好きであることの理由を説明するのはあまり得意ではないのですが、私はマンガに限らず“キャラクター”というものに重きを置くタイプの人間なので、ジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリという2人の主人公が魅力的だったことは大きいと思います。身体的なハンデだけではなく、精神的にも未熟な人間として描かれるジョニィには、これまでの歴代の主人公にはない新鮮さと魅力を感じましたし、そんな問題児ジョニィを支える相棒のジャイロの半端ない包容力……。ジャイロに関しては正直とにかくめちゃくちゃカッコいいに尽きるんですが、個人的にはジョジョの相棒役における最高傑作なんじゃないだろうか?と思っています。アニメ化、楽しみにしてますので……。

悩んだのは高橋ヒロシ先生の「WORST」でした。実際に読んだのは作品が完結した後でしたが、前作の「クローズ」も含めて一気読みしてドハマリ。河内鉄生が事故死したのがあまりにもつらくて、その先が読み続けられずしばらく読むのを放棄する、という私にしては珍しい経験をしました。数ある2次元のキャラクターの死の中でもトップクラスのトラウマで、そういった意味でも非常に印象深い作品です。私が一番マンガを熱心に読んでいたのは学生時代なので、この企画の基準で作品を選ぶのは難しかったのですが、「クローズ」「WORST」は大人になった今だからこそ刺さった作品ではないかと思います。この世にはヤンキーマンガからしか得られない栄養があることを学びました。

(文 / 増田桃子)

■ 小林尽「スクールランブル」全22巻(講談社)
もしも自分のオタク的人生の歩みを変えようと思ったならば、私は「スクールランブル」と出会った2004年10月5日にタイムマシンで向かい、テレビのリモコンを取り上げるだろう。あのときチャンネルを12に合わせたテレビから聴こえてきた「グルグル回るグルグル回る♪」という堀江由衣さんの歌声と、「なぜこのアニメが18時に!?」という衝撃は、私の人生を変えるのに十分だった。

「スクールランブル」は、登場人物たちのまっすぐな「好き」という気持ちに溢れたラブコメディだ。主人公・塚本天満と、もう一人の主人公・播磨拳児の「好き」という思いは、初登場回からはっきりとセリフとして描かれ、その「好き」という思いが空回りするとき、強すぎるとき、それが“コメディ”として読者を笑わせてくれる。しかし、私はそんなキャラクターたちの「好き」なものに全力な姿にカッコよさを覚えた。小林尽先生の繊細なタッチから生まれるキャラクターたちがカッコよく見えれば見えるほど、シュールなギャグや行き過ぎた行動といった“コメディ”部分の面白さは際立ち、普段コメディリリーフ的な役割を担う天満が、ふとしたときに見せる、恋する乙女な表情が魅力的に映り、私の心を何度も射抜いた。

「アニメの先を知りたい」と、表紙の美少女に気恥ずかしさを感じながら、コソコソと購入した1巻。「スクールランブル」との邂逅によって、「好き」なものに全力な人のカッコよさに気づかされてからは、自分の「好き」なものに胸を張れるようになり、親に見られるのもお構いなしに、本棚の一番いいスペースに「スクールランブル」の単行本を置き続けた。そして単行本の先を知りたいと、掲載誌である週刊少年マガジンを手に取り、「魔法先生ネギま!」に出会い、声優のよさを知り、なんやかんやあってコミックナタリーという「好き」を発信できる職場で働けている。いつか私の仕事が、誰かの人生を変えるマンガとの出会いのきっかけになれば、これほどうれしいことはない。

あのとき深夜ではなく夕方から「スクールランブル」が放送されていたから私はここにいる。テレビ東京さんありがとう!

(文 / 粕谷太智)

■ けらえいこ「あたしンち」全21巻(朝日新聞出版)
持病で通院が多かった小学生時代、長い長い待ち時間がつらかったため、病院の隣にある本屋で親に単行本を買ってもらったのが出会いだったと思います。「娘さんが好きだと聞いて」と親の知人がたんまりとくれる読売新聞日曜版から、「あたしンち」のみ切り抜いてノートに貼り、やたらにかさばる“単行本”を作っていたこともありました。そんなに読みたきゃ読売新聞を取りなさいよというご指摘もあるかと思うのですが、実家は朝日新聞を取っており、「ののちゃん」のスクラップもライフワークだったので。待とうよ、新刊。

立花家の面々が特に何か起きるわけでもない毎日を、だいたいは笑ってときに怒ったり落ち込んだりしながら、単行本21巻分にわたって過ごしている様子がただただ愛おしかった。なぜだか、遠くに暮らす親戚家族の様子を定期的に教えてもらっているような気持ちで読んでいました。それだけに、「♪はなはだ、とーとつですが」と訪れた最終回が衝撃で、しばらくロスに陥っていたのですが、私の大好きな家族たちは「あたしンちSUPER」という名前で帰ってきてくれました。泣くほどうれしかったのを覚えています。

読み始めた頃はユズヒコよりもずっと年下でしたが今やすっかりみかんの倍近い年齢になり、おそらくお母さん・お父さんと同年代になっても、きっと読み返していると思います。今は単行本ですべて持っているので。
「水は海に向かって流れる」か「ばらかもん」か……とも悩んだのですが、登場人物の暮らしぶりがよく見える作品を好むようになったのも、「あたしンち」がきっかけかもしれません。

(文 / 佐藤希)

■ 古舘春一「ハイキュー!!」全45巻(集英社)
有名すぎるほど有名な作品で、今回のランキング上位に食い込むことも間違いないのだが、あえて挙げたい。なぜなら「これが沼ってやつか……(眩い光に包まれながら)」と、人生で初めて感じたマンガだからだ。とあることがきっかけで原作の単行本を読み始めたのだが、ページをめくる手が追い付かなかったのをよく覚えている。そこから週刊少年ジャンプ(集英社)を毎週買う日々がスタート。睡眠時間を削ってアニメ「ハイキュー!!」シリーズを追い、劇場版総集編「青葉城西高校戦『ハイキュー!! 才能とセンス』」、「白鳥沢学園高校戦『ハイキュー!! コンセプトの戦い』」は舞台挨拶付きの初日に足を運んだ。さらにはハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」に夢中になり、古舘春一先生の直筆原稿をこの目で拝みたくて、宮城・仙台市で開催された「ハイキュー!! 」の原画展にも日帰りで来訪。アニメ映像と珠玉の楽曲が融合した「ハイキュー!!コンサート」、アニメのオープニング・エンディングアーティストを集めた「ハイキュー!! 頂のLIVE」、アーツ千代田3331の体育館を使った展示イベント、コラボカフェ、同人誌即売会etc。とにかくオタ活が滾って仕方なかった。

なんで沼に堕ちたのか。工夫が凝らされたリアルな描写、影山・日向をはじめとする魅力的でしかない登場キャラクターたち、勝者だけでなく敗者にもスポットを当てた面白すぎるストーリー展開など、見どころを言い出したらキリがないが、何よりも「バレーボールってこんなに面白いスポーツだったのか」と気付かせてくれたのが一番大きい気がする。実際に高校バレーを体感したくて、当時住んでいた地元のバレー部を応援しに行ったのだが、墨田区総合体育館で嗅いだ“生エアーサロンパス”の匂いは、たぶん一生忘れないだろう。そして当時はまだ東京体育館で行われていた、春の高校バレーの観戦。舞台に立って戦う選手、彼・彼女らを応援し見守る観客たち、スタッフ・関係者の方々、その誰もが本当に当事者でプレイヤーだった。きっと「ハイキュー!!」に出会えてなかったら、知り得ない感情だったように思う。完結こそすれこの作品は、自分にとって15年、20年とずっと心に残り続けるバレーマンガであることに違いないのだ。烏養コーチの名セリフ「下を向くんじゃねえええええ!!! バレーは!!! 常に上を向くスポーツだ」 とともに。

(文 / カニミソ)

■ 堀田きいち「君と僕。」全17巻(スクウェア・エニックス)
2022年に完結した「君と僕。」。長らく休載をされていたこともあり、正直完結を見届けるのはもしかしたら難しいのかも……と思っていた作品なだけに、突如令和の時代に連載再開、完結まで描ききりますといった報告がなされたときには本当に心からよろこびました。

同じ高校に通う男子高校生5人の日常がひたすらに描かれていくだけなのですが、そのどれもが愛おしく、得も言われぬ気持ちにさせてくれます。基本はコメディタッチながら、高校生ならではのふざけた空気感、あの時代にしかできない恋愛、ちょっとした特別感を感じる先生との会話。言葉に表すのが難しいような当時の空気感や感情が繊細に描かれ、いつ読み返しても「青春とはこれ!」を感じさせてくれるのです。当時は中学生だった私も、今や一介の社会人。彼らよりもかなり大きく成長した今、改めて読んでも「君と僕。」はまごうことなき私の青春バイブルです。

マンガを好きになったきっかけの作品として「ぴくぴく仙太郎」を挙げるか迷いました。衝撃的な1話から始まる同作ですが、当時小学生の私はその意味を深く考えることもなく、仙太郎やみやちゃんたちのかわいらしさにノックアウトされていた記憶です。ペットを飼うことはただ楽しいだけではなく、向き合うべきこともたくさんあると学べる名作だと思っています。

(文 / 大湊京香)

■ 坂本眞一「イノサン」全9巻(集英社)
私のマンガに対する“常識”をぶち壊し、世界を大きく広げてくれた作品として「イノサン」とその続編「イノサンRougeルージュ」を挙げさせていただきます。きれいな表紙に惹かれて何気なく手に取ったのですが、1コマ1コマの美しさや繊細な描き込みに「マンガってこんなに美しい絵で作ってもいいんだ!」と度肝を抜かれました。多数登場するグロテスクで残酷なシーンの中にも、人間の深いところで輝く命の美しさのようなもの込められているように感じます。演出がとにかく新鮮で、目には見えない音や温度だけでなく、感情や概念を絵で伝える力に感動。実験的とも言える表現には置いていかれそうになりながらも「次はどんな絵が待ち受けているんだろう」とワクワクしながら読んだことを覚えています。

運命に苦悩し、考え方を変えながらも根底には優しさを持つシャルルが好きですし、現代社会にも通じる価値観を持ったシャルルの妹・マリーのどこまでも自由であろうとする生き様には惚れ惚れします。私はサンソン兄妹とは対照的にごく平凡で平和な人生を送ってきたので、この作品で見た生き様を参考にする局面にはそうそう出くわしませんが、いざというときのお守りとして「全ての人間は不完全な存在のまま生きる権利がある」という言葉を大切に心にしまっておこうと思いました。余談ですが、マリーに憧れすぎて髪型のサイドを刈り込もうとしたとき、全力で止めてくれた美容師さんには今でも感謝しています。

(文 / 伊藤舞衣)