2023年10月11日 10:40 弁護士ドットコム
「有給を完全消化することは、下品なんだってさ」。会社を退職する際のやりとりに関するX(旧ツイッター)の投稿が話題となりました。
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投稿には、メールのやりとりのような画像が添付されており、そこには「有給の消化については、貴方の権利です」としつつも、個人的な意見として「私がいうことではありませんが個人的に申し上げると下品です」と書かれています。
退職時の有給消化をめぐる相談は、弁護士ドットコムにも多数寄せられています。
「月給制の正社員で働いて3年半経ちましたが、7月で退職することにしました。退職するにあたり、年次有給休暇の使用を会社から拒否されました」「退職のために有休消化を相談したところ、私も、もう一人も3~4日ぐらいしか上げられないといわれました」「7年半勤務した職場を3月末で退職します。有給消化をしたいと伝えたところ、有給は1年間で使うものだから半分しか消化させられないと言われました」「有給が30日以上も残っているのでそれを消化してから辞めようと思い、支店長に相談したところ、有休消化はさせないの一点張りです」
退職時の有給消化について、日数を制限されたり、最初から消化できないと言われたりする人は多いようです。法的にはどう考えられるのでしょうか。河村健夫弁護士に聞きました。
有給は気兼ねせず、取得できると良いのですが、取得をためらって、退職時にまとめて申請する人も多いでしょう。
有給申請しても認めてもらえない扱いは「違法」の可能性が高いです。
会社(雇用者)は有給について「この日はダメ」として、別の日を指定することも法律上可能ですが(時季変更権と言います)、実際にはほぼ認められません。
時季変更権が認められる場合は「有給をあげると、事業の正常な運営を妨げることになる」場合だけで、「仕事が忙しく、あなたがいないと業務が回らない」程度では認められません。
退職の際は、業務の引継ぎが必要です。なので、引継ぎ作業に必要な日数(職場にもよりますが、1~2日程度でしょう)は、時季変更権を行使され「申し訳ないけど出社してね」ということはありえます。
しかし、「申請日数の半分しか有給をあげない」「3~4日しかあげない」というのは、時季変更権の濫用にあたり、「有休消化はさせない」に至っては明らかに違法でしょう。
問題のツイートでは、「有休消化は下品」という発言があったようですが、問題の根は深いです。有給取得させないと違法となることを知っているからこそ、「下品」という感情論でストップをかけたのではないか、という疑惑が拭えません。
なお、時季変更権が適法とされると、「30日前に退職を伝え、同時に30日間の有休消化を請求した。会社が2日間の時季変更権を行使した。その行使は適法である」という場合、2日間は出社することになります。
そうすると実際には、28日しか有給を使えず、2日間については「有給を捨てる」結果となります。
そのような場合、「捨てるはずだった有給を買取る」という対応をしてくれる会社もあります。しかし、買取りは会社の義務ではありません。したがって、退職時の有給は、引継ぎに必要な日数を含めて、余裕をもって申請することをおすすめします。
【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験22年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所