いまや自社のPR戦略にSNSを使っている企業も多いだろう。だが、炎上にも気を使いつつ、毎日決まった時間に気の利いたコメントを発信するのは大変だ。
関東圏に住む20代の男性が数年前に働いていた職場では当番制で会社のSNSに投稿をしていた。これがかなりの負担だったという。
「当時僕がいた会社ではフェイスブックやインスタグラムの投稿を定期的にすることになっていて、若手社員が当番制でそれぞれ決まった日に投稿していました。しかし、僕も含め当時の若手社員は面倒くさがっており、ただでさえ激務なのにインスタに時間を使いたくはありませんでした」
一体どういう状況だったのか。編集部では詳しく話を聞いた。
「おれたちの負担増やすなやクソが!」と思っていました
企業のSNSの投稿は、本来は広報やマーケティングに当たる部署が担当するものだろう。しかしほとんどの中小企業では、こうして一般社員がまったく別の業務をこなしつつ投稿しているケースが多いのではないか。しかも、男性の勤務先では長時間労働が状態化していた。
「社長は21時までいます(そのせいで若手が帰れない)が、役員クラスの経営陣の方なんて若手社員なんかよりも早くサーッ!と帰ってしまうので、『いやいや、こいつらこそSNS投稿しろや!おれたちの負担増やすなやクソが!』と思っていました」
激務の上にSNSの投稿まで押し付けられ、若手社員たちは辟易していたという。
「そういう状況であっても3日に1回というかなりの頻度でインスタに投稿していかないと社長が怒るんですよね……。でも文章や画像は何もないゼロの状態から自分で用意しないといけなくて、社長の好みじゃないと『センスが無い』だのと文句を言われます。当然ネタ切れにもなりますし、皆仕方なく歯の浮くようなダサい文章を投稿するしかありませんでした」
「例えば、僕が在籍していた時期はコロナ禍だったため、『#コロナに負けるな』といったタグを羅列して意識高い系の投稿をしていましたが、PRになっていたかは不明です。今振り返ると苦笑いしかないです」
単に「投稿すればいい」というわけでもなく高いクオリティまで求められ、サビ残の中でこの作業がどんどん憂鬱になっていった。
「若手社員に丸投げしている以上は今後も効果は見込めないです」
そこまでしてSNSを更新して何らかの効果はあったのだろうか。
「フォロワーはフェイスブックが50人にも満たず、インスタは300ちょっとでいずれも宣伝としては弱すぎる人数です。なので、社長が勝手に気持ち良くなっているという域を超えることができません。SNSを更新する目的も特に共有されていませんでした」
「社長や経営陣が自ら顔と名前を出して投稿するなら、何らかのブランディング効果があると思いますが、若手社員に丸投げしている以上は今後も効果は見込めないです。こんなSNSは不要です」
退職から2年が経った今でも、会社のインスタを見ると苦笑いがこみ上げるという。
「今も若手社員が、激務の中こんな投稿をさせられている……と思うと気の毒でなりません。残業時間にこんなことやらせるのを本気でやめてほしいと思います」
かつての同僚たちを気遣い、会社の姿勢を批判する。
「会社がちゃんと残業代が出してくれたり、定時上がりができたり、飲み会自由参加だったりでもしたら『自分も会社に貢献したい!』と思えるでしょう。そうしたら、自分で描いた絵を載せたり、ちゃんとした投稿もするんですがね……」
確かに、社員を大事にしない会社で「自社のイメージアップを図れ」というのは無理がある。男性は、いまも「僕がいた会社以外にもこんなことをさせられている人って絶対にいると思う」と“SNSの中の人”たちの苦労に思いを馳せていた。
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