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YOASOBIプロデューサーと『文藝』編集長が語らう、エンタメ界のいまと未来。現代における「デビュー」とは?

2023年10月06日 18:10  CINRA.NET

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Text by 生駒奨
Text by 佐藤翔
Text by 白鳥菜都

2023年8月、新たな新人文学賞が生まれた。ソニー・ミュージックエンタテインメント運営でYOASOBIが生まれた物語投稿サイトでもある「monogatary.com」と老舗文芸誌『文藝』による『「文藝」創刊90周年記念企画 鳴り響け、文学! 文藝×monogatary.comコラボ賞』だ。「monogatary.com」が毎年開催するコンテスト「モノコン2023」の賞のひとつとして、この賞が創設された。

選考委員長を作家・金原ひとみが、選考委員を「monogatary.com」やアーティスト・YOASOBIのプロデューサーである屋代陽平と『文藝』編集長の坂上陽子が務め、「言葉と物語で読者の心を動かすことのできる書き手による、新しい小説」を募集する。

本記事では、この新人賞の仕かけ人である屋代と坂上の対談を実施。作品が溢れ、インターネットで自然発生的にクリエイターが生まれる現代、新たに新人賞を創設したのはなぜなのだろうか。優れた作品やクリエイターの共通点とは? そして、この時代に新たなクリエイターを送り出していくときに考えていることとは。プロデューサー、編集者の視点を深堀りした。

─今回の「文藝×monogatary.comコラボ賞」はどんな経緯で設立にいたりましたか?

屋代:ソニー・ミュージックエンタテインメントの小説サイト「monogatary.com」で、毎年「モノコン」というコンテストをやっています。モノコンのなかでは、コラボも含めていろいろな賞を実施しています。

屋代陽平(やしろ ようへい)
2012年、ソニーミュージックグループ入社。2017年に小説投稿サイト「monogatary.com」を立ち上げ、2019年、同サイトの企画の一環でYOASOBIのプロジェクトを発足。以降、YOASOBIのマネジメントに携わりながらイラストレーター・アニメーター藍にいな、ボカロPのツミキとシンガーソングライターのみきまりあによるユニット「NOMELON NOLEMON」を手がけるなど、新人発掘やイラスト、映像などとリンクしたプロジェクトを多く展開している。

屋代:いままで色々なコラボ賞をやってきたなかで、今年は原点回帰して、文芸のど真ん中で勝負したいなと思っていました。ただ、ソニーミュージックは音楽の会社なので、自社だけではできることも限られてくる。なので、僕が個人的にも愛読させていただいている『文藝』の皆さんとコラボできたら、目指していることと僕らならではのオリジナリティをかけ合わせて新しいことができるんじゃないかと思い、お声がけしました。

坂上:最初にご依頼いただいたときはすごくびっくりしました。もともと私がYOASOBIが好きだったのでもちろん「monogatary.com」のことは知っていましたし、『夜に駆ける YOASOBI小説集』(双葉社)がベストセラーになったことは出版界でも話題になっていましたし。『文藝』は季刊誌ということもあり、文芸誌のなかでも異色の存在だと自覚しているので、まさかこんなコラボのお声がけをいただけるとは、と驚きましたしうれしかったです。

坂上陽子(さかのうえ ようこ)
2003年に河出書房新社に入社し書籍編集を担当。2019年から文芸誌『文藝』編集長を務める。担当書籍に『想像ラジオ』(いとうせいこう)、『平家物語 犬王の巻』(古川日出男)、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(花田菜々子)、『大阪』(岸政彦・柴崎友香)、『くもをさがす』(西加奈子)、『幽玄F』(佐藤究)などがある。

坂上:『文藝』は今年90周年を迎える伝統ある文芸誌ですが、伝統がある分、自分たちだけの力で新しい才能と出会うには限界があるんですよね。私は編集長になって以来ずっと、もっといろんな人に小説を読んでほしいし書いてほしいと考えてきたので、これを機に『文藝賞』以外の回路で新しい才能と出会ってみたいなと思いました。

─今回の募集テーマは「邂逅」ですが、このテーマはおふたりで話し合って決められたのですか?

屋代:このテーマは「monogatary.com」側からご提案したものです。モノコン2023の全体テーマを「KAIKO」としていて、文藝さんとのコラボ賞をモノコン2023のメインに据えたいと思っていたので。2022年までは全体のテーマは設けていなかったのですが、今年はあえて掲げてみました。

坂上:『文藝賞』はテーマを設定せずに小説を募集するので、今回のようにテーマがあるのは『文藝』としても新鮮です。今年初めてモノコンで全体テーマを設けたのには何か意図があったんですか?

屋代:「monogatary.com」を5年ちょっと運営して、小説を音楽にしたり、香水にしたりいろいろとやってみた結果、良い意味でとりとめがなくなってきたなと。一度ユーザーさんもスタッフも含め、プラットフォームとしてひとつの旗印のもとに進んでみるのもいいかなと感じたんです。

─コラボレーションによって、それぞれいままでと違った作品に出合うきっかけになりそうですね。ちなみに、普段の「monogatary.com」や『文藝賞』はどんな人から作品が投稿されるのでしょうか?

屋代:「monogatary.com」はコラボ相手によってガラッとユーザーさんの属性は変わります。YOASOBIの原作を募集したときは圧倒的に若年層が増えたり、コーヒーとのコラボでは30代以降の女性が増えたりと、あまりサイトとしての偏りはないですね。なので、今回はどんなふうになるか楽しみです。

坂上:『文藝』はその年ごとに違いますが、応募作には確実にその時代の空気を反映する傾向があって面白いです。ここ数年は「家族」を巡る話が、前から多かったのですがとにかく増えました。また応募者の世代の話をすると、宇佐見りんさん・遠野遥さんのように20代の方が『文藝賞』を受賞したあとには、若い応募者が増えるんですよね。逆に若竹千佐子さんが『芥川賞』を獲ったあとは、ちょっとシニア層の女性が増えました。

直近だと、アフターコロナを見据える時代になってきたからかもしれないですが、30代・40代の投稿が減って、10代・20代と60代以上がボリュームゾーンです。

屋代:ちょうどいろいろなことが変化している時期で、それこそアフターコロナならではの作品も出てくるかもしれないですね。そんななかで「邂逅」って、何かと何かが出会うことだと思いますが、作者のみなさんが何を描かれるのか、楽しみです。

坂上:あらためていいテーマですよね。「邂逅」するときって、出会いもあればすれ違いもあるじゃないですか。何かと何かが関係したときに起きるすれ違いが物語の始まりになったりするので、いいテーマだなと思いました。

ー発表内容やお話から、「文学界やエンタメ界に新風を起こしたい」という想いがおふたりにあるのかな、と感じました。現状、それぞれにお仕事をされているなかで閉塞感や課題感を感じるシーンも多いのでしょうか?

屋代:音楽は見るからにそうですよね。もちろん細かく突き詰めていくと、1個1個のオリジナリティは絶対にあるんですけど、作品そのものというより作品が届けられていくプロセスがすごく均一化してしまっている印象はあります。それは僕らのような届ける側の問題なので、とても耳が痛いんですけど……。

「これはあなたに合ってるよ」とラベルを貼らないと、受け取り手側も自分に合っているものかどうかのジャッジができなくなっているような気もします。あまりにもモノが増えているからですね。モノを届けるうえで、その点はもちろん考えなければいけないことだけれど、クリエイターと一緒につくるときには一旦切り離して考えなければとは思います。

坂上:私も本当に同じ問題意識がありますね。たとえば本の帯でも、「青春小説です」とか「ホラーです」とか何の小説か一言で書いていないと、なかなか買ってもらえなくて。結局みんな均一化してしまうという問題点はあると思います。

坂上:でも、それだけでは伝わらない「間」をどう伝えていくかが大事ですよね。いま生きている作家は、その時代その時代のとても面白いものをつくっているので、ちゃんと私たちがそのスピリットと共鳴したいなって思います。

ー今回のコンテストで「デビュー作」が決まる人もいるかもしれません。クリエイターにとって1作目は重要なものと思いますが、おふたりは「デビュー作」にどんな意識で向き合っていらっしゃいますか?

屋代:音楽のことでお話しすると、「1作目にしかないもの」はやはり間違いなくあると思います。アーティストしかり、作家さんしかり、創作とはいえ、作品には自分の人生・半生が反映されますよね。

多くの人が、デビュー後につくるもの一つひとつにかける時間よりも、1作目にかける時間のほうが長くなります。売れる売れないは別として、1作目のほうが想いの詰まったものにはなりやすい。受け手はアーティストの持つ文脈やストーリーも含めてお金を払うという時代になってきているので、そういった面でも1作目の持つ影響は大きいですよね。

YOASOBIの“夜に駆ける”(2019年)はまさにその最たる例です。デビュー作で代表作にもなったので、それを超えることの難しさはありましたが、いまはまた“アイドル”という曲で自分たちの実績を塗り替えていったので、その先がさらに面白いだろうなとは思います。

坂上:文学や小説の世界では、昔から日本には新人賞がすごく多いと言われていて、インターネットが普及して以降、さらに増え続けているんですよね。それに対して、音楽の世界ではいまどうやって新しい才能を見つけているんですか?

屋代:おそらく小説以上にクリエイターが自由に世の中に発信できるプラットフォームがあると思います。YouTubeやストリーミング配信のアプリなど、個人が自由にできるので、探すのは大変になってきていますね。そうなると、「デビュー」って何なんだろうと考えることはあります。もはや僕らと一緒にやらなくても、売れていくポテンシャルはアーティストにもあるし、プラットフォームの力を借りることもできる時代なので、役割分担が難しいですよね。

坂上:そうなんですよね。出版社やレコード会社がバックにいるのがデビューなのか、それとも、インターネットですごく話題になったのがデビューなのか。作家さんのプロフィールを書くときに悩むことがあります。デビューという概念が変わってきているのかもしれない。ただ、コンテストの賞のように話題になるものがあると世界中に拡散しやすいというのもいまの時代の特徴という気もします。

屋代:確かにそうですね。音楽だとかつてはCDを出すことがデビューだったんですけど、もはやCDを買う人はほとんどいないし売れない。だからCDにはニーズがないはずなんですけど、「だからこそ出したい」という若いアーティストも結構いるんですよね。意味のないものに意味を持たせて世に放ちたいというときに、ひとりではできないから、それがまだデビューという機能として残っているような感覚はあります。

坂上:賞などを通してデビューするとプロデューサーやレコードエンジニア、編集者など、他者が関わってきますよね。いろんな人が関わることで、表現者たちがまた違った回路を見出せるのかもしれないですね。

ー多くの新人を発掘されてきたおふたりですが、これまでに出合った「デビュー作」でとくに印象に残っているものはありますか?

坂上:私は2019年の『文藝賞』でデビューされた宇佐見りんさんと遠野遥さんがやはり印象的でした。たまたま私が編集長になった年で、自分がそれまで以上に『文藝賞』に深くコミットしたから、という面もあるんですけど、久々に受賞者ふたりとも20代で若く、近年の文藝賞受賞者のなかでは珍しかったんですよね。小説の売上はここ最近はなかなか厳しい状態にあるんですけど、このふたりは最初から話題になったし、遠野さんは『破局』(2020年)で、宇佐見さんは『推し、燃ゆ』(2020年)で、と2作目で早々に『芥川賞』を受賞するなど、まだデビューして4年ですが、今後も楽しみなおふたりです。

『文藝賞』は最終候補になった応募作には担当編集がついて、限られた時間のなかで作品の可能性を作家と編集で突き詰めていくのですが、宇佐見さんはその過程がいまでも印象に残っています。ほかの新人作家よりも圧倒的に「手直し」が上手いんですよね。編集側からの指摘を出すと、思っていた以上の改稿が上がってくる。編集者からの提案をそのまま受け入れる作家さんも結構いらっしゃるのですが、そうではなくて、編集者の期待を超えるものを出してくるなという印象があります。

宇佐見りんのデビュー作で第56回『文藝賞』受賞作『かか』(2019年)

屋代:直しの話でいうと、YOASOBIのAyaseもやっぱり上手ですね。

坂上:ああ、やっぱりそうですか。面白いですね。

屋代:「小説を音楽に」というベースがあるが故に、僕たちは楽曲制作以外のロジックでディレクションをすることがあるんです。そのときに、Ayaseは確固たるつくりたいもの、この曲においてチャレンジしたいことがあるうえで、僕たちの提案がうまくハマる場所を見つけて落とし込んだリテイクを出してくる。この能力は、多分同じですよね。

坂上:同じですね。私がいつも若い作家に言うのは「私の意見を鵜呑みにしないでください」ということなのですが、同時に思うのは、取り入れるにしろそうでないにしろ、編集の意見にいちど耳を傾けたうえで、さらに自分自身の価値観で作品を練り上げる作家さんは伸びるなと感じます。その作家だからこそ、のオリジナリティを私たちは感じたいので。

屋代:クリエイターさんは誰でも自分の作品に死ぬほど向き合ってやってきていて、それを僕らが完全に理解することは結局無理なんですよね。ただ、読み手や聞き手の視点で見てキャッチボールしていくことで、思った以上のものができることはあります。デビュー作とそれ以降の違いは、もしかしたらそういうところかもしれないですね。

ーこの賞をきっかけに小説の執筆に挑戦する人もいるかもしれません。初めて小説を書くときの心構えを教えてください。

坂上:選考委員長の金原ひとみさんも「大体1~2万字なら何でもいいよ! 短編書けたら送ってみて!」とコメントされていますが、本当に何でもいいんですよ。「これぞ私の作品だ」と言えるものであれば、それが一番いいと思います。「『文藝』=純文学」というイメージがあるかもしれないですが、「純文学」だからこそとても自由で、言ってみれば面白ければ何でもいいんですよね。ルールはなしの無差別級。

だから、書籍化に当たっても昔ながらの「純文学でござい」みたいな本をつくる気はありません(笑)。いまの時代だからこそのデビュー、その空気感を取り入れて、作品にあわせたポップな仕上がりにしたいと思ってます。むしろ、YOASOBIや「monogatary.com」全体に携わってきた屋代さんがどんな作品を面白いと思うのか気になります。

屋代:音楽のライブを体験するときの「生感」みたいなものを、小説を読みながら体験できたらいいなと漠然と思っていました。それが「鳴り響け、文学!」というキャッチコピーにもなってるんですけど。ステージでライブを見る体験と、小説を読むのって対極的なようでいて、言葉のパワーに心打たれるという点では似ていると思います。

そのなかでも、僕はライブが始まった瞬間が一番泣けるんですよね。構成がうまいとか、MCが良いとか曲が良いとかいろいろあるんですけど、やっぱり1発目の音が鳴った瞬間のインパクトは大きくて。

小説も1行目で「これ読みきれそうだな」「面白そうだな」と思うことがある気がするんですよね。なのでそういう作品に出会えたらいいなと思っています。とはいえ、1行目だけに気を遣えば良い、という意味ではないです(笑)。

坂上:あ、でも、1行目は気を遣ったほうがいいですよ。今回は短編なので、とくにです。書き出しで作品の世界観をどう立ち上げるかは大事です。6日に発売された『文藝』冬季号では「短篇を書く技術」と称して、第一線の作家の方々に「技術」について語っていただいているので、ぜひお読みいただきたいです。

編集者としても、1行目は1番見るところです。ライブと同じように全体の構成、ストーリーテリング、文体とか色々なポイントがありますが、1行目に何を書くかは、結構重要だと思います。

あと、心構えとしてもうひとつ挙げるのであれば、たくさん読むことも大事だと思います。デビューした方にもお伝えするのですが、書くためにはちゃんとしたインプットが必要です。多読という意味だけでなく、同じ本を何度も読むのでもいいし、小説に限らず詩やラップでもいいですが、さまざまな言語芸術に触れることを続けるのは、小説の上達の近道です。

ーここまで商業的にデビューすることの意義や、そのうえで良い作品づくりとは、といったことをお聞きしてきましたが、すこし間口を広げた質問をさせてください。さまざまなコンテンツがあふれる現代において文学が持つ役割は何だと思いますか?

坂上:東日本大震災以降、「文学には何ができるか」みたいな問いはよく出てきたのですが、個人的には違和感を持っています。言ってしまえば、文学には基本的に、何もできないんですよね。

屋代:音楽の文脈でもまったく同じことを言っていたし、言われていたのでよくわかります。

坂上:生きるために摂取する水や食べものがあるけれど、音楽や文学はそれとは違いますよね。何もできないし役に立たない。でも、ただそこにあることの愛おしさや優しさが文学や音楽の役割かなと思います。西加奈子さんの『くもをさがす』(2023年)という本でも、西さんが「芸術が自分を助けてくれた」ということを繰り返しおっしゃっていて。そういうことは、作家であろうとなかろうと、多くの人が感じることだと思います。

ーデビュー後に作家として軌道に乗るのは難しく、兼業を続ける人や創作を辞めてしまう人もいます。賞を開催することは作家の人生を預かるという大きな責任も伴うと思いますが、それに対する決意を聞かせてください。

屋代:ソニーミュージックとしては、われわれがいままで培ってきた、アーティストを発掘して育てていくノウハウを、今回ご一緒する小説家さんと向き合うにあたっても大事にしたいなと思っています。音楽のアーティストはレコード会社や事務所と専属契約を結ぶことが通例なんですね。なので作品だけではなく、人間ベースのおつき合いをして、一緒に作品やキャリアをつくっていきます。

小説についてはもちろん河出書房新社さんがプロなのでお任せするとして、この時代で作家さんとしてやっていくことは大変な時代だとは思うので、僕たちは別の角度から作家さんが長く活躍していくことのお手伝いができればいいなと思っています。

坂上:確かに日本では、漫画家さん以外だと、出版社と作家のあいだで専属契約を結ぶことはあまりないですね。いろんな編集者と出会うことがいい場合もあれば、ひとりの編集者とやったほうがいいこともあるのでそこは良し悪しあります。

でも、屋代さんがおっしゃる通り、人間ベースでおつき合いしていくことは大事だなと思います。コンスタントに調子が良いアーティストなんてほぼいないです。調子が悪いときや時代のトレンドに合わなくなるときも現実的にあります。やっぱりつくり続けてほしいっていうのが1番の願いなので、そういった苦しいときに創作の現場に近い人間として、どう支えてあげられるかは大切な観点だと思います。

ーモノコンでは映像や音楽などさまざまなかたちで、小説の可能性を広げてこられました。今回のコラボ賞で発掘された作品はどのように広げていきたいですか?

屋代:先ほど音楽のライブみたいな小説という例えをしましたが、これまで小説にあまり親しみがなかった人にもこの賞から生まれる作家さんや作品が届くといいなと思っています。

そのためには、小説以外の入口をたくさんつくってあげることも大事です。ただ、映像や映画、音楽などとのメディアミックスをするとしても、せっかく河出書房新社さんと組むのであれば、小説としてのヒット作をあの手この手を使ってつくりたいなと思います。そのためのメディアミックスであり、このコンテストであるということは大事にしたいです。

坂上:そうですね。私は、言語芸術って本当はもっとすごく広がりがあるはずだと思っています。ほとんどの人が読み書きをしているので、ただ紙に固定された言葉以上に、作家さんの活動の幅がもっとあるのではないかと思っているんですね。

たとえば戦前・戦後の作家たちはもっと社会的な発言力が強くて、何かあると新聞社が作家に話を聞きに行っていたんですよね。それは、いまの時代に投げかけるべき「言葉」をちゃんと持っていたからではないかと思います。そう思うと、出版界が本や小説というパッケージを売ることに固執して言葉の可能性を狭めてしまっている面もあるのかもしれません。今回のコラボによって、そういった枠を壊して、新しい地平が見えてきたらいいなと期待しています。