トップへ

ネット競馬のために横領、気がつけば「6億2000万円」に 50代部長が懺悔、その一歩を踏み出した時

2023年10月02日 10:10  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

2023年8月、大阪地裁は業務上横領罪に問われた50代の被告人男性に対して、懲役8年(求刑10年)の実刑判決を下した。その犯行内容は、4年6カ月にもわたり総額6億2千万円もの会社資金を横領したという規模の大変大きなものであった。


【関連記事:「16歳の私が、性欲の対象にされるなんて」 高校時代の性被害、断れなかった理由】



多額の被害、かつ長期にわたった犯行から、横領金の使途とその犯行手口に関心が向けられたが、全3回の公判で明かされた内容はあまりに短絡的なものであった。(裁判ライター:普通)



●社内の立場を悪用した80回を超える横領行為

起訴状によれば、被告人は企画管理部長として勤務先の経理や財務担当に従事していた。被告人はその職権を悪用し、会社代表者の名前を用いて、合計82回にわたり会社の小切手を持ち出し、総額6億2千万円もの金額を自己の用途に用いた。



外見や公判での態度などからとても大人しい印象を受けた被告人であったが、罪状認否において、起訴事実を全面的に認めた。



●発覚時にはすでに手遅れに

検察側の証拠によれば、被告人は1986年に入社し、企画管理部長となったのは事件の直前である2018年であった。従来、小切手の現金払出には社長の押印が必要だったが、印鑑の管理は部長職が行っており、また緊急時は社長押印が不要という運用がなされていた。



2022年のある日、不審な小切手取引がなされていることが社内で発覚した。被告人は「グループファイナンスに使っている」と説明したが、不足していた額は8億円にも上ったことなどから被害届が出された。



被告人の供述調書によると、犯行のきっかけは従業員の退職金を用意するにあたり、小切手を現金化できたことからであった。最初は1度に1千万円を引き出すなどしていたが、怪しまれないために複数の銀行で数百万円ずつ引き出すなどの工作も行っていた。



主な使途先は競馬であった。「2020年は1億4千万円の横領の内、1億2千万円はネットでの馬券購入で、残りは競馬場での馬券購入と生活費など」などと各年ごとに使途を供述した内容などの証拠の量は膨大であった。取調当初は弁解していたこともあったが、その後は積極的に応じる姿勢も見せたという。



弁護人からの請求証拠では、今後も取調べ等に協力する姿勢を記載した上申書が採用された。また、勤務先の親会社の単年で数千億にも上る営業利益を計上している決算書も採用された。



●止められなかった1回目と犯行途中、それぞれの重み

弁護人からの被告人質問でも事件内容を全面的に認め、反省の言葉を口にした。被告人自身でも、膨大な量の検察官請求証拠の全てに目を通し、誤りはないと供述した。



弁護人「きっかけは退職金の支払いに現金送金だと振込手数料がかかるので、小切手を振り出したということで間違いないですか?」 被告人「はい。振込手数料がかかる場合の方法がわからなくて」弁護人「振込手数料は経費にならないのですか?」 被告人「役職についたばかりの初めての手続きだったので思いつきませんでした」弁護人「周囲の人に相談できなかったのですか?」 被告人「立場的に相談するとしたら社長でしたけど、当時はできませんでした」



小切手の振り出しが容易であったことなどから、その後は横領目的で振り出しを行うようになる。競馬で費消したのは、当たった儲けを自己の小遣いに回すつもりであったという。



弁護人「これまで競馬をやってきていて、平均して儲けが出ていたのですか?」 被告人「いいえ」弁護人「それでも、使った以上に増えると思ったのですか?」 被告人「一時的に増えたこともあったので、そうなればと」弁護人「その後、振り出し続けてしまったのは?」 被告人「横領分がマイナスになっていたので、それを取り戻そうと」



回数や規模の程度はあるにせよ、ずるずると解決を引き伸ばすことにより、事態が収拾つかなくなった様子が伝わる。



検察官「最初、1,000万円を使うときはどんな気持ちだったのですか」 被告人「儲けて、小遣いを増やそうという気持ちでした」検察官「取り戻せなかったら、と不安にはならなかったのですか」 被告人「そのときは、儲けようとしか考えていませんでした」



逮捕時の預金は240万円ほどであった。逮捕後、即座に預金全額を納めたが、他に資産もなく横領額が補填される見込みは全く立たない。起訴されている事実では横領額は6億2千万円。被告人自身の意識として、8億円を返済の必要額として考えているようだが、具体的な方法は「弁護士と相談しながら考える」と供述するに留まった。



●減刑に採用した被告人の反省の態度ともう一つの理由

最終陳述において被告人は、歴代社長、OB、従業員など会社の多くの立場を挙げ、自身の身勝手さから、関係するすべての人に多大な迷惑をかけたことを深く詫びた。



判決では、起訴されている内容をそのまま認定し、被害額の甚大さ、犯行期間が長期間に渡る常習的な態様、動機に酌むべき点もないと、8年と長期の懲役刑を下した理由を説明した。



一方で、捜査に協力的であるなど反省の態度と、被害会社の管理が必ずしも十分でなく、被害の拡大を止められなかった点も減刑の理由として言及した。