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「今年の夏ドラマは豊作だらけ」がっかりドラマをバッサリ斬るライターが選んだ『VIVANT』ではない作品

2023年09月30日 15:10  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

左から前田敦子、中村倫也、堺雅人

 灼熱の7月に始まった夏ドラマも彼岸を過ぎ、すべてが最終回を迎えた。果たして、その出来栄えのほどは?

「例年、夏ドラマは不作という印象がありました。各局、春と秋は力を入れるのに夏は……。そんな感じだったのに、今年の夏ドラマは“どうした!?”というくらい豊作だらけでしたね」

 と語るのは、ドラマに精通するライターの田幸和歌子さん。『週刊女性PRIME』では毎クールの“がっかりドラマ”企画がおなじみになりつつあり、過去には田幸さんにばっさり斬ってもらったこともある。しかし今クールは“よかった”“面白かった”が多数。そんな拍手喝采ドラマを見ていこう。

拍手喝采の筆頭夏ドラマ

 田幸さんが筆頭に挙げたのは『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系/TVerお気に入り数38.8万人)と『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系/TVerお気に入り数87万人)。

「両作とも放送が木曜夜でミステリー要素が強く、続きが気になってたまらない作品。できれば曜日をバラしてほしいくらい、木曜夜は楽しみで忙しかったですね(笑)」(田幸さん、以下同)

 『彼女たちの犯罪』は3人の女性(前田敦子、深川麻衣、石井杏奈)による偽装自殺の真実が、次第に明るみになっていく。

完成度で言ったら今期ナンバーワン! 登場人物は少なく、場面も限られた中で作っているにも関わらず、隙がなく、運びも上手く、完璧な出来でした。何の接点もないように見えた3人の日常が絡み合い、それぞれの意外な面が次々と見えてくるところも面白かったです。

 偽装自殺というとんでもないことに手を染めた3人ですが、それぞれが抱えていた思いは、ただ普通に幸せに暮らしたかっただけ。その切実さも応援したくなってしまいましたね。のちのち“あの違和感はこういうことだったんだ”と結びついていく快感もありました。脚本の良さ、カメラワークを含めた見せ方の上手さ、役者。すべてが噛み合っていました」

 視聴率は明かされておらず、TVerのお気に入り数は38.8万人。数字的には大ヒットとはいえない気もするが、

「前田さん、深川さん、石井さん。3人ともガールズグループ出身で“アイドル女優のドラマ”と最初から敬遠してしまった人もいたんだと思います。もったいないですね。初回を見たときには“前田あっちゃんのドラマになりそう”と思ったくらい、抑圧された生々しい演技が光っていて。その後深川さん、石井さんの熱演もとてもよく、役者さんがそれぞれ際立っていた。クズ夫役の毎熊克哉さんもすごくよかったです(笑)」

『ハヤブサ消防団』はスレスレまでしっかりと描いた

 『ハヤブサ消防団』は中村倫也演じる作家が、岐阜の山間集落“ハヤブサ地区”に移住。放火が疑われる火災が続く中、地元の消防団に加わる。

「よくできている作品なんですが、部分的に笑っちゃうところもあって。蛍や火事のシーンのCGのずっこけ感とか(笑)。消防団のおじさんたちの面白さや可愛さはすごくよかったですね。わざとイチャイチャして、女性視聴者にキャーキャー言われるためのあざとさではなく。それぞれの距離感や立ち位置、日常が見えていたのがすごくよかったです」

 そのメンバーは生瀬勝久、 橋本じゅん、梶原善、 岡部たかし、そして満島真之介。

「ここまで濃くて、上手い人を集めると全員が怪しくて(笑)。途中までは誰が犯人でもおかしくないように見えていましたね。そもそも『ハヤブサ消防団』というタイトルから、宗教に発展する物語になっていくとは想像できなかった人が大勢いたと思います。

 池井戸潤さんの原作の内容は知っていたので “どこまで描くんだろう?”と思っていましたが、スレスレのところまでしっかりと描かれていました。“よくここまでやったな”と思います。ヒロインの川口春奈さんの使い方も上手かったし、主人公(中村倫也)はふにゃふにゃした頼りなさそうな感じに見えていたのに、鋭さがあったり、意外と大胆で芯が強そうな感じがあったり。ミステリー部分と日常のわちゃわちゃ、そこをうまく繋いでいたところもやっぱり中村倫也さんの上手さだなと思いました」

話題作『VIVANT』はテレビドラマの希望

 今期の良作はまだまだ止まらない。お次は今期いちばんの話題作だった『VIVANT』(TBS系/TVerお気に入り数183.6万人)。最終回の視聴率は19.6%。

「なんだかんだ面白かったですよね。ああいう作品が放送されることは、テレビドラマの希望だと思いました。今のドラマってリアリティをすごく重要視して、物語のスケールは小さいものが多い。

 日常や仕事などのリアリティを丁寧に描くドラマが全体的に増えた中で『VIVANT』の世界はあまりに遠く、身近さはまったくなく、出てくる言葉も知らないものばかり。遠い世界の大スケールの物語を、あれだけのお金と手間をかけて見せてくれるワクワク感。地上波のドラマでこんな作品が見られるというお得感を含めて、必見作品だったと思います

 ドラマはリアルタイムでの視聴にこだわらず、録画や『TVer』などでの配信で倍速で見ればいい。そう考える人も増えた昨今だが、『VIVANT』にはみんなで共有する面白さもあった。

「考察系ドラマと言われていますが、SNSでは“よくそんなところまで見ているな”と感心する人から、“服の色が違うからって、それは考察と言えるの?”と笑っちゃう人まで。作り手がかなり計算していて、視聴者が翻弄されて、騒いでいましたよね。次第に登場人物のイラストやパロディなどがSNSには上げられ、みんなが遊ぶように。朝ドラ以外の連ドラでは滅多に見ない現象です」

 キャラクターやシチュエーション、セリフ、用語などが作品を離れてひとり歩きする。これは社会現象になるドラマのひとつの法則だと田幸さん。

「『半沢直樹』('13年、'20年)以来じゃないですか? 堺雅人さんを主演とした福澤(克雄)ドラマの上手さですよね。終わってみて“結局、何だったのかよくわからない”と思ったとしても、連ドラってそれでいいと思うんです。別に伏線のすべてを回収しなくても。みんながドラマを批評家みたいな目で見るようになって、整合性と緻密さばかりを優先していったら息が詰まる。先ほど『彼女たちの犯罪』の隙のなさを推しましたけど、いろんなドラマがあっていい。『VIVANT』は誰が見ても面白いドラマだったと思います」

図星すぎる男性の勘違いを描いたドラマ

 『VIVANT』は男性ウケするドラマだった印象もあるが、逆に女性に響いたのは『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系/TVerお気に入り数65.2万人)。

「序盤は主人公(赤楚衛二)による“男性の勘違い”を描いていて。女性から見ると“いるいるこういう人”“わかる”の嵐。SNSを見るとあまりに図星で、痛いところを突かれすぎるのがしんどくて、視聴をやめてしまった男性もいらっしゃったみたいです(笑)。でも“男性こそ見てよ!”という内容でしたね」

 1話の中での前半が男性主人公目線、後半は女性側の“答え合わせ”のような構成も面白かったという。

「男性による思い込みの男らしさ、やさしさ……いろんなものが指摘される痛快さがありました。でも赤楚さんが演じられているので、主人公はちょっとダメな可愛い人になっているのが絶妙でした。そんな人物が何かをきっかけに劇的に変わるのではなく、“これってダメなんだ”“これはどうしたらいいんだろう?”とひとつひとつ、トライ&エラーで学んでいく姿は美しかったし、好感が持てました」

 結婚に対する考え方もゆっくり変わっていき、居心地のよさが着地点となっていたところも田幸さんは高評価。

「よかれと思っていたことが、実はひとりよがりだった。実は恋愛だけじゃなくて、人間関係において必要な対話が描かれているドラマだったと思います。飲み友達(波瑠)や元カノ(生田絵梨花)、妹(藤原さくら)など登場人物がそれぞれ、すごくよく物を考える人たちだったところも好感が持てました」

きれいごとを言わない本気度

 水曜の夜、『こっち向いてよ向井くん』の真裏で放送されていた『ばらかもん』(フジテレビ系/TVerお気に入り数52.6万人)も良作だったという。

「原作マンガに比べるとちょっと笑いの要素は少なかったんですが、“漫画だからできること”を実写化でやろうとするとちょっと無理がある。そんなふうに笑いを取りにいって滑ったりせず、すごくおおらかな成長物語として描いていました。主人公を演じた杉野遥亮さんは“半田先生、そのまんま生きてる!”という感じで。ちょっと子どもっぽさもあるまっすぐなキャラクターのハマり具合、よかったです。子どもたちとのやり取りや、島のじいちゃん・ばあちゃんもそれぞれ魅力的で。小手先のテクニックに走らない、ど真ん中を行く感じの成長物語。そんな王道ドラマは、やっぱりひとつはあって欲しいと思いますね」

 同じくひとつはあってほしい学園ドラマとして『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系/TVerお気に入り数120.8万人)も今クール注目を浴びた。

「松岡茉優さんと芦田愛菜ちゃんという間違いのないキャスト。第1話でいじめにあっていた鵜久森さん(芦田)の長ゼリフと熱演を惜しみなく見せてくれて。あれは視聴者はもちろん、おそらく共演者たちも騒然としたんじゃないでしょうか?」

 さすが芦田愛菜プロ。そんな声がSNSにはあふれかえった。

「生徒たちも約500人のオーディションから選ばれただけあって、上手な子がすごく多かったですね。構成そのものはシンプルで、教室での長ゼリフというワンパターン展開だったかもしれませんが、何より若い人に伝えようとするメッセージ性がすごく強かった」

 それを説教臭いと感じる人もいたかもしれないが、

「やられた側の痛みはそう簡単に癒えるものじゃない。それをしっかり突きつけた。許せないことは、許せないでいい。クラスメイトがみんな友達なわけじゃない。きれいごとを言わず、その痛みを知る人の側にちゃんと寄り添って、代弁し、伝えようとした。その本気度がすごく伝わってくるドラマだったと思います」

 田幸さんは今回の夏ドラマをいろんな色合いと味が楽しめたと総括する。

「刑事ドラマばかり、医療ドラマばかり……過去にはそんな時期もありましたから。今夏は同じような作品が集中することなく、クオリティの高さに唸ったり、壮大なスケールにびっくりさせられたり。考察、王道、大らかな癒し……すごくお得感がありましたね。そして、それぞれ視聴者が楽しめたと思います。『VIVANT』を筆頭に、久しぶりにドラマが復活してきたように感じます」

 これから10月期の秋ドラマが続々とスタートしていく。またぜひ、たくさんのドラマに喝采をお送りさせてください!

※TVerのお気に入り数は9月29日現在