2023年09月30日 10:11 弁護士ドットコム
街で見かけた芸能人や有名人を、こっそりスマホで撮影する行為に法的問題はあるのでしょうか。
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こうした無断撮影に抗議する芸能人もいます。お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司さんは今年8月、新幹線の運転見合わせで新大阪駅にいる際に「たまになんかコソッと写真撮られてます」「新幹線さんも頑張ってるので耐えましょう」などとX(旧ツイッター)に投稿していました。
モバイル社会研究所の調査では、電車やバスなどの公衆空間で、他人が場所や状況を気にせず写真や動画を撮影する行為について6割が「気になる」と回答しています。有名人に限らず無断で撮影されることについての意識が高まっていますが、法的にはどう考えられるのでしょうか。最所義一弁護士に聞きました。
——街で見かけた芸能人や有名人を、こっそりスマホで撮影する行為は、何らかの法的問題がありますか。
芸能人であろうが有名人であろうが、誰もが、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有しています。
この撮影されない自由は、一般的には肖像権と呼ばれていますが、「こっそりスマホで撮影する」行為は、まさにこの肖像権を侵害する行為にあたりえます。
そして、肖像権を侵害する行為は、民事上の損害賠償の対象となります。
明らかに番組の撮影などで、芸能人が周囲の人たちに手を振っているような場面であれば、撮影されることについても一定程度は認めていると考えることはできると思います。
しかし、単に移動中であるとか、打ち合わせ中であるとか、さらには、家族を連れているなど、明らかにプライベートな状況を撮影することは、肖像権侵害にあたるでしょう。
また、各都道府県には、迷惑防止条例が存在しています。
たとえば、東京都の迷惑防止条例を例にとると、プライベートスペースや公共の場所で、「通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置する」行為は、 「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が課せられています。
そのため、電車内にいる芸能人の胸であるとか脚の部分をことさらに撮影しようとしたような場合には、条例違反として刑罰が課される可能性があります。
芸能人も同じ人間です。特に、プライベートな状況では、一般の人と何ら異なりません。自分がやられて嫌なことは、当然、芸能人の人も同じです。当たり前のことですが、自分が同じ立場に置かれた場合、嫌だと思うことはやってはいけません。
——中には無断でこっそり撮影した有名人の写真をSNSにアップする人もいますが、この場合はどうでしょうか。
無断でSNSに上げる場合には、別途プライバシー権侵害が問題となります。これは、どこで誰と会っていたのかというような情報も、私生活上の事実に関する情報にあたりうるためです。それをみだりに公表した場合には、プライバシー権侵害として、損害賠償の対象となります。
そのほかに、芸能人の場合には、パブリシティ権についても問題となります。これは、芸能人の肖像を商品等に用いることで、その商品に他の商品とは異なった価値(顧客誘引力)を付与することができるという点において、芸能人の肖像等に一般人とは異なった価値を付与するものです。
アフィリエイトを稼ぐ目的で、芸能人を撮影した写真を自らのSNSに上げるような場合には、パブリシティ権侵害も問題となります。仮にパブリシティ権侵害が認められた場合には、通常の慰謝料と比較して、損害賠償額も高額となります。
【取材協力弁護士】
最所 義一(さいしょ・よしかず)弁護士
東京大学農学部農業工学科(現生物・環境工学専攻)を卒業後、IT技術者や病院事務職(事務長)を経て、弁護士に。一般企業法務や知的財産問題のほか、インターネット関連のトラブルの解決に精力的に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人港国際法律事務所湘南平塚事務所
事務所URL:http://minatokokusai.jp/office/hiratsuka/