2023年09月29日 15:51 弁護士ドットコム
和歌山県太地町の鯨類取引をめぐり、環境保護NGO「Life Investigation Agency(LIA)」の代表ヤブキレン氏が町に対して公文書の開示を求めていた訴訟で、和歌山地裁(高橋綾子裁判長)は9月29日、非開示とした町の対応を違法と判断した。
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ヤブキ氏は、かねてから町で行われているイルカ追い込み漁に反対。町立くじらの博物館は鯨類の生態に関する学習や研究目的ではなく、生体販売取引によって利益を得ている上、鯨類を不適切な状態で飼育している可能性があると考え、情報公開を求めていた。
太地町民として、2021年9月に15年分の飼育数や販売取引に関する文書を条例に基づき開示請求したが、ほぼ黒塗りだったため、2022年4月に提訴した。
和歌山市で開いた記者会見で、代理人の吉田京子弁護士は「7種類の請求いずれも認められた完全勝訴」と説明。ヤブキ氏は「よく黒塗りを海苔弁といいますが、真っ黒黒。透明性がなく、納税者として憤りを感じる。町は厳粛に受け止めて全て開示してほしい」と訴えた。
太地町は「判決文が届いていないため、控訴については今後、弁護士と協議して検討する」としている。
吉田弁護士によると、開示を求めていたのは以下の文書。
1.太地町による「いさな組合」からの鯨類の購入にかかる請求書2.収入金通知票3.鯨類に関するCITE(ワシントン条約を意味する)と輸出関係資料(申請、承認など)4.鯨類の販売に関する契約書5.博物館における生物の飼育動物一覧表6.博物館における生物の死体処理にかかる請求書7.博物館における生物の飼育検査記録
これまでの弁論で、被告側は請求された文書は個人情報や営業秘密であり、開示対象の例外だと主張。「販売価格などは重要なノウハウで、開示されてインターネットで世界に拡散すれば、ビジネスとして不当な利益を得ているなどと吹聴され、名誉を侵害される」などと説明していた。
これに対し、和歌山地裁は鯨類の捕獲、飼育に反対する団体の活動として売買の状況を明らかにする目的でされたとしても、「このこと自体は『町民の知る権利を尊重』『町政に対する理解と信頼を深め、より一層公正で開かれた町政の実現に寄与する』条例の目的に整合する」と判断した。
LIAは毎年9月~翌2月のイルカ追い込み漁期には、朝から漁の様子を注視し、ネット配信などをしている。
2018年9月には台風が迫る中、博物館が生け簀の中にイルカを入れたままにしたため4頭が死亡したなどとして、動物愛護法違反の容疑で当時の館長を刑事告発。2019年3月に和歌山地検に書類送検された。
こうした背景もあり、町側は書面でも強い口調で同団体を批判。2009年にイルカ漁を批判する映画「ザ・コーヴ」が話題になってから、「町が鯨類等を虐待する町のレッテルを貼られ、反捕鯨団体の攻撃目標になっている」などと書いていた。
(2023年9月29日午後4時56分、追記しました)