営業職は自社の商品やサービスの良さを売り込む仕事だが、ネットの普及で価格の比較が容易になった現在、そもそも売り込むこと自体が難しくなっているようだ。
引越し業者の営業職として働いていた30代前半の男性(山梨県/技能工・設備・交通・運輸/年収500万円)も、そんな苦しい立場に立たされた一人だ。会社からは
「料金が高いから売れないのではなく、お前たちに魅力がないから売れないんだ」
と詰められたという。(文:長田コウ)
「うちで引越しを行うことがお客様にとっての1番の幸せである」
男性の仕事は「引越ししたいお客様からの連絡を受けて自宅に訪問し、運び出す荷物量を確認して料金を算出する」というものだった。つまり引越しの見積書を作る仕事だ。
働いていた引越し業者は、「業界ではかなりの大手で、売り上げも右肩上がり」だったという。しかし、それが故に……。
「上の人が自分達に絶対の自信を持っており『うちで引越しを行うことがお客様にとっての1番の幸せである』と研修中によく言っていました」
だが自信過剰な言葉とは裏腹に、現実は厳しかった。
「引越しをする人というのは基本的に何社も見積もりを取って安い所に決めてしまいます。比較的高額料金である私の勤めていた会社は、他社に料金で負けてしまい仕事を取れないということがよくありました」
いくらサービスに自信があっても、金額だけで比較されればひとたまりもなかった。実際に、男性の周りの営業マン全員が、「インターネットで何社も一括見積もりができるようになり、聞いたことのない激安業者と相見積もりになり、料金で負ける」ことに悩んでいたという。
「前から順番に契約率が低い社員から席に着かされました」
そんな現状に目を向けようともせず、契約が取れないことを許さないのは「絶対の自信を持っている上の人たち」だった。そのため「訪問件数に対しての契約件数で契約率」がはじき出され、契約率が低い社員は「強制的に研修」に出なければならなかった。研修に一度参加したという男性は、
「研修会場に着くとまず前から順番に契約率が低い社員から席に着かされました」
と、いきなり成績を晒される屈辱を振り返る。その後、講師から言われた理不尽な言葉をこう綴った。
「お前たちは情けない、なぜ売れないのか」
「やる気がないならすぐにやめてもらっていい」
「料金が高いから売れないのではなく、お前たちに魅力がないから売れないんだ、売れる商品しか渡していないのになぜ契約を取れないかよく考えろ」
ネット上で激安見積りに負ける現状は、完全に無視していたようだ。そのうえ、研修の内容は「営業マンとしての姿勢やテクニック」とは程遠い、驚くべきものだったという。
【後編に続く】
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