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専門誌が相次いで休刊、インタビュー激減  濃密な記事の受け皿はどこになる?

2023年09月25日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

photo/Jonas Leupe(Unsplash)
専門誌の醍醐味は濃密なインタビュー記事

  近年、専門誌の休刊が相次いでいる。2022年は専門誌の休刊のオンパレードとなった。代表的なものをあげるだけでも、3月には歌舞伎専門誌の「演劇界」が、7月には柔道専門誌の「近代柔道」とボクシング専門誌の「ボクシングマガジン」が、12月には美少女ゲームの専門誌の「電撃G's magazine」が休刊している。


  そして、今年は7月5日発売のSummer号をもって音楽雑誌の「Player」の休刊が決まった。「Player」は記者が高校時代に熱中していた音楽雑誌である。こうした専門誌の名物といえば、他では読めない濃密なインタビューであった。「Player」では記者が大好きなギタリストのアンガス・ヤングやゲイリー・ムーアなどのインタビュー記事が掲載され、熟読したものだった。


  また、「BANDやろうぜ」にはX JAPANなどのビジュアル系バンドのインタビューが掲載され、そちらにも記者は熱狂していた。しかし、「BANDやろうぜ」はとっくの昔に休刊になった。「Player」も休刊になるとなれば、ミュージシャンのインタビューが読める場がまた一つ、なくなってしまうのだ。


専門誌がなくなると発生する様々な問題

  こうした傾向が顕著なのは、専門誌がことごとく休刊になった美少女ゲームの業界である。記者は昨年、美少女ゲーム屈指の名作『さよならを教えて ~comment te dire adieu~』の作者、長岡建蔵のインタビューを行った。1990年~2000年代は数多くの美少女ゲーム雑誌が刊行され、毎号、原画家やシナリオライターのインタビューが掲載されていたものだった。


  しかし、子どもの目にも触れるネットニュースでは、いわゆる18禁ゲームの関係者にインタビューした記事はなかなか掲載が難しい。このように、分野によっては、専門誌が休刊すると関係者のインタビューがほとんど読めなくなる可能性もあるのだ。


  最盛期の美少女ゲーム業界には樋上いたる、麻枝准、折戸伸治、みつみ美里、いとうのいぢなどの稀有なクリエイターが多数結集し、その後の漫画家やアニメーターに影響を与えた例も少なくない。専門誌がなくなると、こうした業界の功績が顧みられる機会が減少してしまうことになる。


アニメ雑誌の状況はどうなのか

  アニメ雑誌も同様である。例えば、1980年~90年代の『アニメージュ』には宮﨑駿や富野由悠季の奔放なインタビューが掲載されていた。本筋からずれる話も多く、今では掲載できない失言レベルの発言もあったものだが、それも含めて「宮崎さんらしい」「富野さんはさすがだなあ」などとファンは楽しんだものだった。クリエイターの思想や内面まで知ることが、かつてのオタクの教養の一つでもあった。


  ところで、記者は近年、様々なヒット作に関わった高名なアニメーターを立て続けに取材した。さぞや、インタビューが舞い込みまくっているのではないかと想像していたが、インタビュー依頼は来ないという。


  記者はこうした実情を知って、信じられないと思った。繰り返すようだが、30~40年前のアニメ雑誌を見ると、監督は言うまでもなく作画監督やキャラクターデザイナーのインタビューが多数掲載され、設定資料を関係者が解説するなど、これぞまさに専門誌というべきマニアックな誌面が構成されていたのだ。しかし、現在のアニメ雑誌からそうしたインタビューはほとんどなくなった。載っていてもわずかなスペースである。


  かわりに増えたのは、声優のインタビューだ。昨今のアニメ雑誌はどこも事実上の声優雑誌のような趣になっている。それはそれで声優ファンからは歓迎すべきことなのだが、監督のインタビューでは部数増に結びつかないということなのだろうか。オタクの関心の対象が変化し、制作関係者にまで関心をもつ層が減少しているようだ。


ライターはコタツ記事よりインタビューをすべきだ

  最近のライターはインタビューを積極的に行わなくなったと聞く。テレビ番組やTwitterをまとめれば、ニュースが作成できるためだ。しかもそういったお手軽な“コタツ記事”の方が、アクセス数が稼げたりするのであるし、コタツ記事はほぼ制作費がかからない。


  しかし、それでも記者がインタビューを積極的に行うのは、歴史を後世に伝えたいという思いが強いためだ。インタビューは後世の研究者がその時代や文化を研究するうえで役に立つ、貴重な証言である。記者はこれまで膨大な回数のインタビューを行ってきたが、確実に、後世の研究者が引用する証言があると自負している。


  ライターに必要なのは好奇心である。アニメや漫画を見て感動し、「この人の考えを知りたい」と思えば、アニメーターや漫画家と対面できる仕事なのだ。そして、インタビューを作成することでその感動を分かち合うことができる。なんと魅力的な仕事であろうか。意欲あるライターはぜひとも、インタビューをどんどん行って欲しいものだ。